第9話 食堂の哲さん

島にある食堂には、役場や消防署で働く人がお昼にやってくる。


だいたいお昼の12時になると、島の皆は休憩時間になるんだ。

のんびりとした島だから、消防署やお巡りさんも忙しくはない。


家に帰ってご飯を食べる人もいるけれど、

哲さんがやっている食堂は賑やかだ。

漁師さん達が釣ってきた魚や自分の畑で取れた野菜を美味しくしてくれるんだって!


『おっ、またおめぇか。朝早くから、おめぇもご苦労さんだこと。』

ここでのボクの名前は(おめぇ)。

哲さんはちょっとばかし、口が悪い。


初めて声をかけられた時、ボクは怖くて肩をすくめて動けなかったんだ。

『おめぇ、のら猫か。まーた、増えちまったかぁーー。』

哲さんは髪の毛は角刈りで頭にはちまきを巻いている。

白いヨレヨレのTシャツにダボダボのジーンズ、白い長靴をはいている。

まるで漁師さんみたいなんだ。


哲さんは、肩をすくめてじっとしているボクを見て、お店の中に入っていった。

(あー、怖かった。。。)

と思ったら、何やら小さなお皿を持っていた。

『ほれっ、おめぇ。こっちさおいで。なーんも、怖くねぇから。』

とお店の前の椅子に座った。

『ほれっ、やらかいど。』

と淵が少し欠けたお皿を地面に置いてくれた。

お店のお料理に使う出汁を取ったあとの煮干しだ。

ボクは哲さんの顔を見ながら、頭を低くして少しずつ近づいていった。

『遠慮なんかいらん、おめぇのだから。』

(こいつは、ちーと、怖がりだの。)

哲さんの心の声が聞こえた。


(ボクは、こ、怖がりなんかじゃ、な、ないぞ。慣れれば、、へっちゃら、だよ。。)

と勇気を出して、その柔らかい煮干しをペロペロと食べた。まだ、ほんのりと温かい。


ボクが煮干しを食べ始めた様子を見て、哲さんは白くて細長い物を口に加えた。

そして、手に持っている小さな色のついた四角い物をカチッと押した。

(うわぁ!)

ボクは少しびっくりして小さくなった。

シュッと音が聞こえて、口に加えた細長い物に赤い物を近づけると大きく息を吸い込んだ。

『はぁー、空気もうまいし、タバコもうまい!!』


今度は、哲さんは白い煙を口からふぅーーーっと吐き出した。


(。。。哲さんは魔法使いなんだ。。。)

ボクは柔らかい煮干しを食べ終えて、お皿をキレイにペロペロとなめた。

『おめぇ、キレイに食べるなぁ。忙しい時は皿洗いでもしに来てくれるか?』

ハッハッハーーー!

哲さんは笑っていた。


『そろそろ準備しねぇとな!仕事すっど。』

と哲さんが立ち上がった。


哲さんのお店の前には座布団を置いた椅子がいくつか置いてある。

ボクは1番端っこの椅子に飛び乗った。


『よっ、いらっしゃい!』

『哲さん、唐揚げ定食!』

『また、唐揚げかぁ!同じもんばっか食ってるから、そんな腹になっちまうんだど!』

『哲さんが、ご飯山盛りにして残すなよ!って言うからだろぅよ!』

ハッハッハーーー!!


賑やかなお店だ。

『よっ、いらっしゃい!』

また、島の人達が哲さんのご飯を食べにやってきた。


(魔法使いは哲さんだけじゃなかった。。。)

哲さんのお店に入る前に椅子に座って白い煙を口から吐き出す魔法を他のおじさんもしていた。

そして、哲さんのご飯を食べた後も、魔法を使っていた。


ただ、その魔法使いの煙はとても臭くて、

ボクは逃げたした。

なんだ、あの魔法は。臭くなければ、もう少し見ていられるんだけど。


ボクはぐーーんと伸びをして、ゆっくりと歩きだした。


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