第13話 バリスタ
これは何年も前の話である。ラスタリアが王国として存在していなかった時代、そして、国王とバリスタ・レオンハートがまだ共に戦っていなかった時代である。
子供のころ、バリスタは何でも手に入った。彼は王家に生まれ、当然のことのように望むものすべてを用意させていた。贅沢な料理やシルクの服、そして女まで。彼は聡かったが、何事に関しても深く考えはしなかった。彼にとって人生とは娯楽であり、豪奢で自由なものであった。
しかし、そんな人生は長くは続かなかった。
ある日彼の父親が、悲しそうな顔で彼にあることを伝えに来た。
「我々はすべてを失った。お前の弟が我が家の財をすべて賭博に溶かしたのだ。心が痛むが、お前を奴隷として売り飛ばさねばならん。」
バリスタは父親の言うことが全く理解できなかった。「すべて失った?財をすべて溶かした?」
「奴隷、だって?」
彼はただ石像のようにそこに立ち尽くしていた。
「どうか悪く思わないでくれ。それしか方法がないのだ」
それが父親から聞いた最後の言葉であった。
翌日は地獄だった。いや、「地獄」という言葉はあまりにも軽すぎる。地獄の第七階層に落ちた心地だった。
彼は奴隷となり、他の王族に仕えることを余儀なくされていた。洗濯や皿洗いなど、一生することはないだろうと思っていた日常の雑務を強いられた。
しかし、そんなことは子供たちが彼にさせた「遊び」に比べると何でもなかった。
彼が空腹にあえいでいるとき、子供たちは彼を椅子に括り付けてこんな遊びをしていた。
一人の子供が棒をはちみつに浸し、その棒を彼の口の前でぶらぶらと揺らす。
「おい!舐めろ!」
宮宰となった今でさえ、バリスタはいまだに「舐める」という単語を聞くと不快感を催し、恐怖まで抱く。周りの者にはその単語を使わないように命令している。
ほんの少しでもはちみつを舐めることが出来ると、その「クソガキ」は棒を引っ込めた。
しかし彼は空腹が限界だったので、何度も何度もはちみつを舐める他なかった。そうしている間その家族の子供たちは気が狂ったかのように笑い声をあげていた。
だが、彼はその中で、助けようと声をかけることもないが全く笑ってもいなかった子供が一人いたことを覚えている。
後に王となる男である。
彼は憎しみからその子供の顔を覚えようとした。ほかの子供に対する憎しみよりは小さかったが、それでも憎しみであることには変わりはなかった。
ある日、彼はごみを捨てに行くように命じられた。
裏路地に入ると、彼は何か不気味に輝くダガーを見つけた。のこぎりのような奇妙な形状で、震えあがるほどかなり強い冷気を放っていた。
「小僧、私が見えるのか?」
バリスタはしばらくしてようやくその声がダガーから聞こえているというのを理解した。
「お前はとてもいい。ずっとここで待ち詫びていたのだ」
「来い。そして私を拾え」
バリスタは好奇心に押され、そのダガーの言うとおりにした。
「それでよい。今から私がお前の主人だ。お前が私に所有されているのだ。お前が私を守る限り、私もお前のことを守ってやろう。だが、万一お前が私を裏切ったときは即座にお前を殺す。努々忘れるな」
バリスタはダガーの切れ味がどれほどか知りたかったため、壁を切ろうとしてみた。
身の毛のよだつような緑色の光線が短剣から飛び出し、蛇のように渦を巻いた。
爆発音とともに、壁はすべて崩れ落ち、レンガは四方に飛び散った。
バリスタは驚嘆し、その場に突っ立っていた。
彼は、これからの人生が劇的に変わってしまうということを悟った。
そして、自分が今すぐにしたいことが何か、ということも。
俺の「嫁」にそっくりな姫様と異世界に行った結果、何だかんだで無理矢理竜女のペットにされたんだが。 宮村光る @hikaru_miyamura
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