第36話 茉菜ちゃん

学校のグランドを散歩していたんだ。

ピょーンと長く伸びた草の上を歩いていく。


鉄棒があって、タイヤがあって。


登り棒があって。


ボクはたまにタイヤの中に入るんだ。

何だか秘密基地に隠れているみたいな気分になって、のんびりとできるんだ。



「あっ、みーつけたっ!」

茉菜ちゃんに見つかっちゃった。


「あら、お嬢様。今日のご予定は?」


茉菜ちゃんはボクの事を(お嬢様)と呼ぶんだ。

何でかはわからない。


「にゃーーぁん。」

(とくに決めていないんだけど。)


ボクはゆっくりと歩いて移動する。

「あら、お嬢様。どちらへ?」

と、ボクの真似をしながら付いてくるんだ。


「にゃーーぁん。」

(のんびりとできる場所へ。)


ボクはまた、ピょーンと長く伸びた草の上を歩いて移動する。


「ねぇ、お嬢様。どこに行くのか教えてよぉ。あー、草が痒い!」


茉菜ちゃんは白いスカートをはいていて、葉っぱが足に当たるみたいだ。


「にゃー。」

(痒いの?)


仕方ないので、ボクは長く伸びた草の上を歩くのをやめた。


でも、ボクは鉄棒や登り棒では遊べない。

ツルツルしているし。


「ねぇ、お嬢様。綺麗なお花が咲いてますわよ!オホホホホ!」


「にゃぁお。」

(なぁに、そのオホホホホって。)


ボクは茉菜ちゃんが指差す方向に目を向けた。

確かに、綺麗なお花だ。

「にゃん。」

(面白そうだ!)


「お嬢様、参りましょ!」

茉菜ちゃんに誘われるとおりについていく。


「お嬢様、こちらはチューリップという花でございます!」

学校の授業で習ったようだ。


「にゃ。」

(可愛いね。)


「キレイですよねー、お嬢様。」

茉菜ちゃんは嬉しそうに笑っている。


「おーい、茉菜ー、何してるんだ?」

山内さんちの寛太くんだ!

「お嬢様ごっこ!」

「お嬢様ごっこ?なんだぁそれ!変なの!」

「いいの!楽しいんだから。」

「それよりさぁ、鉄棒で遊ぼうよ!」

「えー、私今、お嬢様ごっこを楽しんでるとこやのにぃ。」

「おれが、凄い技を見せてやる!」

「どーせ、飛行機ー!とかやるだけでしょ!この前みたいにズボン破けて、お母さんに叱られるよー!」

茉菜ちゃんは笑いながら言った。

「今日は破れません!」


「にゃーーぁん。」

(お嬢様ごっこはおしまいっ!またね!)


ボクは走ってグランドの反対側へと向かった。


「あー、お嬢様ー!」

茉菜ちゃんの声がグランドに響いたけど。

「なぁー、茉菜ー、見てくれよ!」

寛太くんの呼ぶ声がして、茉菜ちゃんは鉄棒の方へと走っていった。


「なー、すげーだろ?」

「えー、この前の方が良かったー。」

なんて、寛太くんと茉菜ちゃんの楽しそうな声がずーっと聞こえてきていた。

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