第37話 幸子さんと幸子さん

島で産まれてずーっと島に住んでいた幸子さん(サチコ)。

昔はおてんば娘だったらしい。

一緒に島で育った、浩二さんと結婚して今も元気に暮らしている。



ある時、都会で暮らしていた武さんが、結婚してお嫁さんをつれて帰ってきた。

幸子さん(ユキコ)。


浩二さんと武さんは年齢は違うんだけど、とっても仲良しだったから、武さんが島に戻ってきてすごく嬉しかったそうだ。


家も近所だし。

武さんは幸子(サチコ)さんの事も知っている。


『なぁ、幸子(サチコ)ー。うちの幸子の事頼むよー。』

『当たり前だぁよ。でも、同じ漢字の名前だなんて不思議だねー。』

って、とても仲良くなったんだって。


今でもふたりは仲良しなんだ。

『なぁー、さっちゃーん。みっちゃんとこさ行くべ。』

って、よく誘いにくるんだって。



ボクは広場で退屈していたんだ。

カリカリも食べたし、水も飲んだし。

お昼寝もたっぷりしたしなぁ。


ごろーんってなって、アスファルトの隙間から伸びているぴょーんと長い草を手で引っ掻けて遊んでいたんだ。

草を捕まえたいんだけれど、風に揺れるし、ボクの手で押さえようと頑張っていたんだ。



『あら、ゆきちゃん。ほれ、見てみい!』

『どうした、さっちゃん。』

『これ、なんて花だったっけ?』

さっちゃんは、歩きながら持っていた杖で紫色の小さな花をツンツンとした。


『にゃー。』

(それも面白そうだ。)

ボクはゆっくりとさっちゃんが杖でつついている花のそばに近づいていった。


『あー、んと、なんだべかなあ。あれだ。』

ゆきちゃんは一生懸命思い出そうとしている。

『なー、ゆきちゃん。あの花だべなぁ。』

『そうそう、あのなんちゃらゆうやつや。』


『にゃん。』

(なんちゃら?)


『あー、疲れたわ。』

ゆきちゃんは足が痛いらしい。

『ほーか。そこ座って休憩しよか。』

『さっちゃんも休憩しよ。』

『うんうん。』


ボクはさっちゃんがツンツンしていた草を手でちょいちょいと触って遊んだ。


『アハハ、可愛いいのう。ゆきちゃん、見てみい。遊んどるわぁ。』

『可愛いいのう。さっちゃん。癒されるど。』


『ほんで、何の話しよったかいな。』

『みっちゃんとこで、なに買うかゆう話やったろ。』


『にゃん。』

(このお花の名前じゃなかったっけ?)

ボクはお花をツンツンして、まだ遊んでいた。


『ゆきちゃん、みっちゃんとこでなに買うんかぁ?』

さっちゃんはゆきちゃんに聞いている。


『いや、さっちゃんが誘いに来たから出てきたさぁ。』

『あれ?ゆきちゃんが誘いに来たから出てきたんでねぇの?』

『アハハ!違うさぁね。』

『アハハ!そぅかぁ。』


ふたりはいつもこんな感じだ。

仲良くゆっくりと歩いて買い物をしたり、散歩をしたり。



『ゆきちゃん、カラスのエンドウが咲き始めたわぁ、ほれ、のら猫のいいオモチャだわ。』

『さっちゃん、よー知っとるねぇ。』


『にゃぁお。』

(さっきは思い出そうと頑張ってたのにね。)

ボクはくねっとしたしっぽをゆっくりと左右に振った。


『あ、さっちゃん。買い物行かないとねぇ。』

『そうじゃったわぁ。ゆきちゃん、行こうか。』


ふたりは並んでゆっくりと歩き出した。


『にゃーーぁん。』

(ふたりともー、杖忘れてるよぉーー!)

ボクは大きな声で読んでみたけど、聞こえないだろうなぁ。


『アハハ!』

『ほんでなぁー。アハハ!』

さっちゃんとゆきちゃんは本当に仲良しだ。


しばらくすると二人でまた大笑いをし始めた。

『さっちゃん、杖!』

『あれっ、ゆきちゃんは杖はどした?』

『あれっ?』


思い出したようにふたりは並んで笑いながら戻ってきたんだ。

『アハハ!』

『アハハ!』

『どおりで歩きにくいと思ったわぁ。』

『足も痛いしなぁ。』

『アハハ!』


『にゃん。』

(忘れちやダメだよ、こけると危ないから。)


『ほんなら帰ろうかねぇ。』

『そうしよ、そうしよ。』


ふたりは並んで帰っていった。


『にゃん。』

(みっちゃんところ、行ってないんだけど。いいのかなあ。)


ボクは、ふたりの後ろ姿をのんびりと見送った。

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