第10話 特別なアリ
アイナは行列を両方指さしながらそう尋ねた。アイナの説明を聞いて、啓史は学校の物理の授業を思い出していた。啓史は物理の計算問題を解くのは大の苦手だったが、物理の発想力にはたけていた。イメージがうまく湧かないとき、啓史は友人によく頼られていた。
そのため、啓史はなんとなくアイナが言おうとしていることが理解できた。
「そういや啓史くんって呼んでくれるって約束しただろ。まあとにかく、言いたいのは世界線がアリの行列で、その中のアリがその世界線に住んでいる人、ってことだろ。ある世界線の人は他の世界線の人を認識できない、と」
啓史は我ながら自分が理解したことに自信があった。実際、それは当たっていた。
「その通りです、勇者様……あ、ごめんなさい、啓史くん。正解です。でも、もし他のアリよりも賢いアリがいて、そのアリが二つの行列を認識することが出来たとしたらどうなるでしょうか?」
アイナは器用にアリを一匹つまみ、もう片方の行列に移した。
「そのアリは、いや、その人はと言うべきかな、その人は世界線の間を移動できるだろうね……ああ、なるほど!」
アイナは微笑んだ。
「ええ、分かったみたいですね、啓史くん!私はそんな感じの特別なアリ、ってことです」
「てことは、君は他の世界が見えるのか?」
「そう思ってもらって構いません……って、あら?」
しゃがんでアリを観察していると、アイナが急に視界から消えてしまった。
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