第16話 お姉さん

 おっさんがついてくるつもりみたいだけど、どうしよう。

 剣だけ適当に使ってそれっぽくしてれば大丈夫とはいえ、逆におっさんが信用できなくて。

 さすがにギルドに出入りしている冒険者が新人を罠にはめて、奴隷に落としたり、変なことしてこようとしたりはしないと思うけど、分かんないよね。


「え、ああの……」


 なんとか回避したくて、あたふたしていると、片手を上げてスッと近づいてくる女の人が。


「なんだ、エミリー?」


 おっさんも女の人に気が付いた。声を掛ける。


「なんだじゃないわよ。ドゴーグ」

「ああん?」


「いやだから、そういう態度がだね。この子たち完全に怖がってるの分かんないかな? だからいつまでもダメなのよあなたは」

「そ、そうなのか。俺は普段からこんな感じだぞ」

「そうね。普段から普通の人には怖いように見えるわよ」

「ま、マジか?」

「うん。ということで、私がその任、引き受けましょう。ドゴーグじゃダメよ。女の子に対して信頼がなさすぎる」

「ぐぅ、そ、そうか。……仕方がない。了解した、頼む」

「任されたわよ」


 ふぅ。おっさんに連れまわされるかと思ってたけど、なんとか回避できそうだ。

 この人は少しは信頼できそうだけど、一応。


 魔法「鑑定」。


【エミリー・フラクタル】


 名前はさっき分かってたけど、苗字も分かった。

 だからといって何か情報が増えたわけじゃないんだけどね。

 とりあえず偽名ではないらしい。

 ちなみにこの世界では、中流以上くらいの家なら苗字があるのは一般的だ。

 もちろん下層民と孤児とかには基本苗字はない。

 ステータス表示されなくて不便、ぶーぶー。


「ということで、私が引率してもいいかしら? それとも引率いらない?」

「あ、えっと……」


 サエナちゃんが周りを見渡す。


「あ、おねがいします」

「……引率おねがい」

「お願いしますにゃ、おねえちゃんにゃ」


 私含め、みんな賛成のようなので、頷き合う。


「いいみたいね。改めてお願いするわ。私はエミリー・フラクタル。C級冒険者ね」

「C級冒険者」

「そそ、一応Cランクだから、身元はギルドが保証してくれるでしょ」

「そうですね」


 特に変なところはない。


「いつもはメンバーと依頼を受けるんだけど、今日は非番なの」

「あぁなるほど」

「ギルドの上に泊まっててさ、みんな先にどっか行っちゃって置いてかれたのよ、酷いでしょ」

「そうですね」

「まあ、そういうわけで、よろしく」


 それで私も納得する。

 Cランクくらいの冒険者が変わり者でもなければソロでふらふらするものではない。

 まあ色々な事情があるからソロの人もいると思うけど。


 全員がエミリーさんと順番に握手をした。

 この世界にも握手はある。


 その手は力を入れすぎたりもせず、優しかったので、私は信頼度を少し上げた。

 脳筋の馬鹿力の握手は遠慮したい。


「では、西門から北へ上がって、北門の外側の森でいい? あの辺は森だけどモンスターもほとんどいないし」

「はい、お任せします」


 私も適当に答える。

 このお姉さんなら変なところへは連れていかないだろう。



 ギルドを出て西門へ向かう。

 街並みは、どこも似たような感じだった。

 一応中央通りより南側のほうが庶民街、一番南がスラム一歩手前のダウンタウンという感じになっている。

 本当に無法地帯のスラムはこの町にはない。

 それは領主様つまり父上が女性は私がいる女子修道院に入れたり、冒険者ギルド経由で仕事の斡旋とか、あくせく気を配っているかららしいけど、よくは知らない。


 家がない人でも多少余裕があれば、職を求めて王都へ行く人が多いという理由もある。

 王都は西側のドリステン伯爵領を超えて、そのさらに西隣だ。

 歩いたとしても10日は掛からないと思う、たぶん。

 馬車で飛ばすと、4日くらいらしい。


 中央通りの西門側には朝市が立っていて、食料品とかを売り買いしている。

 朝市という名前だけど、実は夕方までやっている。


「すごい人ですね」

「……人いっぱい」

「人ばっかりにゃぁ」


「そうね。朝市は人が多いわね」


 みんなの感想もまあさもありなん。

 なんとか人混みを横目で見つつ、大通りを通って、西門に到着した。


 門番の騎士さんと傭兵さんにこちらも温かい目で見られながら、門を通過。


「頑張ってこいよ」

「幼女ばっかり連れて、お姉さんも大変だな、あはは」

「行ってらっしゃい」

「「行ってきます」」


 とまあこんな感じで外に出る。


 門のすぐ外は平原だ。

 近くは伏兵とかに囲まれていないか分かりやすいよう意図的に木が切られている。


 そのまま西、王都方向に道は続いているけれど、私たちは脇道の北ルートへ向かう。


「んじゃこっちだから、どっか行っちゃわないで、ちゃんとついてきてね」

「「はーい」」


 みんなで引率のお姉さんについていく。

 幼稚園の送迎みたいだが、みんな腰に剣を刺しているし、一応冒険者だ。


 城壁を右手に見ながら北上して、北門方面に行く。

 北側は城壁の内側が森だったけど、外も森なのだ。


 ここがいわゆる外の森という場所だ。

 森全体の大きさは、小さな森の倍くらい。


 その外側には裏街道を挟んで、木が疎らに生えた土地が広がっている。


「さて、今日はなにが生えているかな」

「薬草とかあるとうれしいですね」

「そうだね。この森は薬草は豊富なほうかな。ホワイト草もサクラ草もあるよ」

「それは助かりますね」

「ええ」


 お姉さんと適当に話をしたりして、森へ到着した。


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