第14話 冒険者ギルド

 丘のある北側のすぐ南側は、貴族街になっている。

 町全体で見れば北側が貴族街、そのさらに北が丘という配置だ。


 女子修道院のある道は貴族街の中を通って町の中心へと繋がっている。


「おっきい家がいっぱいだね」

「そうだね」


 修道院にも引けを取らない立派な見た目の家が立ち並んでいる。

 家々は1つの家で区画を作って離れていて、手入れされた庭や裏庭も見える。

 どの道も馬車がすれ違えるだけの広さがあった。


 城壁の中なのにかなり贅沢な土地の使い方だと思うのだけど、ここの町は城壁が少し薄い代わりに結構城壁の範囲が広いのだ。

 地理的な都合で城壁で丘をぶった切るようにはできなかったのだろう。それで城壁内が町の規模に対してかなり余裕があるように見える。


 貴族街は人通りもほとんどない。

 庭師が各々の家の庭を手入れしているくらいだろうか。


 貴族の家の煙突からは煙が登っている家も多い。

 今から朝ご飯なのだろうか。

 孤児院の朝は早めなので、貴族の朝はそれより遅いのかもしれない。


 そういう割とどうでもいいことを考えつつ、貴族街を抜けた。

 区画ははっきり分かれていて、貴族区の出入り口には、簡易的な城壁の内壁があり、門には騎士と傭兵が何人かで監視をしていた。


 全身鎧なのが騎士様で、茶色い革鎧とかを着ているのが傭兵だ。

 見ればすぐわかる。


「おはようございます。孤児院から来ました」

「おお、お嬢さんたち、町へ用事かい?」

「はい。冒険者になるんです」

「へえ、そうだな、確かにそれくらいの年齢か。無茶はするなよ、命大事に、死んだら何にもならないからな」

「「はーい」」

「いい返事だ、通っていいぞ」

「「ありがとうございます」」


 騎士と傭兵のお兄さんたちに温かい目で見守られながら門を通過する。

 門の前には広い道路があり、町の中心まで繋がっている。


 こちら側の市民街は貴族街とは雰囲気が一気に変わって、3階建ての家々が所狭しと並んでいる。

 とはいっても小さな前庭スペースの花壇と街路樹、そして区画の真ん中には共同の裏庭があるようだった。

 区画ごとに家が四角くドーナツ型に並んでいて、一か所だけ裏庭へ繋がる通路があった。


 裏庭は思ったより広くて、ベンチや芝生スペースがあり、けっこう大きな木が中央に植わっている。

 野菜畑なども広くはないが育てられているようだった。


 数区画の似たような街並みを進むと、一番広い大通りに出た。

 そのまま少し進み、中央に噴水があるロータリーの一角に剣と盾の意匠の建物があった。


 ――冒険者ギルド。


 そう、ファンタジーでお馴染みの例のアレだ。


「ここ、だよね」

「そうだね」

「……冒険者ギルド」

「にゃはギルドだにゃ」


 この世界では世界冒険者ギルド協会という全世界組織が一応あり、各国の個別の冒険者ギルドの組織がそれに加盟している形を取っている。

 各国ごとにギルドは違う組織なので、超絶巨大な組織が国をも上回る権力を持っていたりもしない。

 一応ライバル的な傭兵ギルドもあるが王都や主要都市に支部があるだけで、あまり有効には使われていない。

 傭兵も主な仕事は戦争ではなく、キャラバン、隊商の護衛となっている。

 傭兵は騎士団とは別に領主に雇われて護衛、門番、警備、山狩りなどの出兵をすることもある。

 冒険者はあまり領主に雇われたりしないところが違うといえば、違う。


 スイングドアを通ると、カランカランとカウベルが鳴った。


「こんにちは……」

「「こんにちは」」


 私の挨拶に続いて、みんなも挨拶をする。

 特に返事が返ってきたりはしない。


 一瞬、おじさんたちにじっと見られてしまったが、視線は次々と外されていき、元の風景に戻った。


 幼女が珍しい……ということではないらしい。

 というか実はこの世界では8歳ぐらいから働き始める。

 冒険者ギルドも8歳前後から登録する子が多いのだ。領主館にあった冒険譚によると、だけど。


 朝だから混雑しているというわけでもなく、確かに人は多めだけど普通に事務処理をしている。

 冒険者も朝ご飯を食べたり、思った以上にのんびりしていた。

 ここは比較的平和なのだろう。


 緊張してギルドにきたのに、気が緩んできた。


 受付の列に並んで順番を待つ。

 もちろん順番待ちのカードとかあるはずもなく、立ったまま並ぶ。


 少しして自分たちの番になった。


「すみません」

「はーい」

「新規登録したいんですけど」

「いいですよ。みんな8歳ぐらいだもんね」

「そうでーす」


 いや厳密に言えばシリスちゃんは7歳だけど、戸籍や住民票などの証明書があるわけでもないので、だいだいでいいらしい。

 異世界がいい加減で助かった。


 ギルドカードというものを発行してもらった。

 私たちのランクはGらしい。木のカードだった。

 Gランクは見習いであり、8歳から12歳の子が最初になるランクだ。

 正式な冒険者は12歳前後以上で、その子たちはFランクとなるそうだ。

 小さい子でも功績が認められればFやEランクへの昇格もある。


 それでランクはG、FからA、Sの8段階のようだ。


 ランクは依頼を受ける際の基準になるけれど、依頼でなければ強いモンスターを狩ったりするのも自己責任だ。

 ただし、弱っちい子が強いモンスターと戦うのはどう考えても無謀なので、いい顔はされない。


 意外だったのは、薬草採取やゴブリン狩りなどは依頼になっていなかった。

 こういうのは取ってきたら普通に買取してもらえる。

 ゴブリンも左耳を持ってくればそれが買取品として処理されるので、わざわざ依頼として処理されない。

 別に低ランクの常時依頼みたいのはなく、ノルマも特にはない。

 ただしギルドへ1年に1回以上は顔を出して更新しないと、カード登録が抹消されてしまう。


 こういう世界ではいきなり辞めたり、死んでしまったりするので、そういう人を随時削除していくための処置なのだそうだ。


「ギルドカードできたね」

「うん。登録は完了。カードはウッドカードと」

「……冒険者だ」

「わわ、ついに冒険者なんにゃねぇ」


 なにはともあれ、これで晴れて冒険者の身分を手に入れた。


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