第九話 お手上げです
進藤行人
レベル1
攻撃:8→20 耐久:7→16 敏捷:18→30 器用:10→20 魔力:0→0
スキル:短剣術10 スライムキラー(膨大な数のスライムを倒した者の証。スライム系の魔物と戦う際に全ステータスに小補正)
双剣術2(両手に武器装備時、攻撃に中補正。敏捷に小補正。補正値はスキルレベル依存。スキルレベルが上がるにつれ、武器を落とす確率が低下)
レベルが……レベルが上がっていない……。
ステータスは大きく伸びたし、新しく双剣術というスキルも手に入れられたけど……違う、そうじゃない……!
「なんかもう無理な気がしてきた……僕って一生レベル1なんじゃないかな……」
「コ、コル! コルル!」
珍しくコルが動揺しながら僕を励ましてくる。今はその優しさすらも痛い。
「……僕、冒険者に向いてないのかな」
千載一遇のチャンスを物にできないようでは、一瞬に生きる冒険者なんて夢のまた夢だ。
「コル、コッルルコルル!」
「もう一回エクススライムを倒したらレベルが上がるかもって……そんなに何度もエクススライムが現れるわけないでしょ──」
ガイン──ァイン──イン──ン──
コルを窘める僕の耳が、確かにその聞き覚えのある音を捉えた。
背後にある、モンスタールームから。
「「ッッ!!」」
僕とコルは互いに目を見合わせた。
「──コル‼ さっきみたいに他のスライムの相手をお願い!」
「コル!」
なりふり構っていられない。僕はモンスタールームに飛び込んだ──!
そうして、数時間が経過した。
腕時計──スマホはギルドのロッカーに預けている──で時間を確認すると、午後四時を示していた。昼食時はとうに過ぎていて、僕は食べ損ねていたおにぎりをもそもそと租借した。
ごくん、と嚥下して僕はため息をつく。
「ダメだった……」
「コルゥ……」
進藤行人
レベル1
攻撃:20→44 耐久:16→24 敏捷:30→74 器用:20→31 魔力:0→0
スキル:短剣術12 スライムスレイヤー(スライムを殲滅した者の証。スライム系の魔物と戦う際に全ステータスに中補正)
双剣術10
もはや見慣れた「1」の数字が瞳を焼く。いっそこれが「1000」を表していて、四桁以上の数字は省略されているとかだったらいいのに。
あれから追加で五体のエクススライムを倒したというのに……数字が動くのはステータスとスキルの欄だけだ。魔力は除く。
対スライム系のスキルも大分物騒な名前に代わっていた。これは、エクススライムを出現させるために他のスライムをコルと共に狩りまくったからだ。
どうやらスライムのモンスタールームには低確率でエクススライムが出現するようだった。なので、リポップを促すためにスライムを狩って狩って狩り続けた。
結果として、最初の個体と合わせて計五体のエクススライムを倒すことができた。双剣術があったおかげで手数を増やすことができ、攻撃と耐久のステータスが上がったことで戦うごとに安定感は増していった。
「──とはいえレベルが上がらないんじゃ意味ないよ……」
僕は壁に背を預けて途方に暮れた。強くなっている感覚は、ちょっとある。けれど、目に見える数値が──冒険者として成長しているという証が欲しいというのが正直なところだ。
「なんかすっごい疲れた……期待してただけに……」
「コル! コル、コルル!」
コルが励ますかのように脚を叩いてくる。なんて優しい子なんだ……昨日と同じように落ち込んでいる僕に愛想もつかせずそばにいてくれるなんて……。
「コルは僕の天使なのかな……」
「コル……」
あほなこと言うな、みたいな感じのため息をつかれた。これこそコル。
「今日はもう帰ろうか。レンタルナイフも壊れちゃったし」
五体目のエクススライムを倒した際に借り物の短剣の刃に罅が入ってしまった。その弁償金一万円のことを思ってまた気が重くなる。
重い足取りを動かしながら、僕はダンジョンの出口へ向かい始めた。
「……とはいえ、エクススライムの魔石と、二個だけだけどドロップアイテムの『エクススライムの硬皮』も手に入ったし……多分弁償代は賄えるかな」
手に入るとは思っていなかったので金額は調べてないけど、レアモンスターの魔石はそれだけで高く売れるはずだ。
となると、今日の収支はプラスに──それもかなりの黒字になる可能性が高い。
「……コル、今日は帰りにコンビニのチキンを買ってあげよう」
「コル⁉」
ポーチに入った本日のMVPは僕の言葉にぴく、と体を震わせる。
「──それも、二個」
「コル! コルルル! コルー!」
肉が大好きらしいコルは喜びの声を上げた。よっぽど興奮しているようで、ばっふんばっふんとウエストポーチが跳ね回る。
「こらこら、ちゃんと大人しくしてよ。もうすぐ他の人達もいるスペースに出るから──」
「──あれ、進藤?」
コルを宥めようとした僕は、その声に固まった。
聞き覚えのある声。夏の太陽のように眩しくて、明るい声。
「偶然だねー……っていうか、そのカバンの中、何入ってんの?」
ぎぎぎ、と首を回した先に立っていたのは、一人の少女。
我妻愛稲さんが、表情を強張らせて僕を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます