第2話 ヤギと薬草
午前中、朝食後の仕事はヤギの乳搾りだった。
「こうやって、ぎゅってやって」
「ふむふむ」
サエナちゃんがヤギの乳搾りをするのを見せてくれる。
「えっと、指を順番にぎゅっと……」
「そうそう、そんな感じ、上手だね」
「えへへ」
ここにいるメスヤギは全部で8頭だ。
もうひとりシリスちゃんという子も含めて、今日は3人で手分けをして搾っていく。
うんしょ、うんしょ。
びゅーびゅーびゅー。
乳が飛び出してバケツに集まってくる。
力もちょっといる。
私は領主館ではやんちゃだったので、力も8歳児なので弱っちいものの、ただのお嬢様よりは断然強いのだ。
器用というか、ただの8歳児とは比べるべくもない、前世の記憶チートにより難なくこなしていく。
サエナちゃんとシリスちゃんが3頭ずつ、私が2頭の乳搾りを完了した。
「よし、終わりだね。トエちゃん、シリスちゃん、ありがとう」
「はい、お疲れさま」
「……お疲れ」
シリスちゃんはちょっとクールというか口数が少ない感じだ。
思ったよりも早く終わったらしい。
ヤギのミルクはそのまま孤児院の厨房へ持っていく。
これは沸かしておいて、冷ましてからお昼に飲むそうだ。
ヤギ小屋の掃除などは、他の子が担当していた。
またその間にオスヤギと子ヤギを外に連れていく子もいる。
分担作業だ。
ちなみにオスヤギは2頭を残して2年ぐらいで食用に解体されてしまう。恐ろしや。
「じゃあ次は?」
「私たちの午前中のお仕事はこれでおしまいだよ。あとは他の子がやるから」
「そっか」
まだお昼までは2時間ぐらいあるだろうか。
「ねえ、この丘全体が修道院の敷地なんだよね?」
「そうだよ」
「じゃあさぁ、この平原に生えてる薬草とかは採ってもいいのかな?」
「ん? いいと思うよ。私たちはお花を摘んだりするわね」
「そうなんだ、ふんふん」
ヤギの放牧地なのか北側斜面は畑にはなっていなかった。
南側斜面は小麦畑、ブドウ畑、野菜畑が広がっていた。
「よし、じゃあ薬草を探してみよう」
「え、あ、うん」
「あの、私はちょっとお姉ちゃんのところに行ってくるね」
「え? あ、うんいいよ」
「じゃあね、またね、ばいばい」
「ばいばい、シリスちゃん」
シリスちゃんが行ってしまった。
次に仲良くしようとしていたのに、ちょっと残念だ。
でもまあ、今はサエナちゃんと仲良くしよう。
二人で丘の広い北側斜面を歩く。
下草はそれほど伸びていない。
タンポポのような草や青い花、赤い花、いろいろな植物があった。
そうして見つけたのが、薬草、ホワイト草だ。
「ほらこれが薬草」
「へぇ」
サエナちゃんが感心した声を上げる。
他の草より葉っぱが少し白っぽい。だから日本語でいうならホワイト草。
ここに来る前、領主館の周りにも少しだけ生えていた。
これは本による知識だった。
館のメイドさんもこの草は知っていたので、知識をすり合わせてほぼ間違いないことは確認済みだ。
鑑定でも名前だけは確認できる。
簡単に言うと初級ポーションの材料になる薬草だ。
だから冒険者ギルドで買取をしている、はずなのだ。
値段とか細かいことは知らないけれど、もしかしたら少しはお金になるかもしれない。
「どうかな」
「すごいとは思うけど、よく分かんないや」
「そうだよね。とりあえず同じ草があったら集めよう」
「分かったっ」
二人でその辺を歩き回り、ホワイト草を集めていく。
2時間もあれば、かなり採れた。
両手に一杯、持つのが大変なぐらい。
そして、まだまだこの辺には沢山生えている。
どうもこの北側斜面という少しだけ日照が悪いのが薬草の条件によいらしい。
領主館でも木陰とかに生えていたので、そういうことだろう。
頑張って孤児院まで持って帰る。
「ちょっと、ふたりとも、それは?」
院長先生に見つかって、ちょっと怖い顔を作って聞いてくる。
まあ実際には困った子ね、という感じだけど。
「これはホワイト草です」
「あっ、ああ、薬草の? それがそうなのね?」
「そうです。見分け方が簡単で間違えることも少ないので、集めてみました」
「そうね、確かに他に白い草は生えてないわね、うんうん」
院長先生の顔も機嫌がよくなって、なんとか無事に済んだ。
部屋に持って帰る。
そして冒険者だったら、すぐそのまま納品するらしいんだけど。
私たちはこれをすぐに冒険者ギルドに持っていくことができない。
ギルドは丘を降りて貴族街を通って市民街の真ん中まで行く必要があって遠いのだ。それに私たちは基本的に孤児院と修道院の敷地から出ないので。
それでひと手間加える。
といっても簡単だ。
10本くらいを束にして根元を別のホワイト草で縛って上下ひっくり返して、壁に掛けていく。
これで乾燥して、ドライフラワーのようになる。
ポーション材料として使われるんだけども、多くの場合下処理として、このように乾燥させる必要があるのだ。
特に冬の間はこの草自体が枯れてしまって生えていないので、秋までに収穫したものを乾燥させて使う以外になかった。
だから乾燥させたほうがその手間賃分、高値で売り買いされる。
えへへ。どうじゃ。
これを売って、お金儲けするんだ。
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