第5話 恥ずかしい

まるで啓史をさらに困らせようとしているように、アイナは啓史の恥ずかしがった顔に猫のように這い寄り、まじまじと目を見つめた。

「勇者様、ご気分が優れませんか?」

「もしかして2世界間の移動で体調を害してしまわれたでしょうか」

啓史はかなり気まずかったが、何とか

「いや、大丈夫、全然大丈夫だよ」

と口にした。

それを聞いてアイナは後ろにもたれかかり、脚を内股に曲げてベッドに座った。

啓史は安堵のため息を漏らし、

「それより、今2世界間の移動って言った?」

と尋ねた。

「はい、ポータルをくぐる合意を頂き、あなた様、勇者宮村様は世界の次元を渡り我々の国に到着されました」

(じゃあ俺は本当に異世界に来たのか……これは現実か?いや、まだ夢を見ているのかも……でも、それにしてはリアルすぎる……)

啓史はそう思った。そして、少し気になっていたことを尋ねた。

「えっと、ちょっと気になってたんだけど、そこの床にある円いやつは何?俺をこの世界に召喚する魔法陣とか?」

啓史は少し前から気がついていたその不思議なものを指さした。

「ああ、そちらですか。おっしゃる通りそちらは魔法陣ですが、私が異世界に渡るためのものです」

「てことは……君は自分自身で異世界に行けるのか!それってすごくないか?もしかして、君はとても強かったりするのか?」

「そんなに強くありませんよ。ただ魔方陣を描いて、世界の線をイメージすればいいだけですから……かなり消耗はしちゃうんですけどね」

「描くって?何で描くんだ?」

啓史はアイナの言った「世界の線」という言葉に少し興味がわいていた。この種の「パラレルワールド」のようなものはSF映画で描かれているのを聞いたことはあったが、よく理解はしていなかった。彼は物理科学には弱いのだ。しかし彼はどんな素材で魔法陣が描かれているのかと言う方により興味が湧いていた。

「……」

アイナが彼の質問に答えないのは初めてだった。そのため、アイナの言葉は少し自分のものとは違うのかもしれないなと思い、彼はもう一度質問を繰り返した。

「なあアイナ、何を使って魔方陣を描いたんだ?」

「だえ……」

アイナが口ごもりながら言ったため、啓史にははっきりと聞こえなかった。そのため、もう一度聞き返した。

「だえ……?」

「唾液です!私の唾液は、ポータルを開く魔方陣を描くために必要な秘密の要素なんです!なんでそんなことを知る必要があるんですか?もう!ばか!」

啓史は地雷を踏んだことを悟った。

「ああいや、知らなかったんだ!ごめん、ほんとにごめん!」

「……気にしませんよ。勇者様が私にお尋ねになったんですから。本当に」

「……」

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