第15話 冒険の準備

 冒険者ギルドで登録できて、さっそく冒険に出よう。

 なんてするわけはない。


 まずは薬屋さんに行こう。

 RPGとかだと道具屋さんとかになっているけれど、この世界ではポーションは薬屋さんだ。

 ポーションには使用期限があり、ひと月前後でダメになってしまう。

 一方の道具屋さんは、火打石、薪、テント、縄、携帯食料、干肉、鍋、皿とかの道具類を売っている。

 主に日持ちがいいものを扱っている。

 携帯食料と干肉は持って2か月くらいだろうか。


「ということで、薬屋さんね」

「「はーい」」


 といってもギルドに併設されているので、そこで。


 本当のことを言うと私はアンチドートもヒールも使えるので、薬がいるかと言われると疑問ではあるけど、私個人に依存すると他の子の常識がおかしくなってしまう。

 そういうことは避けたいので、普通の子なら寄るであろう、薬屋さんでポーションを買う。


「初級ポーション3つ、解毒ポーション2つください」

「あいよ、あらあら、かわいいお客さんだね。あれ、でも腰の剣を見るに、冒険者見習いかな」

「そうです!」

「はい、元気なのはいいね。無理するんじゃないよ」

「「はーい」」


 初級ポーション1つ銀貨2枚。解毒ポーションも同じく銀貨2枚。しめて金貨1枚だ。

 思ったよりもけっこう痛い出費で、涙目な私だけれど、ここは仕方がない。

 ポーション材料の草が高値で売れるわけだから、当然として完成品のポーションも高いのが道理というものだ。


 命は大事だ。


 死にそうになったら初級ポーションじゃ助からないけど、中級や上級ポーションはとてもお高いので、現段階では諦めよう。


 森の奥まで行かなければ、それほどひどい目には遭わないだろう。



 ダメージを受けた時に回復する手段は購入した。

 さて次はダメージを減らす努力をしよう。


「次はそっちのコーナーで防具を買お」

「うんっ」


 残りの資金は金貨3枚ほど。

 冒険者ギルドには初心者冒険者のための、子供用装備が売っているのだ。

 こういう特定者向けの装備は、昔ならオーダーメイドだったのだろうが、最初はギルドにくるし、ギルドが売れば安心だ。

 まだ馴染みの武器防具屋とかもないわけだし。


 受付嬢のお姉さんが出てきて、お手伝いしてくれる。

 4人用の革防具だ。軽鎧に分類される。

 子供用のブレストプレートみたいなやつとなっている。

 本物のブレストプレートは銃が発展してきて薄い全身鎧が無意味になり厚めの金属で急所だけを守るように変化したものだったはずだけど、その辺の細かいことはいいの。


「オーク革のブレストプレートね。子供用4人分。ファーストチョイスによく使われるの」

「なるほどぉ」


 値段は1つ銀貨2枚。たぶん破格の安さだと思う。

 まあオーク革はそんなに強くないし、この周辺でも森の奥とかで出るようなので、材料の地産地消ができてて安いんだろう。

 もしかしたらギルドの支援金とかで安いのかもしれないけど。


「じゃあそれ4人分。よろしくです」

「はい、確かに」


 お姉さんに金貨を渡して、着させてもらう。

 茶色いワンピースの上に冒険者風のブレストプレートが装備できた。


「えへへ、冒険者みたい」

「……私冒険者」

「冒険者にゃあ」


 これで心臓を一突きとかは防げる。

 万が一の場合は手足がもげちゃうけど、しょうがないよね。

 アイテムボックスに入るなら入れたり、引きずったりして、持って帰ってくるか。


 上級ポーションならくっつくだろう、たぶん。


「似合う?」

「……まあまぁかな」

「にゃはは」


 私が手足がもげるとか考えているとも、露知らず楽しそうに見せ合っていた。

 まあ、こういうダークなことは私に任せて、きゃわきゃわしてていいよ。


「これで準備できたかな?」

「うん。たぶん」


 今のところ背負い袋は私だけか。


「えっと、背負い袋の安いの3つください」

「はい銀貨3枚です」


 今まで私がお古の背負い袋を背負っていたけれど、みんなの分も買う。

 獲物が増える予定なので、みんなで持って帰ってもらわなきゃ。


 背負い袋は私のより丈夫そうで新しい。

 銀貨1枚はちょっと高いけれど、まあこんなものだろう。


 これで草原で薬草摘みをする冒険者少女たちに見えるだろうか。


「はい、これおまけしてあげるね」


 携帯食料を人数分貰った。


「はい、おーけー。ではいいかな?」

「「はーい」」


 みんなでギルドを出ていこうとする。


「ちょっと待ちな」


 さっきまでそこで蒸留酒を呑んでいたスキンヘッドのおじさんが声を掛けてくる。

 ニッと口元を釣り上げて威嚇してくる。怖い。


「ひゃっ、な、なななな、なんで、すか?」

「……なに」

「にゃあああ」


 私はとりあえずサエナちゃんが質問したので、踏みとどまって様子見をしよう。


 うむむ。魔法「鑑定」。


【ドゴーグ・バラリッド】


 ふむ、名前は覚えておこう。人間に鑑定を掛けるのは久しぶりだ。

 といってもスキンヘッドは他にあんまりいないので、見分けはつく。


「お前ら、ぺーぺーだろ、幼女4人だけで城壁の外へ行くつもりか? ああんん?」

「ひゃああああ」


 サエナちゃんは完全にビビってしまっている。

 いや、しかし、このおっさんの言っていることは、めっちゃくちゃ怖そうに見えるだけで、心配してくれてるんだよね? んん?


「俺を雇え! 1日、夕方まで銀貨2枚。お昼は俺の奢りだ」

「ひゃああ、はああいいい」


 このおっさん連れていかないといけないの?

 ええぇぇぇ。


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