第17話 梅さん

島には可愛いいお婆ちゃんがたくさんいるんだ。のんびりと流れる島の時間は、そんなお婆ちゃん達が作ってくれているのかもしれないな。


梅さんは、背が低くて腰が前に曲がっているんだ。

帽子が好きで、夏には麦わら帽子をかぶり、冬には毛糸の帽子をかぶって外に出る。


ずーっと畑仕事をしてきたから、曲がっちゃったんだよって、師匠がお話してくれたなぁ。


だから梅さんは、小さなタイヤが4つついた、四角い箱を押しながらいつも歩いている。


今日はみっちゃんのところにお買い物に来たようだ。

『みっちゃーん!』

『はぁーい!あれ、梅さんでねぇの。』

『この前の電球、交換できたかぁ?』

この前は電球が切れて、トイレが暗くて困ってるって言ってたなぁ。


『んー、電話したら美幸さんが来てくれてぇ、付けてくれて助かったぁー』

『そりゃ、良かったねぇー。トイレが暗いと困るべさぁ。』

『そーさ、仕方ねぇから扉開けて用を足したぁわ。』

『アハハハハハ!うちなんて、電球切れてなくても、扉あけてするけどなぁーーー。』


みっちゃんと梅さんは大きな声で笑っている。

ボクは扉がある所でしたことないけどなぁ。



『ハハハハハハ!そーかぁー!お客さんきたら、どーすんだ?』

『アハハー、ちーと待ってねーって言うだけさぁ。』

アハハハハハ!


あまりにも楽しそうな笑い声なので、ボクはみっちゃんのお店の入り口で寝転んで聞く事にした。

曲がったしっぽを時々動かしながらね。


『ほんで、梅さん、今日は探し物かい?』

『あぁ、えと、なんやったかな。』


(おっ、梅さんも始まるのか?)

ボクは少し耳をピンと立てた。


『まぁ、梅さん、ゆっくり思い出したらええさ。品物見てまわってたら思い出すかもだぁ。』

『そぅさね、最近忘れるからメモ書くんだけど。そのメモを持ってくるの忘れてなぁー』

『アハハハハハ、みーんな一緒だわぁ。』


梅さんは、押して来た四角い箱をお店の中の椅子の近くに置いた。

そして、両手を後ろに組んで、みっちゃんのお店の中を歩いてまわる。


『みっちゃん、このかりんとう買うから。それとー、まだ見てまわるから待ってなぁ。』

『はいはい、かりんとうはこっちさ置いとくよ!』

『ありがとねぇ。はれぇ、いつもの私が好きなやつなんだったかなぁ。。。』


梅さんは一生懸命探しているんだけど、見つからないみたい。


『アハハ、そりゃー梅さん!そこにはないわー!ハハハ、そこはペット用のおやつの場所だから!』

『アハハハハハ!あぶねぇなぁー。みっちゃんが教えてくれなかったら、買って帰って食べてしまうところだったわ!』


(そんな時は呼んでよ!ボクが代わりに食べて上げるよー!)


『梅さんが好きなのは、あれさぁー。あのー、ほれ。名前が。』

『みっちゃんも一緒じゃねぇー。』

アハハハハハー。

またふたりで笑っている。


みっちゃんは、梅さんが立っている反対側の通路にまわって品物を手にして見せた。

『これだ!鈴カステラ!』

『あぁー、それそれ!それ、2つちょうだいな。』

『2つねー。』

『あ!そうそう、思い出したぁー!あの、ハイターさ!湯呑みの茶渋を取るやつ!』

『あー、これね!重いよぉー?』

『ん、手押し車の中に入れて押すから大丈夫だぁ。』


(無事に買い物ができてよかったなぁ。。。)

ボクはうーーんと伸びをして、ゆっくりと歩き出した。



その頃、お店の中では。

『あれぇ、私の手押し車どこ置いてきたかなぁ。』

とまた探し物が始まっていたようだ。

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