第十四話 ウチの魔物は普通じゃないかもしれない

「ゲギャガ!」

「「「グギャア!!」」」


 リーダーの鳴き声に応じて、三体のゴブリンが飛び掛かってくる。その内の一体──僕から一番近くにいたゴブリンを右手のダイアウルフの短剣で絶命させる。


 そして身を翻し、左方向のゴブリンにレンタルナイフを突き立て討伐。

 最後に中央のゴブリンの体を二本の刃で切り裂いた。


「ゲギギ……ゲギャガガガ!!」


 悔しそうにするゴブリンリーダーが、また声を上げる。

 従うのは六体の小鬼。タイミングの揃った一斉攻撃。


 迫りくる六本の棍棒をひきつけ──僕は後ろに跳んだ。

 ゴォン、と地面が砕ける音。空振りして洞窟を叩いたゴブリン達は、「グギ⁉」と痛みにうめく。


 戸惑っている彼らの急所に迷いなく短剣を振るった。

 倒れ伏すゴブリン達。もう僕とゴブリンリーダーの距離は大分近づいている。


「ゲギギギギ──ゲギャア!!」


 ついにゴブリンリーダーが自ら動く。普通のゴブリンより小柄な体で、普通のゴブリンよりも大きな棍棒を振りかざす。


 けど──隙だらけだ!


 僕は空いた魔物の胸元に狙いを定め、逆手に持ったダイアウルフの短剣を突き刺す──


「──あっ⁉」


 ──その直前で、がくっと体が止まった。何かに足を掴まれている感覚。

 嫌な予感を覚え眼球を下に走らせると、先ほど倒した六体のうちの一体が、這いつくばりながら僕の足首を掴んでいた。


「しまっ──!」


 逸りすぎて、魔物の消滅を確認していなかった……!

 後悔しても、遅かった。


「ゲギャア!」

「ぎっ⁉」


 棍棒が振り下ろされ、頭から全身に衝撃が走る。頭から噴き出た鮮血が、地面に血痕を残す。


「ゲギャギャギャ‼」

「がぁ──!」


 硬直する僕の体に、今度は横殴りの棍棒がお見舞いされた。


 なすすべもなく吹っ飛ばされ──その先には、待機していた十体のゴブリン。


『グギャアアアアアアアアア‼』

「ぐっ──あぁああああああああああああああ‼」


 痛みに呻く体を全力で起こし、なりふり構わず両手の剣を振るう。

 十体のゴブリンは吹き飛ばされ、やがて光の粒子となって消えた。


 その向こうに、僕に飛び掛かかるゴブリンリーダーの姿。


 ──死ぬ。


 直感する。


 避けられない。がむしゃらに剣を振り回し無理な体勢をとったせいで、回避行動に移れない。力をうまく伝えられないから、防御もできない。


 全てゴブリンリーダーの手のひらの上だった。最初から最後まで奴に踊らされていた。


 そう悟るころには、もう、ゴブリンリーダーの得物がすぐそばまで迫っていて──


「コルルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 その棍棒ごと、ゴブリンリーダーの体を炎が飲み込んだ。


「ゲギャアアアアアアアアアアア──⁉」


 ゴブリンリーダーの断末魔の叫びが響き渡った。


「って、うわあああああああああああああ⁉」


 炎は当然、射線上にいた僕の体にも迫る。呆けていた僕の体はたちまち炎に包まれた。


「……って、あれ?」


 なのに、僕の体は無傷だった。炎は僕の体を這うだけで、熱も痛みも無い。


「ゲ、ギャ、ギャ……」


 一体どういうことなのかと戸惑っていると、ゴブリンリーダーが光となって消え去っていった。魔物にはダメージがあったらしい。


 えっと……本当にどういうことなんだろう。


 気になるけど、まずはダメージの回復だ。

 ポーションを取り出して飲んでいると、小さなシルエットが僕の元に飛んできた。


「──コルー!」

「コル──ぐへ!」


 突進してきたコルに腹部にぶつかられ、僕は再びダメージを受けた。


「痛た……コル、今の炎は君が?」

「コル! コルル! コ~ルル!」


「凄いだろー」と言ってるようだ。実際に凄かったけど。敵だけを倒す炎なんて、集団戦でひっぱりだこになるような力だ。

 というか……。


「コル……コルって飛べたんだね……?」

「コル?」


 はて? と首を傾げるコル。そっちには気付いてなかったのか……。


 なにはともあれ、僕とコルは無事にゴブリンリーダーとそのお供戦に勝利することができた。少し締まらないけど、今はそれを喜ぼう。


「ありがとう、コル。また助けられちゃったね」

「コル!」


「全くしょうがない奴だぜ」みたいな雰囲気で、尻尾で肩を叩かれた。ボディランゲージの仕方はあんまり変わってないな。


「いつからあの炎を吐けるようになったの?」

「コルコッル」


 ついさっきらしい。綱渡りにもほどがある。


 というか、絶体絶命のピンチを救ってもらったのは確かだけど、とどめを持っていかれた気がしてちょっと悔しい。過程では完敗していたし、ゴブリンリーダーにはいつかリベンジしたい。


 思うところは後で解消するとして、コルにはウエストポーチに入ってもらう。宝部屋には結構人が訪れるからだ。


「そうだ宝! 宝箱の中身を確認しよう!」


 僕は炎の残る地面を踏みしめ、部屋の奥にポツンと置かれた宝箱に駆け寄った。

 想定外ではあったけど、激戦を乗り越えた末に辿り着いた報酬なので、ちょっといいものが出ると期待したい。


 高鳴る心臓を自覚しながら、僕は宝箱のふたを開けた。


「これは……!」


 中に入っていたのは、革製の靴だった。靴というより、形的にはブーツに近い。側面に羽のような飾りがついている。


「装備品……しかも、足元の装備だ!」


 これでスニーカー生活から脱出できる!

 最高の報酬を抱えた僕は、いそいそと宝部屋を後にした。


 ギルドに戻って調べると、僕が手に入れたのは『吟遊詩人のブーツ』という名前の装備だった。

 装備者の敏捷を少し上げてくれるらしく、初心者にはおすすめの靴らしい。


「いやあ、頑張った甲斐があったなぁ」


 さっそく更衣室で靴を履き替え、姿見の前に立つ。

 おお……なんだかすっごい統一感だ……! おしゃれは靴から、というのは本当だったんだ……!


 すっかりゴブリンリーダーとの闘いでの疲労を忘れ気を良くした僕は、そのまま再びダンジョンへ潜った。


 五階層で再びゴブリンリーダーと鉢合わせたが、十五体ほどしかゴブリンを引き連れておらず、コルの手を借りることなく無事にリベンジを果たすことができた。


 色々と危ない場面はあったけど、結果的に僕は今日の探索を満足のいくもので終わらせられた。

 ……レベルは上がらなかったけど。


 進藤行人

 レベル1

 攻撃:44→51 耐久:24→33 敏捷:74→84 器用:31→36 魔力:0→0

 スキル:短剣術13 スライムスレイヤー 双剣術11


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