第6話 小さな森とウサギ

 森へ行った日の夕ご飯には、キノコ入りのスープが出された。

 その旨味が溶け出したスープは肉入りとはまた違う美味しさで、みんなおおよろこびで食べた。


 森まで行ってきたのを呆れられてしまったけど、美味しいスープになったので、院長先生にも特に怒られることはなかった。


 翌日はホワイト草の採取の日だ。

 この日はシリスちゃんも手伝ってくれた。


 そしてさらに次の日、また私たちは森へ向かうことにした。


 ヤギの乳搾りをして午前中の仕事を済ませたら、さっそく行動開始だ。


「では、いざ、森へ参ります」

「うおーおぉ」

「おーお」


 やる気で返事をするサエナちゃんと、やる気は感じられないが声を出すだけでもえらいシリスちゃんを連れて進む。


 草原の丘を過ぎて、森になった。


 私はどこからともなく、アイテムボックスに隠しておいた木の棒を取り出す。

 この前に行った時に、最初に拾った木から更新すること2回。

 よさげな丈夫な枝があったので、それが今のお気に入りだ。


 同じくらいのレベルの枝を他にも3本ほど拾って隠し持っている。


「はいこれ」

「なにこの枝」

「……枝、いえ、これは、剣」

「その通り。さすがシリスちゃん」


 木の枝を持って歩く我らがパーティーは、この木の枝こそが今のところ最強の剣なのだ。

 スライムにはこの枝が強い。


 そうしてサーチはさっと使って、めぼしいものがないかチェックする。

 このリソース・サーチ魔法は、過去に見た物しか正確な識別はできないという特性もあって、今回は特にいい獲物はないようだ。

 見たことがない魔物はその大きさや魔力量などは推定できるので、それを参考にする。


 そんな中、大きな倒木があった。


「おお、これはサルノコシカケ」

「なるほど、お猿さんの椅子って意味なのね」

「そうそう」

「……サル、椅子」


 鑑定するまでもない。サルノコシカケだ。

 これは地球世界では漢方薬の材料として、それなりの値段で取引された。

 そしてその辺によく生えているので、自分も実物を何度も見たことがあった。


 このキノコは何年も掛けて大きくなるのが特徴で、一度採ってしまうと、来年も生えてくるという性質のものではなかった。

 だから一回切りだ。


「まあいいかな、採っちゃうよ」

「うん」

「……サルの椅子」


 なんかサルの椅子が気に入った人がいるようだけど、まあ採った。

 この世界でも滋養ポーションの材料の一つだ。本に載ってたもん。知らんけど。


 それから倒木から、いい枝が採れた。

 この木はかなり固い木で、枝も丈夫だった。


 ナイフをひっそり取り出して一生懸命に枝を根元から切断して持って帰る。

 それを4本分。


 今の枝よりかなり強い。

 前のが攻撃力+3なら今度の枝は攻撃力+5ぐらい。

 ステータスとか分かんないから数字は表示されないけどね。


 ただしそのまま手に持つには少し太い。


 ――木剣。


 孤児院に戻ったらこの木を削って、木剣にしよう。

 武器は何にしても必要だ。


 スライムしか出ないとはいえ、悪いおじさんが出ないとは限らないし。


「ん、なんかいる」


 すわおじさんか。


 違った。茶色いウサギだ。


「なんだろう、ホーンラビットだ」


 そういえばホーンラビットもいる。

 前言訂正。モンスターはスライムとホーンラビットしかいない。

 あんまり訂正していると、実はゴブリンやコボルトもいますとかになると困るけど。

 ホーンラビットは動物枠にカウントしていたけど、実は魔物枠なのだったわ、失念していた。


「おお、ウサギさんだ」

「……角、ウサギ」


 その名前の通り、おでこにユニコーンみたいな角がある。

 この角もユニコーンの万能薬の劣化版として、町の民間療法では信じられていて、滋養強壮ポーションの材料となるのだ。


「えいやぁ」


 私の木の枝、密かに魔法剣として魔力が乗っている枝で、ウサギを一突きにした。


「わわ、トエちゃん!」

「大丈夫、大丈夫!」

「……ウサギが一突きだった」

「ん、まあね。私、実は剣もちょびっと使えるの」

「ほーん」

「……すごい」


 やりました!

 ちゃららちゃちゃーん。


 モンスターを倒したぞ。レベルアップした気分だ。

 実際には何も起きてないけど。むなしい。


 ウサギさんは木の枝だったので外傷はなく、ぐったりしてもう死んじゃっていた。


「なむなむ。ウサギさん安らかにお眠りください――セドーレ」

「「んっ、――セドーレ」」


 みんなで右腕を左胸の下へ置くポーズをして、死者へのお祈りをした。

 スライム君にはしなかったけど、なんとなく気分で。


 スライムは謎物質枠だけど、ウサギさんは生き物に見える。


 ウサギさんの首を切り木の枝に吊るして、ひっくり返して血を抜いていく。

 見様見真似ですけどね、やんちゃな私は領主館の森で、兄姉や父上が趣味で狩ってきた一角ウサギの処理をしているのを見たことがあるので。


 その後もスライムを4匹ばかり狩って、孤児院に戻ってきた。

 ウサギは逞しい厨房のおばちゃんにより解体されて、角と魔核は私のものとなった。

 ウサギの毛皮は薄すぎて利用価値が低いので基本的には捨てられる。


 ウサギのお肉と骨とかのガラはスープの出汁にされて、今日もまた違う美味しいスープを食べることができた。

 ウサギ1匹を17人くらいで食べると、ひとり分はかなり少ないけれど、数切れくらいはスープに入っていたので、よしとしよう。


 本日も、自分たちのちからで、美味しいご飯が食べられてよかったです。


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