第14話 師匠
のら猫の集いの場所の横を通りすぎる。
ふと見ると、(師匠)が退屈そうに寝転がっている。
『にゃーー』
(おぃ、そこの若けーの!)
低いしゃがれた声でボクは呼び止められたようだ。
『にぁ。』
ゆっくりと、そーっと近づいてみる。
師匠は自慢の太いシッポをふりふりとしながら、横目でボクが側に来るのを見ている。
(ボクは怒られるような事、してないんだけど。)
様子を見ながら、1歩、また1歩と歩みよった。
『にゃー』
(そんなに怖がるなよ)
『にゃぁー』
(師匠、なぁに?)
どうやら師匠は暇だから、話し相手が欲しかったようだ。
師匠は島の事を良く知っている。
そりゃー、人間には負けちゃうけど。
ボクは師匠の横にちょこんと座った。
『にゃー』
(雪って知ってるか?)
『にゃーー』
(雪?あの、白くてヒラヒラと空から降ってくるやつ?)
『にゃ。』
(その雪が積もった事があるんだ。)
この島も冬はやっぱり寒くて、雪は降る。
ボクは雪を見たことはあるけれど、積もったのを見たことはまだない。
雪が積もると、畑や田んぼも、アスファルトもお家の屋根も真っ白になるそうだ。
師匠はその日の話をしてくれた。
とても寒いから、最初は吉田のばーちゃんの家にいたらしい。
でも、お外があまりにも真っ白でキレイだったんだって。
師匠はどうしても、その真っ白いところを歩きたくなって思いきって外に出てみたそうだ。
白い絨毯のように広がった雪の上を歩くと
、(サクッ)って小さな音が鳴るんだって。
何歩か歩いて振り替えると、肉球の後が残ってて、楽しくなって少し走ってみたんだと。
だけど、すっごく足が冷たくて我慢できなくなって、また吉田のばーちゃんの家に戻ったらしい。
冷えた足がジンジンと痛くって、ストーブの前から動けなかったから、もう雪の上を歩くのはやめたってさ。
(冷たいってもんじゃなかったぞー)
と、師匠の低いしゃがれ声が笑っているように聞こえた。
『にゃー』
(今日みたいに寒い夜だったから、もしかしたら雪が降るかもしれないぞ)
師匠は少し空を見上げて言った。
(凄いなぁ、師匠!雪の絨毯なんてボクは見たことないよー)
羨ましいけど、寒いのは苦手だなぁ。
『にゃ。』
ボクは師匠に少しくっついて、体を丸くした。
(あー師匠は大きくて温かい。)
しばらくすると空から雪が降ってきた。
『にゃぁ。』
(師匠、雪だ!積もるかなぁ?)
『にゃ。』
(さぁ、どうかな。今夜は暖かいところで寝た方がいいな。)
するとボクの顔の前に大きな雪がヒラヒラと降りてきた。
そして、ボクの鼻の上に乗ったんだ。
(うぁー、キレイ!)
あっという間にとけちゃったけど。
鼻に乗った雪を見ているボクの目が寄り目になっていたのが面白いらしい。
師匠は、低い声で鳴いた。
『にゃー』
(おぃ、若けぇの、面白い顔してるぞ)
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