第3話 ホワイト草の売却

 私が孤児院にきてから1週間。

 毎日、ちょっとずつ採って集めているホワイト草がいい感じに乾燥してきた。


 そして今日は話に聞いていた、出入りの業者さんがくる日なのだ。


 お昼ご飯が終わったころ、そわそわして待つことしばし。

 私は二階の窓から道を見ていた。

 丘を登ってくる一台の幌馬車が見えた。あれだ。


「きたきた~」

「お、トエちゃん、なになに」

「馬車きたよ、業者さん」

「おお、私も見に行く」


 私とサエナちゃんは玄関に向かう。

 他にもたまたま近くにいた子達が集まって孤児院の入口でお出迎えをした。

 修道院は建前上、男子禁制なので、こういう外部とのやり取りは孤児院で行うことになっているのだそうだ。


「「こんにちは~」」

「はい、こんにちは。ライエル商会のジョン・ライエルです」

「「わああああ」」


 ライエルさんは大人気だ。

 ここでは珍しい男の人というのもあるかもしれない。

 中年で太り気味でハゲかかっているけれど目とか優しそうなのだ。


 私はそれをそっと眺める。

 タイミングを計らないと。


 乾燥させたホワイト草の第一弾をこのおじさんに販売してみようと思ったのだ。

 一番最初に話しかけたら、がっついていると思われてしまう。

 かといって最後というのも何となく、おまけみたいな感じになってしまう、うーむ。


 ライエルさんはハムなどを納品してくれる。

 孤児院からは畑の野菜などを渡していく。

 それからヤギのチーズも少しあった。

 あとはワイン。このワインは少量しか生産していないそうだけど、領主様への献上用なんだそうで、領主館以外ではほとんど流通していないという。


 ここの修道院はほとんど自給自足もしくはこういう風に多少の商売をしているけれど、独立採算制になっている。

 そしてワインに関しては相場よりも高く、領主様が購入して支援してくれているのだ。

 領主様が独自のワイナリーを持ちたいという趣味でやっていることの一環なんだそうだ。

 それでライエル商会が孤児院から領主館に運んでくれる。


 さて、そろそろ塩梅かな。


「あの、ライエルさん」

「なんだい、お嬢さん? あれ、見ない顔だね」

「はい。新しく入りました、トエといいます」

「ほほう、よろしく」

「よろしくお願いします。それでですね。乾燥ホワイト草があるのですけど、引き取ってはいただけないかと思いまして」

「あぁホワイト草ね、いいよ、見せてごらん」

「これです」


 私は乾燥が進んで軽くなったホワイト草を後ろから前に出して見せる。


「ほうう、しっかりと乾燥しているね、うんうん。これならそこそこの値段になりそうだな」

「そうですか」

「いいね。悪くない。それじゃあ、銀貨5枚でどうだろう」

「銀貨5枚ですか?」


 そういえば私はあまりモノの値段に詳しくない。


 しかし銀貨10枚で金貨になることは知っている。

 大銅貨10枚で銀貨、銅貨10枚で大銅貨だ。

 それぞれ銅貨から10円、100円、1,000円なら銀貨5枚で5,000円くらいという感じだろうか。


「よく分からないのですけど、それでいいです。あなたを信頼して」

「おっ、うれしいこと言ってくれるね。じゃあおまけして銀貨6枚にしちゃおう」

「本当ですか。ありがとうございます」

「あはは、お嬢さん商売上手だね。はい銀貨6枚です」

「確かに。ありがとうございます」


 こうして私ははじめての収入、銀貨6枚を手にした。

 それを見ていた他の子たちもどうしようか、という顔をしている。


「それで銀貨6枚で何か買って行くかい?」

「そうですね。干肉ありますか? 銀貨4枚分ぐらい」

「あいよ。じゃあこれぐらいかな」


 両手でなんとか持てるくらいの量の干肉をいただいた。


「これは何のお肉なんですか?」

「これはフォレストウルフだな。森へ行けば、ちょくちょく遭遇するんだが、集団だとやっかいなんだ。味はそれほど悪くないだろう」

「はい、美味しいです」


 隅を少しだけ噛ってみたけれど、悪くはない。旨味もあり、まあまあ美味しい。


「おお、いい笑顔だ。商売冥利に尽きるね」

「はいっ」


 まあ、おじさんの好感度を上げても、個人的にはあまりうれしくはないけれど、商売は必要だ。

 こういう時美少女は得だ。えへへ。


 交渉と売買が終わった。

 私は干肉を持って、厨房へと向かう。


「すみません。干肉を買ったので、これも料理で使ってくれませんか」

「おや、なんだい? 新入りのえっと?」

「トエです」

「そうそう、トエちゃん。お金持っていたのかい?」

「いえ、空き時間にホワイト草を採取したので、それを売って」

「まあまあ、なんと。そりゃえらいねえ、わかった。お肉、料理に使わせてもらうよ。ありがとねぇ」

「いえいえ」


 そして午後の畑作業をして、夕ご飯になった。

 お肉がひとり2切れぐらいだったけど、スープに多めに入っていて、肉の出汁が出ていて、いつもより美味しく感じられた。


「お、なんか、スープ美味しいね」

「あのね、トエちゃんがお肉買ってくれて」

「ああ、それで肉が少し多いのか、えらいねトエちゃん! ありがとう」

「おお、トエちゃんか。なかなかやるじゃん」

「トエちゃん、ありがとう」


 みんなにヨイショしてもらって、ちょっとくすぐったい。


「ふふふ、トエちゃん、よかったね」

「うん」


 サエナちゃんの笑顔も見れたので、うれしかった。

 これで乳搾りの後は、本来なら休憩と遊ぶ時間なのだろうけど、有効活用できて、悪い気分はしない。


 スープも美味しかったので、この日はぐっすりベッドで眠ることができた。


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