これまでの宣伝ニンジャー・ハヤブサ

 ニンジャーとは、忍者とレンジャーの技術を併せもつ最強のビジネスソルジャーである。


 光照らすところ影あり。


 正義のニンジャー軍団、<イーガ衆>。

 悪徳の超複合企業体スーパーコングロマリット、<コーガ衆>。

 二つのニンジャー組織は相克しあい鎬を削る、まさに因縁ある光と影の関係であった。


 時は現在。仮想と現実が混じり合い、文明の灯とネットが世界を覆い尽くし、ニンジャーなど都市伝説かオトギファンタジーの存在になった時代……。


 両者の戦いは人知の及ばない闇のなか、激化の一途を辿っていた。

 そんなおり、超覇権大国<合衆連邦>が極秘裏に開発したネットを渡り情報を自在に操る超AIプログラム<DAN―ZO>が、コーガによって強奪されてしまう。


 いろんなイリーガルなことに悪用されてしまうのは明らか。このままでは世界がヤバイ!

 そこへ<DAN―ZO>奪還のため、イーガが誇る世界最強のAAAクラスニンジャー、隼レンキ(広告会社勤務)に指令が下る。


『クライアントは<合衆連邦>。超法規的権限を与える。手段は問わない。目標を奪還せよ』


 世界をまたにかけるワールドミッションが開始された。


 数々の戦いと修羅場(異性トラブル含む)をくぐり抜け、隼は事件の首謀者を突き止める。

 犯人の正体はなんと同じイーガのAAAクラスニンジャー、モモチ・ザンダーユウだった!

 モモチは組織の重鎮であり、隼にとって叔父のような存在。前職はマナー講師。今回の任務を影ながらサポートもしてくれた。そして今は亡き父ソウキの親友だった男。


「なぜ裏切ったモモチ叔父……いや、モモチ! なぜ組織を裏切りコーガに寝返った!」

 戸惑う隼。刃に宿した覚悟が鈍る。


 そんな隼を嘲笑うようモモチは衝撃の事実を明かす。

 コーガを内偵中だった父を産業スパイアサシンのしわざに見せかけ、『暗殺忍法:うっかり転落事故をよそおってホームから突き落とすツッパリ』で葬ったのは誰であろう自分なのだと。(ちなみにホーム転落事故の三割はニンジャーによるアサシネイションである((株)皇国データアーカイブ調べ)。


 なんという悪逆。なんという外道仕打ちムーブ!

「スカウトだ。ポンと百億両ビットコイン出してくれたよ、暗殺ジョブの見返りにな。正義だけでビジネスはできない。イーガのやり方では業界トップシェアは守れんのだ!」

「確かに、トップシェアは大事だ。俺もおおいに賛成しよう。しかしビジネスとプライベートはべつ。貴様は父さんの仇…………許しておくものかッ! 年貢を徴収するぞ、イアーッ!」


 怒りを爆発させる隼。

 しかし、そんな直情に任せた攻撃で倒せるほど、ニンジャーは甘くない。

「クァッカッカ。ビジネスにお気持ちを持ち込むのは重大なマナー違反。ロジックで戦うのがニンジャーどうしのバトル礼儀作法。お引き取りを、未熟者めがー!」

「うわあああああああああああッ!」

 滝へドボン。返り討ちにあい、重傷を負ってしまう。



 失意の敗北から数日後……。


 病床の窓から眺める世界は静かなほど平和だった。

 一方、世間ではネットの口コミから始まったとある食品の宣伝ムービーがバズり話題になっていた。


『朝からダルイ? ならばならっ! 目覚めた体におダイズゼリー。朝から順調、絶好調の大成功☆ 朝イチ、チューっと一本、毎日健康、ケッコッコー。ノープロブレムなおいしさにミミちゃん(流行のアイドル)も頭すっきり、めっちゃモーニングハッスル~~☆』


 そんなフレーズに乗せて踊り、明らかに焦点のあっていない目でうっとりとおいしそうにスパウトパックをちゅーちゅーする、ミミちゃんとエキストラたち。最後はみんなそろって、「ふおおおお!」と燃えながら電車に乗り、元気余って床を足でぶちぬき車両ごとお空へ猛ダッシュ。


