第11話 権田のじぃーちゃん

『ほれぇ、白猫ー。』

庭を歩いていると、権田のじぃーちゃんに声をかけられたので立ち止まってみた。


ここでのボクの名前は(白猫)。

見たまんまだ。

権田のじーちゃんは、ばぁーちゃんとふたりで暮らしている。


ここで、時々ヘルパーの美幸さんにも会うのだけれど。

美幸さんは

『あれ、チョロ。今日は権田さん家の見回りかい?』

って声をかけてくる。


そしていつも、権田のじーちゃんは

『ほれぇ、白猫さ、これあげてくれ』

って、煮干しを3つくらい美幸さんに渡すんだ。


もう、(チョロ)だか(白猫)だか迷ってしまうんだけど。

(ま、いっか。)

ボクは島に住んでるのら猫だから。

食べ物と、寝るところがあればそれでいい。


権田のじーちゃんとばーちゃんの話は時々とても面白い。

庭を散歩していると、大きなテレビの音が聞こえてくる。

ふたりとも耳が遠いから、同じ部屋にいるのに大きな声で話すんだ。

『ばーさん、なんか饅頭でもあったかのぉ?』

と権田のじーちゃんが横にいるばーちゃんに尋ねる。

『。。。』

聞こえてないらしい。

『ばーさん、なんか饅頭でもあったかのぉ?』

権田のじーちゃんは、さっきより大きな声を出して尋ねてみた。

『なにぃ、じーちゃんは!そんなに大きな声で話したら、ビックリするどぉ。』

と、ばーちゃんに叱られてしまった。

『あ、あぁ。饅頭。』

権田のじーちゃんは少し困った顔をしている。

『饅頭?ちと、待ってよ。』

ばーちゃんはテーブルに手を付きながら

(よっこいしょ)と立ち上がって台所へ行った。


『これしかないわぁ、今度、みっちゃんとこで買い物しとくわなぁ。』

ばーちゃんがかりんとうを持ってきた。

『か、かりんとうかぁ。あぁ。』

仕方なく、権田のじーちゃんはかりんとうを食べ始めた。

しばらくここでのんびりしようかな。

ボクは庭の物干しの横に寝っ転がった。


権田のじーちゃんは、ひとつ、またひとつ。

かりんとうを食べているが。

(ゴホゴホ!!!)


ボクはびっくりして頭をあげた。

権田のじーちゃんは、かりんとうが喉に引っ掛かったらしい。

ばーちゃんは、耳が遠いから聞こえない。


ボクは起き上がって、縁側に登った。

すると、ばーちゃんはボクを見つけて、にっこり微笑んだ。

『じーちゃん、ほら、今日は白猫が遊びにきとるで。』

と権田のじーちゃんを見て声をかける。

(ゴホゴホ。。)と、辛そうな権田のじーちゃんに、ばーちゃんが気づいた!

『あら、じーちゃん、大丈夫かぁ!』

と苦しそうなじーちゃんに気づいて背中をポンポンと叩いてあげた。


(ゴホゴホ!。。。んぁーーー)

『苦しかったぁーーー』

と権田のじーちゃんが大きな声で言った時に、口からポーンとボクのそばに何か飛んできたんだ。

(うわぁ!)

ぴょーんとボクは少し跳んだ。

そして、ボクのいた場所に飛んできたのは。


権田のじーちゃんの入れ歯だった。

『アハハハハーーー!じーちゃん、気を付けてぇ。入れ歯、飛ばしてからぁ!』

笑いながらばーちゃんは言ってたけど。

『危なかったぁーーー。つっかえたわぁ。』

権田のじーちゃんは苦しかったようだ。



ボクはのんびりとできる場所を探して、てくてくと歩きだした。

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