第3話 王様
遠く離れた異界の地で、怪しげな集団が森の中を進行していた。
皆、顔が分からないように頭と口を覆っている。何者かを暗殺しようと目論んでいるためである。
近くを舞う蝶たちにはこんな言葉が聞こえていた。
「バッハッハ、あの忌まわしい小娘め。ついに消え失せおったわ!どれだけこの瞬間を待ちわびたことか!」
「異世界に行って勇者を見つけ出すだと?好きにするがいい!なんと浅はかな考えを姫君はお持ちなことだ。勇者が見つかるなど、本気でそんなことを考えているのか?」
一団のリーダーは王国の宮宰、バリスタ・レオンハートである。
彼は王の暗殺を企てている。現在城は手薄で、筆頭魔術師は任務に出向き、例の姫君も異世界へ行ってしまった。王を暗殺するにはこの上ない機会である。と、彼はそう思っていた。王国では、彼の権力より上に君臨する者は国王ただ一人だった。
つまり、王が死ねば、彼が王座に就き絶対的な権力を手に入れることができる。
「開門!門を開けよ!」
バリスタは自らが率いる軍に道を開けるよう命令した。自分が新国王となるまでそう時間はかからないだろうと考えていた。しかし残念なことに人生というのはそう思った通りにはいかないものである。
バリスタとその部隊は門を駆け抜け入城したが、何もないはずのところに衝突したような感覚に襲われた。その衝撃で辺りには轟音が鳴り響き、一団は城門と王宮の庭園との間で押し止められていた。その後、大きな力ではじき返された。
「なんだ?どうなっておるのだ」
誰の姿もなく、一団は大いに困惑した。しかし、誰も通り抜けることができない。何度も入城を試みたが、何か見えないものに押し返される。
「チッ、これは…魔法か?」
「バリスタか?」
深く、しゃがれた声が一帯に響いた。バリスタはすぐに声の持ち主を悟った。王である。
「陛下!」
「すまぬが、今は誰も城に入ることはできぬ」
「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか、陛下」
「余はこの結界でこの城を護るのだ。誰も入ることも、出ることも叶わぬ」
「……」
バリスタはポケットからマジックグラスを素早く取り出し、装着した。この眼鏡を通すと、ほとんどの一般的な不可視魔法を見ることができる。まさに国宝である。その状態で彼は城に目線を向けた。
「何だこれは?」
そこに見えたのは、城の頂から広がり城壁を丸ごと囲う黄色の結界であった。
王が魔法を用いて結界を張り、城全体を覆った。この事実は彼に衝撃を与えた。
いつから国王はこんなにも強力な魔術師になったのだ?バリスタは甚だ困惑していた。
「我が娘が戻るまで……それまでの辛抱だ」
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