第5話 茜の魅力

「アオさんって酸素分子なんですよね? 酸素分子は無色って習いました。でもなんでアオさんは、あんなに綺麗に青色に光ってたんですか?」


 これは純粋な興味だ。

 そのメカニズムが分かれば、本家本元の青い池の参考にもなるだろう。


「それはね、レイリー散乱のおかげなの」


 レイリー散乱?

 また難しい言葉が彼女の口から飛び出した。やっぱりこの存在は茜ではない。


「少年は可視光の波長ってどれくらいだか知ってる?」


 話の内容が全く分からない。

 難しいことを口にする茜はちょっと刺激的だったけど、ここまで理解できないと自分が嫌になる。


「何ですか? そのカシコーって?」

「カシコーじゃなくて可視光よ。目に見える光のことで、三八〇ナノから七八〇ナノメートルが波長なの」


 もう諦めた。

 どうせ分からないんだったら難しい文学や漢詩でも聞いていると思えばいいんだ。


「この波長よりも小さな粒子に光が当たるとレイリー散乱が起きるんだけど、青い光ほど周囲に散らばるのよ」


 楽しそうに話を続ける茜の中の存在。

 こうしてじっくり眺めてみると、茜って結構可愛いと思う。

 少し垂れめの二重の大きな瞳。柔らかそうな丸めの頬に、唇も少し厚めな感じが特徴だ。


「一方、酸素分子の大きさは〇・三五ナノメートル。可視光の波長の千分の一以下だから、大気中でレイリー散乱が起きて空が青く見えるの」


 なんとなく分かってきた。

 茜ってすごく女性的な容姿なんだ。だからいつものバカ話はギャルっぽく見えてしまう。

 でも難しい話を楽しそうに話す瞳の輝きは、なんだか新鮮に感じてしまうんだ。


「ねえ、わかった? 私たち酸素分子が青く光るメカニズム」

「え? えっ……」


 まずい、全く聞いていなかった。

 青く光るメカニズム? いやいや全然わからない。

 僕の頭は真っ白になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る