道端の石

てぃぷる

第1話

12月4日


「あと2日だね」


「んね。」


何故こんなにも気楽なのだろうか。怖いとは思わないの?

それとも、期限が迫るときに出てくる謎の自信?かっこつけてるのかね。


「何をそんなに焦ってるんだよ。顔が鬼みたいだぞ〜。」


そんなことを言われても…得体の知れないものは誰だって怖いのに。


「だって、昨日まであと1ヶ月って表示されてたのに。それなのに急にあと2日って、そんなのありえないよ!」


「本人より焦ってどうするんだよ。何が起きても困るのは俺だろ。それに、このカウントダウンが急に変わるのって珍しくもないだろ〜。」


「修也は何も分かってないよ。このカウントダウンがなんなのか分かってもないのに、何が起こるかも分からないのに、2日後に死んでもいいの?死にたいの?!」


「物騒なこと言うなよ、千歳。今までこのカウントダウンで死んだやついないだろ。」


「でも、自殺した人もいるって、」


「自殺は恐怖からかもって、専門家も言ってたろ。」


「かもじゃん。もし、なにかほかの力が働いて自殺してたら?専門家って言うけど、その専門家の人が黒幕だったら?専門家の人がカウントダウン自体を生み出して、操ってたら?相談を受けることでお金が貰えて、それを狙ってたら?修也は世界を甘く見てるよもうちょっと人を疑いなよ…」


「落ち着けって。カウントダウンがなんであるのかは知らないけど、何十年も前からあるだろ。専門家の人が産まれる前からあるだろ。お前はひねくれすぎ。そもそも、カウントダウンを止められるならとっくの昔に止めてるよ。」


「とっくの昔って、今14歳だろ。」


「いーや本当は300歳かもな、人を疑えよ千歳ちゃ、ん。」


「きもい」


「辛辣。泣いちゃうよ?びえーん」


「もう授業始まるし、前向けよ。先生来たよ。」


「はっ?来てねーじゃん。焦ったわ〜。」


そう言って、肩をなでおろし前を向く修也にため息が出る。怖いほどいつも通りの修也。ほんとに意味わかんない。その後の授業も頭に入らないし。

なんで修也じゃなくて私が、こんなに悩まないといけないの。

学校から帰ってきて、あっという間にもう20時。明日が来たらカウントダウンが今日よりも近づくってことでしょ。嫌だ。

修也が自殺したら私一人になっちゃうよ。唯一の友達なのに。

宿題も手が付かないし。修也のせい。

修也なんかと友達にならなきゃ良かった。人の気持ちも知らないでのうのうと生きやがって。


普段ならもう閉まっているカーテンも、今日は開けっぱ。いつもは気になる濡れた髪も、コンセントも何も気にならない。20時ってこんなに暗いんだ。修也がいなくなったらどうなるの。怖いよ。


ブーブー


「何?」


広い部屋にバイブ音が響き渡る。


「あーあーまいくてすとー。ちとせちゃんお元気ー?」


「全然元気じゃない誰かさんのせいで。」


「酷っ。何もしてないのに。」


「何もしてないのがムカつくんだよ。」


「ははは…あのさ、俺ちょっと実は怖いんだよね。あと2日って言われても実感無いし、何が起こるのかもわかんない。」


嘘くさくて、何も言えなかった。


「千歳はあと何日だっけ?」


「あと1年3ヶ月。」


「そっか。あーあ、一緒だったらいいのにな〜。一緒だったら怖くないし、なんか安心?するじゃん。」


「そうかもね。」


「さっきからなんか素っ気なくない?俺は千歳が心配だったから電話かけたんだよ。俺が怖くてもそうなんだけど、今日の十分放課の時さ涙目だったし。」


人を失うって怖いでしょ。それが友達なら尚更。


「っ、お前が怖いとか、どうしようとか言ってたらそうはならなかったけどね。誠心誠意謝れよ。」


「なんでよ!怖いとかいうのダサいじゃん!俺男だしさ。」


「考え古すぎ。」


「そういうことじゃない〜」


電話の向こうで足をバタバタさせる音が聞こえた時、少しほっとした。

いつも通りな修也がここにいる。正直まだ焦ってるけど、修也が一緒にいるだけで気持ちが楽になる。


「?なんの音?なんかしてんの?」


「カーテン閉めてる。」


「えっ。あの心配性の千歳ちゃんがこの時間までカーテン開けてたの?意外なんだけど。」


「心配性じゃないから。そもそも防犯だし、部屋の中見えちゃうじゃん。」


「まあそういうことにしておきますかね。」


「きもい」


「本日二回目のきもい頂きました。うめー。」


「ほんとに鬱陶しい。電話切るよ」


「やだやめて。カウントダウンが急に早まって怖い思いしてる、可哀想な修也くんを捨てるつもり?可哀想だと思わないのか!」


「うるせーおやすみ!」


ぴろんっ


通話時間はそれほど長くなかったけど、修也と会話出来た時間はとても長く感じられた。修也も焦ってたんだな。やっぱり修也も人間だし、怖いよね。

お母さんとお父さんのカウントダウンどんな感じだったか明日聞こうかな。

先生とかも怖いって思ったのかな。

確か先輩にカウントダウンもう終わってた人いたな。あの人はどんな感じだったんだろ。


「ふあー」


布団の上でいると、何だか考え事が多くなる気がする。

色々考えてると眠たくなってきた。

寝ようかな。部屋を出て階段の上から身を乗り出す。


「おかーさんおやすみー。おとーさんもおやすみー。」


「おやすみー」


返事をしてくれたのを聞いて、小さなスキップをして部屋に戻る。

お母さんとお父さんのお休みがないと安心して寝れないんだよね。

コンセントちゃんとささってるか見て、窓閉めてあるか確認する。最近は物騒だしね。

一通り見回りが終わると布団に入る。


「明日が来ないといいのに。」


毎日思ってるけど、今日はなんか違う感じ。

それでも、いつもは気になる枕の位置、肩の角度、首、何も気にならなくて、いいのか悪いのか。今までで1番落ち着いて寝られた気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

道端の石 てぃぷる @danph

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