第17話 外の森と夏ミカン

 外の森に正式な固有の名前は特にない。

 だいたいの人は小さな森に行く人はいないので領地名の「エストリアの森」と呼んでいるらしい。

 院長先生の言っていた、森の入り口というのは、この森のことだ。

 この周辺から離れたところにも広い森が広がっているので、そっちには行かないことも条件の一つだ。

 そちらにはオークをはじめとした、強い魔物が出る。


「スライムだね、えい!」


 出てくるたびに私が剣で適当につついて倒す。

 そして、なんか小さな森より数が沢山いる。

 紫色の星がちりばめられた魔核だけ拾って進む。


「今のところ、トエちゃんだけが倒してるけど、他の子は?」

「あ、はい。私が斥候というか先頭を歩く感じなので、スライムくらいは面倒なので、倒してしまおうかと。これぐらいなら余裕で全員できますし」

「そっか、みんな初心者といってもある程度強いのかな?」

「まあまあですね。割り振っていると、進むのが遅くなってしまいますし」

「そうね、それなら別にいいかな」


 さて、ここまでお姉さんに従って歩いてきたけど、そろそろ一応、探索魔法を。


 魔法「リソース・サーチ」。


 スライム多数。やはり数が多い。適当に無視して、進行方向にいるのだけに絞って倒そう。

 魔核が1つ銀貨1枚は、正直かなりおいしいが、ウルフとかのほうが値段はずっと上だし、キノコとかのほうが優先度が高い。

 大きなサルノコシカケは高値だし、食用キノコは美味しい。


 先頭を歩く私を、その後ろから眺めながらお姉さんもついてくる。

 このまま誘導していこう。


「えっと、キノコですね」

「そうね。ブラウンシメジタケだわ。けっこう美味しいわよ」

「はい。小さな森で何度か採れたので、孤児院で食べました」

「あら、それは良かったわね」

「美味しかったです。えへへ」


 ちょっとお姉さんとの距離を測りかねるが、まあ適当に会話をしよう。

 こういうのは慣れていないので少し苦手だ。

 相手のほうが上ということになっているけど、知識量ではそこまで違わないと思う。

 こういう時に、ほとんど知っていても、いかに相手を立てて、うまく丸く会話するかは、結構難しい。

 なんでもかんでも「すでに知ってます」ではさすがにノーマナーだ。


「採ったキノコは、分けて持つのよ」

「「はーい」」

「公平に、という意味もあるけど、リスク分散の意味もあるの」


 お姉さんの指示の通りにする。

 万が一はぐれたり、なんらかの事故があったとき、ひとりに持たせるより、分散させたほうが安全だ。

 さすがにこの森では出ないと思うけどブラッディベアに遭遇したら、走って逃げて、誰かが途中で袋を落としていくかもしれないし。

 やはり、袋は買ってよかった。


 まあ私だけ袋を持ってても、負けたりするつもりはないけれど。

 もちろん、そういう強がりをわざわざ主張したりはしない。


 またスライムを倒しつつ、次の目標を探して歩く。

 何かは分からないが、木の実が沢山なっているような、反応があった。


「おおぉ、沢山なってる」

「すごーい」

「……ミカン」

「にゃは、ミカンミカンにゃ」

「そうね。これは夏ミカンだわ。お手柄だわ」


 反応はどうやら夏ミカンの木だったようだ。

 この世界の夏ミカンは秋ごろに緑の実をつけて冬には黄色くなるけれど酸っぱくて、春になると酸味が抜けて食べられるようになる。たぶん地球とだいたい同じだと思う。

 領主館の庭にも1本だけ生えていて、いつもこの時期くらいからデザートに出たりする。

 つまり今の時期がちょうど食べごろだ。


 思い出してみると貴族街にも夏ミカンを植えている家が何軒かあった。

 貴族は意外と家でそういう木を育てるらしい。


 5人で必死に夏ミカンを収穫していく。


「そうそう、うーん、どう見ても無理だけど、一応、全部取ってはだめよ。そうね、こういう木なら多くても半分くらいかしら」

「「はーい」」


 みんなで返事をする。

 といっても夏ミカンの木は、この周辺に何本か集まって生えていた。

 とても取り切れない。


「そうそう、袋一杯に採ったら、他のが入らないから、4分の3くらいにするほうがいいわ」

「「はーい」」


 確かに。

 袋一杯持って往復するのかと思った。

 さすがにそんなことしないか。

 木があることは他の子達も知っていたりするのだろうし、きっと取りに来るはず。

 私たちが占有して収穫したら、顰蹙を買ってしまう。


 私は袋とは別に10個くらいアイテムボックスのほうにも失敬した。

 あまり食べ物を入れていなかったので、非常用としておこう。

 アイテムボックスのほうは基本的に時間経過がないので、こういう時お得だ。


「よし、そろそろ次いくわよ」

「「はーい」」


 なんだかすっかり夏ミカン狩りの幼稚園の遠足みたいになってしまった。

 さて、一応もう一回探そう。


 魔法「リソース・サーチ」。


 リソース・サーチは、その精度と範囲に難があるな。どうにもならないので、しかたがないとはいえ、意外と面倒だ。

 何回も使えるけれど、魔力もちょっとずつだけど消費する。


 うーん。そうだなぁ、ウサギの反応が3か所。あと遠くのほうにウルフっぽいちょっと魔力の強い反応が複数固まってある。

 あっちの方面には行かないほうが賢明かな。

 それからたくさんのスライムの反応。

 これだけスライムが多いと、ちょっとノイズのようにすら感じてくる。

 この森は湧き水などがあり湿度も高めで、スライムには住みやすいのだろう。


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