第24話 お空の虹

いつものら猫達が集まる広場。

暇な時にはフラりと足を運ぶんだ。

いつも真ん中には(師匠)が寝っ転がって、大きなしっほを振って挨拶をしてくれる。


『にゃーん。』

(師匠、こんにちわ!)

『にゃ。』

(おぉ、若けぇーのか。)


師匠の声が掠れている。

『にゃ。』

(師匠、どしたの?)

『にやーーー。』

(心配はいらんぞ。もー、わしも年だから。)


何だか師匠の元気がない。

ボクは広場の隅に置いてあるカリカリをいくつか咥えて、師匠の所に持っていって顔の前に置いたんだ。


すると、師匠は頭を上げて、ボクが置いたカリカリを食べたんだ。

『にゃーん。』

(師匠お腹空いてるの?)

『にゃ。』

(あぁ、少しだけな。最近そんなに食べれないから。)

『にゃん。』

(もう少し取ってくるよ!)

と、ボクはまたカリカリを咥えて師匠の口の前に置いたんだ。

『にゃ。』

(すまんな。これでお腹いっぱいだ。)

と、頭を上げてまたカリカリを少し食べた。


どうしたんだろう。

師匠はいつもたくさん食べて、いつもぐでーんって寝転んでいたのに。


そういえば、最近師匠はいつもここにいる。

同じ場所から動いていないのかなぁ。

ボクは心配になって聞いてみたんだ。


『にゃーーーん。』

(師匠、どこか痛いの?動けないの?)

『にゃーん。』

(もう、あまり動けないんだ。ま、若けぇのは心配する事はないぞ。)


と、師匠は大きなしっぽを振った。


(そんな事言われても、心配だよぉ。)

ボクは今夜は師匠の側で眠る事にした。


『にゃーん。』

(おい、若けぇの。暗くなっちまったから、寝る所に行きな。)

と、何だか元気のない師匠の声だった。


『にゃーん。』

(今日はここで眠るよ!ボクは決めたんだ。)

『にゃ。』

(そうか。風邪ひくなよ、朝方は冷えるぞ。)

『にゃ。』

(うん、大丈夫だよ!ねっ?)

と言って、ボクは師匠にぴっとりとくっついたんだ。

『んにゃ。』

(ったく。。。バカだなぁ。)

と、師匠はめんどくさそうに言った。


それでもボクは師匠にぴっとりとくっついたまんま眠ったんだ。

朝方になると、師匠が言ったとおりだったよ。地面が冷たくってボクは目が覚めてしまったんだ。

師匠はぐでーんって、なったまんま眠ってたから、ボクは横でクルリとまわって、丸くなってまた眠ったんだ。


ボクが目を覚まして、うーんって延びをして。

『にゃーん。』

(師匠、おはよう)

って挨拶をしたんだ。

『。。。』

ん?師匠まだ寝てるのかなぁ。

『にゃーん。』

『。。。』

ボクは鼻の先でツンツンって、師匠の顔をつついていたずらをしたのだけれど。

『。。。』

師匠は返信をしてくれないんだ。

何だか不安になって、チョンチョンって前足で触ってみたのだけれど。

師匠は何も言ってくれないんだ。


何度も鳴いたし、何度も顔を覗いたんだけど、返事もしてくれないし、目を開けてくれないんだ。

仕方がないから、また師匠にぴっとりとくっついて横になってみたんだ。


何だか師匠の体はとても冷たかったんだ。

いつもは、とても温かいのに。

今はとても冷たいんだ。


『にゃーーーーぉ。』

『にゃーーーーぉ。』

(誰か、師匠が!)


ボクの鳴き声を聞いて、のら猫仲間が広場にやって来た。

『にゃーーーん。』

(どうしたの?師匠?)

『にゃ。』

(師匠?体が冷たいね。)


『にゃーーーーん。』

(師匠!師匠!)


そして、誰かが言った。

『にゃぁぉ。』

(師匠は虹の橋を渡っちゃんだ。。。)


前にも同じようなのら猫がいたんだって。

体が冷たくなって、起きなくなって。

島の人が見つけてくれたんだけど。

『あー、可愛そうに。死んでしまった。』

って、泣いてたんだって。


『にゃぁぉ。』

(師匠も死んでしまったの?ボクがもっと温めてあげれば良かったのかなぁ。)

ボクは悲しくなって泣いたんだ。

『にゃーーーーぉん。にゃーーーーぉん。』

『にゃぁぉ。』

(お前のせいじゃないさ。仕方がない事なんだよ。師匠はとても長生きしたし。お前が一緒に居てくれて嬉しかったと思うよ。)


ボクはいっぱい泣いた。

『にゃーーーーぉん。にゃーーーーぉん。』

(師匠ー!師匠ー!)

お空の虹の橋を渡ったら、どこに行くの?

そこはどんな所なの?寂しくないの?


『にゃーーーーぉ。』

(大丈夫だよ。お空の虹の橋を渡ったら、仲間もたくさんいるのよ。今まで痛かった所も痛くなくなって、自由に走り回れるのよ!)


『にゃーーーーぉ。』

(師匠は、お空の虹の橋の向こうで自由に走り回ってるの?)

『にゃ。』

(多分ね。そんなに泣いてたら、師匠が心配しちゃうよ!)


『にゃ。』

(そっか。そっか。そっかぁ。)



ボクは、冷たくなって横になったままの師匠の横に座っていた。

広場を通りかかった漁師のおじさんがボクを見つけて声をかけてくれたんだ。


『あれぇ、のら。ジーッと座ってどしたー?遊んでんのかぁ?』

と、ボクの頭を撫でて、師匠の頭も撫でた。


『あれっ?クロ、どしたぁ?あれ?』

漁師のおじさんが気づいてくれた。

島の人を呼んで、話をしている。

『クロが死んでしまったわぁ。』

と、段ボールとバスタオルを持ってやって来た。


ボクは少し離れた所からじっと見守っていた。


師匠はそーっとバスタオルに包まれて、段ボールに入れられてどこかへ連れていかれた。


『にゃーーーん。』

(お空の虹の橋を渡る準備をしてくれてるのよ。)

と、仲間は慰めてくれた。


ボクは師匠が寝ていた場所の匂いを嗅いだ。

まだ師匠の匂いが残っていた。

丸くなって踞った。

ボクは暫くそこから動かなかった。


師匠、お空の虹の橋を渡った向こうには何が見えるの?

いつかまた会えるのかなぁ。



青い空を見上げて、今でも時々思い出すよ。

『にゃん。』

(おい、若けぇーの!)

って、また呼んでほしいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る