第23話 結ちゃんが来る
ボクは黒田さんにかつおぶしを貰って、ご機嫌に遊んでもらってたんだ。
(がらがらがらーーー)
と扉が開く音がして、ボクはびっくりしてぴゅーーーーっと、黒田さんの部屋の隅っこに走って逃げたんだ。
古い引き戸の玄関は音が大きいから。
すると、
『おじゃましますぅーーー』
と言いながら、細田さんが黒田さんの家に入ってきた。
黒田さんは、ボクみたいにびっくりする事もなく話かけている。
『あら、由紀子さん。ご飯食べた?』
島の人は鍵もめったにかけないから、当たり前のように会話は進むんだ。
『んにゃー、後でなんか軽くたべるかなぁーって』
『ほんなら、一緒に食べよぅさ。昨日の残り物やけんどぉ。』
『あら、そぉーー?』
細田さんの登場で、ボクの存在は忘れられてしまったか。。。
ボクはコロの傍にそっと近づいて行った。
『バゥッ』
(お前、退屈になったからこっち来たんだろう。)
『にゃん。』
(いいじゃないかぁ。)
プイッとコロは顔を反対に向けてシッポをひと振りした。
ボクは毛繕いをして、コロから少し離れた所で丸くなって、黒田さん達を見ていたんだ。
『由紀子さん、良かったなぁー。』
残り物の煮物を口に運びながら、黒田さんは大きな声をだしていた。
『良かったんだかなぁ。ほらぁ、前の奥さんの事もあるし。』
『あー、可奈さんだったけなぁー?何だか、あの人は私達とも顔をあんまり会わさなかったもんなぁーー』
熱いお茶を湯呑みに注ぎながら、黒田さんは少し渋い顔をしている。
(ボクの知らない人の話かなぁ。)
ボクは前足の先をペロペロと舐めた。
『けどなぁ、勇二が言うには可奈さんとは違うから大丈夫だろうって。あの子失敗しとるから、慎重に考えたんだろうなぁ。6年くらい付き合ってるんだと。』
『ほぉー、6年も!ほぃじゃぁ、どんな人かわかっとるだろうさ。』
黒田さんは、たくあんをつまみながらお茶を飲んでいる。
『ほんでなぁ、娘がおるんやとぉ。』
『あらぁ、じゃあ相手さんも一回離婚したんかぁー。由紀子さん、いきなり孫ができたんかぁ。』
『大丈夫かなぁーって心配でぇ。また愛想が悪い嫁連れてきたり孫連れてきたり、勇二は本当に困った奴でえのぉ。』
『いやぁ、由紀子さん!とりあえず勇二さんがこっちに住んでくれるんだから、喜んで迎えいれてやったらぁ?良い嫁さんかもしれんど?』
『ほーかねぇーーー』
と、細田さんは不安そうに黒田さんとお話してたっけな。
暫くして細田さんのお家に勇二さんが帰ってきたんだ。
瑠璃さんと結ちゃんが、船に酔って大変だったって、嬉しそうに黒田さんとお話してたなぁ。
『瑠璃さんは料理は出来ないけどぉ、他の事は手伝ってくれるし、結ちゃんは可愛いんだわぁー』
って嬉しそうだった。
黒田さんも言ってた。
『うーん!ここにもふたりで来て、コロと遊んで、優しそうな人やなぃのぉ!』
って島の噂になったんだ。
だから、ボクも巡回しに細田さんのお家に行ってみたんだ。
窓のところで瑠璃さんと結ちゃんがお話ししながらボクの事を見て何か嬉しそうに笑ってた。
そして、ボクの事を呼んだんだ!
『オッド!おいでーーーー!』
って。
その時、また名前が1つ増えたんだ。
(オッド)。カッコいいだろ?
それから結ちゃんとも、瑠璃さんともたくさんお話しして大好きになったんだ。
ただ、結ちゃんの事を助けてあげられなかったのが残念だったな。
あの日から、ボクは勇二さんの事があんまり好きじゃなくなったんだ。
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