第15話 迷子

ある日、ボクは消防署の裏でお昼寝してたんだけど。

『にゃぁ。』

って、とーっても小さな鳴き声が聞こえたんだ。


ボクがお昼寝してた所は、ボクが立つと目の高さまである草がたくさん生えているんだ。

だから、その鳴き声が誰なのか、どこから聞こえるのかもすぐにはわからなくて。


『にぁ。』

(あっ、また聞こえたぞ!どこだ?)

少し首を伸ばして、辺りを見回してみた。

『にぁ。』

(ん?)

と、声が聞こえる方に少しずつ近づいてみたんだ。

『にぁ。』

(よし、こっちで合ってる!声が近いぞ!)

カサカサとボクの足音は鳴っていたけど、鳴き声は逃げて行かない。


『にぁ。』

(あ、いた!)

『にゃぁ。』

(どうしたの?お母さんはどこ?)

とっても小さな子猫ちゃんだ。

何だか、そんな歌があるような事を聞いたような気もするが。。。。。

『にゃー。』

(お母さんとはぐれちゃったの?)

ボクも昔、気がついたらひとりになっていたから。ボクは君の事をほおって置けない。


『にゃあーーーぉ!』

頑張って、ちょっぴり大きな声を出して、お母さんを探してあげようって決めたんだ。

『にゃあーーーーぉ!』

何度か繰り返して鳴いてみた。


ガサガサ、ガサガサ。

少し向こうから一匹のネコがやって来た。

ボクは少し警戒して、首をすぼめて、耳をピーンと立てて音のする方をみていたんだ。


『にぁぁ。』

(何か呼んだ?)

白くて毛がふわっとしたネコだった。

『にぁぁ。』

(あら、こんなとこにいたの?良かった。)

と、小さな子猫ちゃんを見つけてペロペロと舐め始めた。

『にぁ。』

(あー良かった。ボクは安心したよ!)

『にゃぁ。』

(教えてくれてありがとう。この子はまだまだ一緒にいなきゃダメなのよ。)


愛おしそうに、ペロペロと子猫ちゃんを舐めている。

ボクは少し羨ましく思ったけど。

ボクもあんな風にしてもらってたのかな。


『にゃぁ。』

(してもらったはずよ!みんな自分の子供は可愛いいものだから。)

その白いふわっとした母親ネコはボクに話をしてくれた。


今までもたくさん子猫を産んで、たくさん可愛がって、みんな大きくなって島のどこかで元気にしてるのよ!って、優しい声で話をしてくれたんだ。

とても心地のいい声だ。


『にゃぁ。』

(きっとあなたもおんなじよ。教えてくれてありがとう!)

とボクに言って、子猫ちゃんを咥えて連れていった。

そして、その母親ネコのお尻には黒くて丸い模様があった。




(そうか。ボクにもあんな頃があったなぁ。)

その白いふわっとした毛のネコが居なくなった後、何だか懐かしい匂いがしたんだ。

随分遠い昔に嗅いだ事があるような。。。

ん?お尻の黒くて丸い模様。

ボクのお尻の黒い丸はちっちゃいけど。


あの優しい声。

懐かしい匂い。

黒くて丸い模様。

追いかけようとも思ったけど。


ボクは行かなかった。

今は小さな子猫ちゃん達のお母さんだから。


また、会えるといいな。

また、会いたいな。

ボクは全身をブルブルっと震わせて、

撫でてくれそうな人を探しに巡回に出た。

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