 実に健全さわやか。一見なんの変哲もない朝食フードの宣伝だ。

 だがプロモーションデザイナーを本業表の顔にしている隼は直感的に理解した。

「間違いない。このコマーシャルの異常なまでの人気。これは<DAN―ZO>による作為的なもの……。裏で糸を引いているのは間違いない。モモチ、彼奴きゃっつのしわざ!」


 調べて見たところ食品メーカーがコーガと裏で繋がりのあるモモチ所有のロビー企業であることが判明。しかもおダイズゼリーにはヤバイ中毒性があることも。

 おダイズゼリーに使われている遺伝子改良されたコーディネイト大豆は、徐々に体を蝕んでいく美味な毒。いちど食べたら最後、毎朝それなしには生活できない健康な体になってしまう。


 メーカーは顧客という名の中毒者リピーターをたくさんゲット、売って大もうけでウハウハの無限ループ。コーガによる合法的世界支配構造ニユーワールドオーダーの完成というわけだ。

 人の健康意識につけこんだ、なんと卑劣なビジネスであろう。絶対に許せない。


 ところが、世間のおダイズゼリーに寄せる信用と人気は不動のものとなっていた。

 なんの作戦もなく悪事を告発したところで、陰謀論者と同じパラノイアのレッテルを貼られてしまうのがオチというもの。モモチの言った通り、正義だけでビジネスはできない。

 

途方に暮れる隼。そのとき、亡き父ソウキの言葉を思い出す。


『毒には毒を。ニンジャーにはニンジャーを。宣伝には宣伝を。同じ事でリベンジするのだ』


 自分が宣伝のプロフェッショナルであることを思い出した隼は反抗に打ってでる。

 渦巻く欲望。国家の陰謀。ニッコリ笑顔ディベードの裏で築かれる屍山血河。混迷を極めた宣伝ウォーの果て、隼はついにおダイズゼリーの信用を失墜させ販売停止に追い込む。

 ついでにモモチのSNSアカウントをハッキング。なりすましアンモラルツイートに乗せて過去の悪事を暴露、見事に炎上。不渡りをだしまくって会社も廃業。

 モモチを社会的に抹殺した隼は、<DAN―ZO>が封じられているというコーガの拠点、フカイ・ルインダンジョンベース(全地下六十階)を突き止め突入。最後の決戦に挑む。


 襲い掛かるコーガのゲニンジャーたちをパンチハメで千切っては投げ、サーバー室に潜入して<DAN―ZO>を奪還。いざ脱出というところで行く手に立ち塞がったのは、モモチだった。


 かつての恩師は憎々しげに恨みを垂れる。

「おダイズゼリーのパワーで成功を掴んで幸せになった者は大勢いる。ワシは社会貢献したのだ。引きかえ、お前がやったことは人々の幸せを奪う世界に仇成す行為。愚かなマナー違反だとわからんのか! それに、健康になるのにどこが悪いッッ!」


「健康になるのはいい。だが依存するのであればそれは薬物と変わらない。依存は堕落を生む。愚かなのは貴様だ、モモチ。アンタは金のため人を食い物にした。俺の父も……。その罪、許さんと言ったはずだ。だが許されていることもある。地獄で閻魔に手渡すギフトセットをバトルのなかでじっくり考えることだ。年貢を再徴収するぞ、イアーッ!」


「この正義グルイめ……。前から思っていたが、お前はビジネスマンには向いていない。今度こそ葬ってくれるわ。死ねぇぇいっ! イアーッ!」

 死闘のすえモモチを撃破。断末魔をあげながら滝へドボンし、この世を去るのだった。



 悪は滅び世界に平和が訪れた。人知れずに……だが。

 ニンジャーは闇の世界の住人。人々にその活躍が知られることは決してない。

 しかし忘れるな。世界が間違った方向へ進もうとしたとき彼ら……いや、彼は必ず現れる。

 宣伝の風に乗って。



 激闘を制し日常に帰ってきた隼レンキ。

 とある日、師であるウルズ・Dからひとつのダイレクトメッセージが届く。


『封印は破られた。インターネット・ジークンドーの完成は近い』


 新たな謎。休む間もなく会社から舞い込む次の仕事。お願いしても受理されない有給休暇。

 次の戦いの始まりを予感しつつ、隼はクライアントが待つトンボ舞う東の地、秋津ノ国へと旅立つのであった。

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