第13話 冒険者のお誘い

 そんなこんなで2日に1回のペースで、午前中の朝の仕事を終わらせた後、森探索をしていた。

 定期的に食べられるキノコや、薬用のサルノコシカケ、ホーンラビット、スライムの魔核などを持って帰ってきた。


 食べられるものは食卓に上り、美味しい料理の一部になった。

 売れるものはライエル商会に売却して、代わりに香辛料などを買った。


 みんなで採ったホワイト草などの代金からお金を出し合って、お肉の追加分を買ったりもした。


 この前のキイチゴなんかも、みんなよろこんでくれた。


 そんな生活をしていたある日、院長先生からこんな提案がされた。


「トエさんたちは、孤児院の仕事は免除にして、冒険者をやってみたらどうかしら」

「ええぇ」


 今までも森など冒険者のまねごとはしていたけれど、こういう提案がすぐにされるとは思わなかった。

 もっと余裕ができたら将来、大きくなってから冒険者をしてもいいとは思っていたので、渡りに船ではある。


 選抜されたメンバーは、私トエ、サエナちゃん、シリスちゃん、ミリアちゃんだ。


「4人とも、剣といっても木剣のようですけれど、少しは使えるようになったのかしら?」

「はい、院長先生」

「そう。なら安全な街の周辺に限定するけれど、小さな森だけでなく、城壁の向こう側の平原と森の入り口付近までなら、行ってみてはどうかしら」

「はい。そう言ってもらえるとありがたいです。小さな森だけでは、そのうち探索しつくして、資源も取りつくしてしまいそうでしたので」

「そうよね。森がハゲ上がったら大変だわ、うふふ」


 ちなみに尼さんだからといっても、この宗教ではハゲにはしていない。

 でも男性の敬虔な宗教家の中には、頭の毛を剃っている意識の高い人もいるので、そういう冗談らしい。


「朝食後から夕方までの外出を認めます。日曜日は礼拝が終わった後からです。お昼ご飯は現地調達するのが条件です。夕食は一緒に食べましょう。お金を持って帰ってくるのがお仕事ですが、お肉やキノコ、果物など食べられるものを持ち帰るのもいいわね」

「はい」

「では明日からとします。そうそう、餞別というわけではないけれど、修道院にある護身用の剣を進呈しますから、使っていいですよ」

「ありがとうございます」


 こうして私たちは、冒険者になることになった。

 剣はすでに用意されていて、その場で4本、渡された。


 女性でも取り扱いやすいショートソードの中でも比較的小さいタイプだ。

 これなら、みんな使えるだろう。

 木剣もそこそこ重いので、訓練すれば使えるようになると思う。

 まぁ、スライムくらいならどうとでもなる。


 まだ魔法はお披露目をしていない。

 本格的に冒険者になるなら使う機会も出てくるだろう。

 火とか水、あとヒールくらいなら見せても平気だ。


 当面の目標は防御の強化と、それからマジックバッグだ。

 アイテムボックスは何があっても秘密にしたい。

 マジックバッグは金貨10枚ぐらいの値段がすると聞いたことがある。

 今現在の私の所持金は金貨4枚ぐらい。

 まだぜんぜん足りない。


 今日も一日が終わって、ベッドに横になる。


「なんだかドキドキするね」

「外の世界でも大丈夫だよ、へーきへーき」

「トエちゃんは強いね」

「本当にこう見えて強いんだよ」

「へぇ、じゃあ明日からもお願いね」

「まかせておいて」


 ピーチチチ。


 スズメか何かが鳴いて飛んでいくのが聞こえる。朝だ。

 井戸に行って顔を洗ったりして、朝ご飯を食べる。


 いつもの朝食だ。

 固いパンと、塩に少し胡椒もいれたスープ、それからサラダだ。

 スープはダイコン、ニンジン、タマネギなど根菜が多い。

 それから一切れ分を細切りにしたハムが入っている。たぶんこれは豚のハムだと思う。

 サラダは畑のレタスとタマネギの生サラダだ。


 不味くはないけれど、胡椒以外は質素ではある。

 本音を言うなら、もう少しタンパク質、お肉があるといいと思う。

 朝と昼は食べられるだけでもいいけれど、せめて夜のメインディッシュに、お肉を出せるような稼ぎをしたいものだ。


 ハンバーグとかステーキとか、お肉の薄焼きとか。

 領主館では、毎晩そんな感じだった。

 今思えば、やっぱりかなりの贅沢だったんだな。


「行ってきます」

「「行ってきます」」

「行ってらっしゃい、あとで話を聞かせてね」


 孤児院の子たちのうち何人かに見守られて孤児院を後にする。

 普段、ここの人たちは孤児院および修道院の敷地から出ることがない。

 孤児は別に将来修道院に入るにしても、現在は修道院預かりではないので、こうして外出なども一応はできる決まりではある。

 それでも、ほとんど敷地から外に出ることはない。


 丘の上の草原と小さな森は敷地内という認識なので、なんとか大丈夫だったのだ。


 丘の一本道を歩いて降っていく。

 ブドウ畑が見えた。領主様の命令でワイナリーのまねごとをしているのだ。

 反対側には小麦畑もある。その青い絨毯は、風に靡いて気持ちよさそうに揺れていた。


「長閑だね」

「うん? う、うん」

「……のどか」

「えへへ、のどかにゃ」


 サエナちゃんにはいまいちピンとこないようだ。

 小さいころからここにいると、外の世界がどうなっているか、あんまり知らないのだろう。


 もっとも領主館と裏の森以外、ほとんど外出できなかったので、実家にいたころの私も大した違いはないんだけれど。


 私には前世のビルが立ち並ぶ首都東京のイメージがあるからね。

 あれとこれとは雲泥の差だ。

 どちらがいいか、と言われると、どっちも嫌いではない。

 ビルはビルで生活するには便利だし豊かだった。

 この何もない麦畑も風情はある。何もないけど。けれどそこがいいところなのだと思う。


 丘の下のほうまでくると、低い街区の壁があり、その下は貴族街となっていた。


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