第5話 小さな森とシメジタケ

 ヤギの乳搾りの仕事も慣れてきて作業時間もちょっと短くなっていた。

 ホワイト草の採取も毎日のようにやっているけれど、量と時間を考えたら半分でも十分そうなので、違うこともしようと思う。


「量は十分だからホワイト草はお休みね。それでですね、北側丘の下のほうに小さな森があるよね」

「あぁ、ありますね」


 領都エストリアは城塞都市というものなのだけど、塀の中は狭くて小さいというイメージが多いけれど、北のほうには二つの小さな丘があり、片方が領主館、もう片方が修道院なのだ。

 それで、その丘の下のほうには、やっぱり小さいながら森と呼べる程度には木が生えている。

 これは領主館のほうの丘まで森が繋がっている。


「先生、トエは森探検がしたいです」

「しょうがないにゃぁ」

「あなたが神か!」

「神様じゃないけどね。神はスエルメティス様だよ」

「うん、知ってる」

「じゃあ、行こっか? シリスちゃんも」

「……あ、うん。いいよ。お肉も美味しかったもんね?」

「うん、じゃあいっしょにいこ」


 いつもはホワイト草採取には付き合ってくれないシリスちゃんだけど、今日はちょっと興味を持ってくれたみたい。

 ホワイト草によりたまにお肉増量の日があることが、興味のきっかけのようだ。

 うむ、悪い傾向ではない。


 シリスちゃんは7歳。1歳年下だ。私たちよりちょっと小さい。

 茶色髪で茶色目だ。丸顔で美人よりもかわいい感じの子だった。


「では、探検隊出発です」

「おぉぉ!」

「……お、おお」


 私が合図をすると、二人も乗ってくれる。友達っていいよね。


 丘を下っていき北側の城壁が近付いてくる。

 北側にも通用門はあるんだけど、普段は閉まっている。

 その先は裏街道に繋がっているものの、緊急時にしか開かないので特に意味はない。


 さて木がだんだん生えてきて、森になった。

 もちろんこの森にはモンスターは出ない。


「あっ、スライムだ」

「ほんとだぁ、やだぁ」


 訂正。弱っちいスライム以外のモンスターは出ない。

 ちなみに嫌がっているのはシリスちゃんだ。

 普段はもう少しクールなんだけど、その反応はなんだか可愛い。


 スライムのほうは水色で目と口っぽいものがある。結構可愛い。

 ちなみにトイレの下に放り込んであるので孤児院の地下にも住んでいる。

 大きさは40センチくらいだろうか。


 私はあらかじめ拾ってあった枝で、スライムをペチペチ攻撃する。

 そのうち核のすぐ横に刺さった枝でぷるっと核が取り出されて、スライムは死んでしまい、べっちょりと地面に横たわった。


「スライムの核、取れたよ」

「ほんとだぁ、すごーい」

「わっわっ、魔核? スライムの? ほほーん」


 大きさは3センチくらい。

 濃い紫水晶のような石というか結晶だった。

 中には夜空みたいに星が散っていて、かなり綺麗だ。


「これ、いくらくらいかな」

「えっとね、えと、銀貨1枚くらいだよ、たぶん」

「なるほど、ありがとう」

「ううん。私も1個持ってるんだ、ほら。お守り」


 サエナちゃんがワンピースのポケットから出してくれる。

 私の魔核ともそっくりだ。


 苦労して採ったホワイト草が3日分で銀貨5枚ぐらいだから、スライムがいっぱいいるなら効率的なのはスライム狩りかもしれない。

 ただ森はそこまで広くないので、毎日スライム狩りなんてしたら、取りつくしてしまうかもしれないけど。

 でも魔物は繁殖だけでなく自然発生するっていうし、無限の資源なのかもしれない。

 それなら遠慮なくバンバンとスライムをシバいて魔核を集める素材になってもらうか。


 さてもう少し森を探す。


「キノコ!」

「さすがトエだよぉ、見つけるの早い!」

「えへへ」


 キノコが切り株から生えている。


 私は心の中で密かに唱える。「鑑定」。


【ブラウンシメジタケ】


 うむ。これは大当たりだ。

 夕食に食べたこともある。


 その名前の通りシメジみたいで茶色をしている。

 そこそこの旨味があり、美味しいキノコちゃんだ。

 独特の風味があり、ほとんどの人は好きだと思う。ごく稀に匂いが嫌いという人もいるみたいだけど。


 ああそうそう、私は前世の記憶の影響か、鑑定が使える。

 ただし見えるのは名前のみだ。


 名前だけではあまり役に立たないのだが、草とかキノコの同定には、威力を発揮する。

 キノコや草の有用で基本的な種類は本で一通り覚えてある。

 あはは、私、えらい。

 ただし名前だけだったとしても、鑑定が使える人はこの世界では珍しいようで、トラブルを避けるために誰にも話していない。


 秘密だけど、四大属性の魔法も基本魔法は全部使える。

 応用はまだぜんぜん練習していなかったので、いくつかの種類があることは知っているけれど、使えるかは分からない。


 今日はボロい背負い袋を持ってきたので、キノコを入れる。

 残念ながらマジックバッグではない。

 この背負い袋はホワイト草を採っているのを知った上の子がくれた御下がりだった。

 アイテムボックスも実は使える。しかしこれも千人に1人くらいだろうか非常に稀で、商人や軍隊などに奴隷のごとく使役されるので、秘密にしている。

 あと私のアイテムボックスはレベルが低いみたいで、まだバッグ5個分くらいしか入らない。


 領主館から筆記用具、貴族のだけど着替え、護身用のナイフ、食べる用のナイフ、フォーク、お皿、コップ、ティーセットとかを入れてある。

 領主館の私室にはあまり物がなかったので、色々入れることができなかった。残念。


「このキノコ食べられるの?」

「うん、食べたことあるから大丈夫だよ」

「すごいね!」


 感心してるところだけど、次を探そう。

 1株だけだと出汁は出るけど全員が食べるとほんのちょっとになってしまう。


 魔法「リソース・サーチ」。


 あった。同じ種類のキノコだ。

 それからスライム君の気配も3つほど近くにある。


 私はなんとなく道先を誘導して、次のキノコポイントに向かう。


「見て見て、この切り株。大量!」

「すごい! すごい! トエ!」

「……いっぱい」


 クールなシリスちゃんも感激の声を上げる。

 この切り株には、一面にブラウンシメジタケが生えていた。

 これなら全員のスープにキノコが行きわたると思う。ありがとう神様。


 そしてスライム君3匹を順番に木の枝でシバして、魔核をちょうだいする。


「すごいすごい!」

「まあ、私たちならこれくらいはね」

「……ご飯豪華」


 そうして私たちはホクホク顔で孤児院に戻ったのだった。

 早く帰らないとお昼になってしまうもんね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る