第十五話 望まぬ邂逅
そして翌日。
今日は冒険者になって五日目だ。だからというわけでもないけど、売店で性能の良い『ミドルポーション(一万円)』を三本購入した。
一万円なんて大金、ちょっと前なら拝む機会すら珍しかったのに……そんな商品を三つも買ってしまう自分が恐ろしい。ちょっと金銭感覚がマヒしてきてるかも……。
とはいえ、危険がつきものの冒険者。備えあれば患いなしというものだ。芳樹さんもポーションは切らさないようにって言っていたし。
今日は八階層まで足を運び、相変わらず上がらないレベルと睨めっこしながら魔物を狩り続けた。
今日一日で思ったけど、レアモンスターと遭遇する回数が多い気がする。他の人がどれぐらいなのか知らないから、僕の思い違いかもしれないけど。
五階層では毒をまき散らすポイズンバット。六階層では地面に隠れて生き物を捕食するハイドワーム。七、八階層では巨大なアルマジロ型の魔物であるダンジョンホイールと戦った。
どれも強敵だったけど、特にダンジョンホイールには苦戦した。硬い皮には短剣の刃が通り辛く、二体目を倒した時にはレンタル短剣がダメになってしまった。
まあレアモンスターの魔石とドロップアイテムがあったおかげで収支は黒字なんだけど。
換金所にはいつも通り指宿さんがいて、山田さんに情報を売ったことへの恨み言を吐かれたりしたけど……概ね今日は平和だったきがする。
レベルは上がらなかったけど。もう無我の境地に達しているので問題はない。
進藤行人
レベル1
攻撃:51→58 耐久:33→41 敏捷:84→101 器用:36→52 魔力:0→0
スキル:短剣術15 スライムスレイヤー 双剣術13
ついに敏捷のステータスが三桁に乗った。そろそろスキルに変化が欲しいところかな。
僕が今持っている三つのスキルは、どれも『汎用スキル』と呼ばれる──言ってしまえば、誰でも手に入れられるものだ。
武器系スキルの短剣術と双剣術はもちろん、スライムハンターという汎用スキルの進化系のスライムスレイヤーも汎用スキルのカテゴリに入る。
スライムスレイヤーに至っては、持っている冒険者を雑魚狩りのプロと揶揄する風潮があるらしい。芳樹さんは「MT免許取得者がAT免許の人を馬鹿にするようなものだから、きにしなくていいよ」と言っていたけど、そもそもAT免許とMT免許の違いが僕にはわからなかったので曖昧に頷いておいた。
なんか変な方向に話がそれてしまった。
スライムスレイヤーが「変化する」スキルなら、短剣術と双剣術は「成長する」スキルだ。横についている数字が、いわゆる「スキルレベル」と呼ばれる物。
スキルレベルの上限は、50。上限まで上げると、上位のスキルを覚えられるようになるらしい。そう考えると僕はまだ道半ばだ。
また、僕は持っていないけど、スキルにはレアスキルとユニークスキルと呼ばれるものがある。
レアスキルは発現しにくく、故に大きな恩恵を冒険者にもたらすとされるスキル。
ユニークスキルは、文字通りその冒険者しかもっていない、世界で唯一のスキルだ。冒険者で大成するにはこのユニークスキルが必須とも言われていて、超級に上がる冒険者は、最低でも一つユニークスキルを持っているらしい。
なんとも遠い世界の話だな……僕にもいつかレアスキルかユニークスキルが発現するんだろうか。
いや、それよりもまずレベルを上げるのが先か。
まあそれでも、この調子だと、明後日には相模原ダンジョンのボスに挑戦できそうだ。そう考えると、なんだかわくわくしてくる。
気分がいいので今日は先延ばしになっていた前田家へのお土産でも買って帰ろうかな──と思っていたところに、僕のスマホがぶるぶると震えた。着信を知らせる振動だ。
「美紀子さんかな……って、我妻さんからだ」
スマホのディスプレイに映る名前に僕は目を見張った。慌てて通話ボタンをタップする。
「もしもし」
『もしもし、進藤? 今話せる?』
「どうしたの急に」
『ごめん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……いいかな?』
「大丈夫だよ』
『よかった、ありがとう。詳しい話をしたいんだけど、今日はギルドにいる?』
今日中に、直接会って話したいなんて……よっぽど大事な話なのかな。
どんな内容か見当もつかないけど、断る理由もない。
「うん。この前の食堂で落ち合おうか?」
『そうだね。私は着替えて行くから、進藤は待ってて』
「わかっ──うわっ⁉」
通話中の僕の腕が、何者かによって掴まれた。そのまますごい力で引き上げられる。
『進藤⁉ だいじょう──』
異変に気付いた我妻さんの声は、あっさりと途切れた。腕をつかんできた人物が、通話終了のボタンを押したからだ。
「──おい進藤、ちょっとツラ貸せや」
「つっ──なん、で……」
大柄で、鍛えられた体。威圧感のある声。何度も痛めつけられた、強い力。
この夏休み中、一度も会いたくないと思っていた同級生──
「鷲崎……っ」
鷲崎傑が、蔑むような瞳で僕を見下ろしていた。
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