第8話 夢

「とおるはしってる? なんでわたしのなまえが、あかねっていうのか」

「しらないけど」

「それはね、ここでみれるゆうひが、とてもきれいだからなんだって」

「へえ」

「それでね、ゆうひがきれいなときは、ちゅーするんだよ」

「ちゅー?」

「いいから。とおるは、めをとじてて」

「…………」

「もう、あけてもいいよ」



 ゆっくりと目を開ける。

 どうやら眠ってしまっていたようだ。茜の膝の上で。


 それにしても懐かしい夢だった。あの出来事は幼稚園の頃だっただろうか。

 それよりもなんだか鼻がムズムズする。今って花粉症の時期だっけ――と思ったところで自分が置かれた状況に改めて気づく。


「ええっ、膝の上!?」


 慌てて起き上がろうとすると、茜に押さえつけられてしまった。


「もうちょっと横になってて欲しいかな少年。今、膝枕のデータを収集しているところだから」


 茜の体を支配しているのはアオだった。

 僕は膝枕されたまま彼女の顔を見上げる。


「来ないかと思ったよアオは。だってここには青く光る場所なんてないじゃないか」


 アオは呆れた表情で僕を見下ろす。


「私は酸素分子なのよ。どこにだって移動できるし、青く光る必要だってないんだから」


 そう言われればそうなのかもしれない。


「それに約束したでしょ?」


 アオは前を向く。僕も彼女が見つめる海に目を向けた。

 太陽が沈もうとしている空は、見事に赤く染まっていた。

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