第2話 細田さんの家

まだ、瑠璃さんや結ちゃんが引っ越しして来る前だったかな。

きっとボクはまだとても小さかったから、記憶はハッキリとはしない。


気持ちの良い風が吹いていた日に、とても大きくて白いお家を見つけたんだ。

他に大きなお家も島にはあるけれど、細田さんのお家はとびきり大きく見える。


お庭もあって、大きな大きな木が植えられているんだ。

春には綺麗なピンク色の花が咲いて、風が吹くと花びらがヒラヒラと舞って落ちてくるんだ。首をうーんと上に向けると、とーっても綺麗に見えたんだ。

柔らかいお花の香りも風と一緒に漂ってくるんだ。

ただ気を付けないと、下に落ちた花びらが足の裏にくっついてしばらく気持ちが悪い。


『あら、オチビちゃん!』

ここでのボクの名前は(オチビちゃん)。

まだ、ボクはとっても小さかったから。細田のお母さんがつけてくれた。

お義父さんが亡くなって、寂しかったみたいだ。

ボクは時々、こっそりと庭をお散歩するのだけれど。細田のお母さんは泣いていた。

お庭の木を見ながら、懐かしそうに眺めていたのだけれど。細田のお母さんのほっぺが濡れていたんだ。

(それは涙だ。人間は悲しい時や嬉しい時に涙が出るんだと。)

と、師匠が教えてくれた。


『オチビちゃん、かつおぶしあげようか?』

『にゃぁ』

(ちょっと貰おうかなぁ。。。)

ボクは小さな返事をした。


細田のお母さんは手のひらにかつおぶしをのせてくれた。

ボクは少しずつペロペロとかつおぶしを食べていると、ふわぁーと風が吹いてきた。

ボクのかつおぶしが飛ばされた!

『あらららららー。飛んじゃつたねぇ、フフフフフッ』

細田のお母さん、笑ってくれたのは嬉しいけれど、ボクのかつおぶしは手のひらに1枚残っただけだよー。

仕方ないから、風で飛ばされたかつをぶしを追っかけて捕まえたけどね。


それ以来、ボクは細田のお家をよく散歩するようになった。

庭もガレージもあって、とっても広いから。

雨の日は仲間もたくさん集まってくるんだ。


ただね。

綺麗なピンク色の花びらが散ってしまった後には、緑色の葉っぱがたくさん残るんだ。

風が吹くとざわざわと葉っぱが音を立てて揺れるんだけど。

その葉っぱには、何だかトゲトゲした服を着たひょろ長い虫がくっついていて、時々落っこちてくる。


(あーー、思い出すだけでもキモチが悪い。)

ボクはあいつらが苦手だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る