第19話 友美さん

友美さんは最近この島に戻ってきたんだ。

何だか仕事で疲れちゃって、病気になっちゃったらしい。

島田さんとお隣の近藤さんがお庭で話をしているのをボクは聞いちゃったんだ。


『友美ちゃん、大丈夫かぃ?』

近藤さんが心配そうに聞いている。

『ぃやー、それがね。あの子あんまり喋れねぇんだわ。だから、よくわかんなくてぇ』

友美さんは島田さんの娘さんらしい。


『で、いつ帰ってくんの?』

『ん、明日くらいって言ってたけど。調子悪いと船に乗るのが怖いんだと。』

『私が元気なら、向こうまで迎えに行けるんだけども。』

『あんたまで無理したら、友美ちゃんゆっくり休めないよぉ。』

『だなぁ。。。』

ってお話してたんだ。



ある日ボクは池ちゃんの畑の横に止めてあるトラックの下で寝ていたんだ。

池ちゃん夫婦もお家でお昼ご飯食べてたし。


そしたら、知らないお姉さんが歩いていたんだ。

髪の毛を後ろで結んでいて、そこにボクのオモチャに似たような丸いフワフワしたボールが付いていたんだ。

ボクは、その丸いフワフワしたボールが気になって、ゆっくりとトラックの下から顔を出してみたんだ。


そしたら、そのお姉さんがトラックの下にいるボクに気付いて覗き込んだんだ。

ボクはビックリして、トラックの下から飛び出ちゃったよ。


そしたらお姉さんが

『あら、ごめんね、ビックリしちゃった?』

って、優しい声で言ってくれた。

ボクはどうしたらいいのかわからなくって、しばらくそのまま座っていたんだ。


『お名前はなんていうの?』

って聞かれたんだけど。

『ぁうー。』

(たくさんありすぎてわからないよ。)

ちょっと困って返事をしたんだ。


『ぁうー。可愛いい声だね。』

(ん?今、ボクの真似をしたの?)

『ぁうー。』

もう一回、同じ返事をしたんだ。


『ぁうー。怖くないから、こっちおいで!』

と、お姉さんはその場で座ってくれた。


(?!やっぱり?!ボクの真似をしてる!)

『にゃぁ。』

(ホントに怖くない?)

ボクは一歩だけお姉さんに近づいてみたんだ。


『にゃぁ。ほら、おいでよ!』

と、白くて綺麗な手をボクの方に伸ばしてきたんだ。


『にゃぁ。』

(こんにちわ)

ボクは少しずつ近づいて、お姉さんの手の匂いをクンクンと嗅いだ。


『こんにちわ、私は友美っていうんだ。』

とお姉さんはボクに言った。

(あ、島田さんのところの!)


『にゃぁ。』

(お姉さん、元気になったの?)

と話しかけてみたけれど、友美さんは、何も言わずにだまってボクを見ているんだ。


ボクは友美さんの手に、チョンと鼻をくっつけて見たら、嬉しそうに微笑んでくれたんだ。


『この島に帰ってきて良かったな。君に会えたし。空気はキレイだし。』

友美さんはふふっと少しだけ笑ったんだ。


『にゃぁ。』

(すぐに元気になるよ!お髭先生もいるしね!)

『君は可愛いいにゃー。』

と友美さんはそーっとボクの事を撫でてくれたんだ。

優しい撫で方で、ボクは友美さんの事が大好きになったよ!


『にゃぁ。』

とボクは友美さんの手に首を擦り付けて甘えてみたんだ。


『あら、君は甘えん坊だねぇ。可愛い!』

って、しばらくボクの事を撫でてくれたんだ。


ボクの名前がまたひとつ増えたんだ。

(君。)

友美さんはボクに会うといつも言ってくれるんだ。

『君は可愛いいにゃー。』

って。


自慢のくねっと曲がったしっぽをフリフリしちゃうくらい、何だか嬉しくなるんだ。

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