第38話 詐欺師の末路1

キスとペットを見てきた午後、依頼者が訪ねてきた。

依頼者は秘書スタイルで着飾ったNPCだった。


「こんにちは、ミスター·プロフェッサー。」

「本当に久しぶりだね、ミス·シルピア。」


ミス·シルピア。

対外的に単純な総合防衛大企業のUEAがプロフェッサーに依頼がある度に送ってくる接線策を担当した女性NPCだった。


「そう、今日の依頼はあなたが喜ぶと思います。」

「ほう、理由は?」

「お金になる依頼なんです。」


話し終えた彼女はすぐにデバイスを取り出し、ホログラムで標的のデータを表示した。


「君臨者の友人たちらしね。」

「正確には彼らと結託している、ZKの傘下ギルドの一つです。」

「プオ商会…か。」

「ここを殲滅するのが今回の依頼です。」


きれいな口調で殲滅という恐ろしい発言をした彼女は、追加事項を付け加えた。


「さらに、ここに所属するユーザーたちを5回ずつ射殺してください。」

「……なるほど、それでお金になる依頼なのか。」

「……」


ユーザ射殺依頼には別途に射殺回数を指定することができた。

当然回数が増えるほど費用が増えるので、よほどでは3回以上かけることは少なかった。


ところが、商会人員全体を5回ずつとは、よほど痛ましい依頼だった。


「何か大きなトラブルがあったのかな?」

「…奴らは詐欺師です。」

「……」

「君臨者側で採掘中の希少素材を高値で密売することにした後、お金を受け取って行方をくらます手口で、すでに複数のギルドがやられました。」

「君臨者らしいやり方だ。」


君臨者側のユーザーたちの中には質の悪いユーザーが多く、時々このように各種詐欺や狭雑質で物議を醸す場合が多い方だった。


おかげでほとんどのクランやギルドから信用されないことでも有名だったが、今回の標的は仕事をかなり大きく開いて回ったようだった。


「彼らに被害に遭った他の中小ギルドもこの依頼のためにお金を払うことにしました。」

「…なるほど、それで5回かけられるのか。」


すなわち、今回の依頼は単純にUEA単独依頼ではなく、彼らに金をだまし取られた人々全員の復讐であるわけだった。


「受け取っていただけますか?」

「…もちろんだ。殲滅といえば、俺たちのチーム全員を雇うつもりなのか? それとも…」

「もちろん全員を雇います。」

「意外だな、俺一人でも十分かもしれないかもしれんよ?」

「…貴方たちの破壊力はすでにガイア·リージョン列車奪取で立証されています。」

「…くぅー。」


プロフェッサーはマスクの内側で濃い笑みを浮かべた。

やはりその件がユーザーたちに大きく衝撃を与えたようだった。

レーザー·ラインのイベントでプロフェッサーに対するイメージが薄れそうだが、意外と印象が強烈に残っているようだった。


「ご利用ありがとう。」

「はい、こちらは貴方のフランチャイズを信じていますから。」

「…ふっ!」


話し終えた彼女が戻った後、プロフェッサーは地下のブリーフィング・ルームでチーム・メンバーを招集した。


「今回の依頼は一応…グレイブの活躍が目立ちそうだ。」

「うん?なんで?」

「…依頼者はこのプオ商会を単純に殲滅するというよりは…商会自体を完全に一掃することを望んでいる。」

「ほう。」

「…無反動砲をあげるから商会の建物を吹き飛ばすように。」

「え?!」


キューティクルに首をかしげると、本当に対戦車用に使われる無反動砲を2丁取り出して見せた。


「うわぁ…!こ、こんなの勝手に撃まくってもいいの?!」


機甲装備が高いように、それを捕まえる対戦車兵器類も当然、絶対に簡単な価格ではなかった。

そんなことをやたらに撃てと言うと、迷いながらもドキドキするグレーブだった。


「もちろんだ。今回の依頼のスポンサーは大企業をはじめとする様々な会社だよ。 お金の心配はしないで注ぎ込んで完全に灰にしてしまえ。」

「やった!やっとやり感が感じる仕事に出会った!」


無反動砲を抱きかかえて喜ぶグレーブを置いたまま、今度はシャドウを見つめるプロフェッサー。


「貴方は商会の建物破壊以後、各宿舎でリスポンをするやつらを私と一緒に分担して5回ずつ処理すればいい。”

「任せて!」


シャドウは自信満々に目を輝かせていた。

続いてウィス-キスを振り返ったプロフェッサーが商会建物の図面を指差しながら、


「襲撃直後、キューティクルと一緒に商会の中に何か使えそうなものがあれば全部盗んでくるんだ。」

「うん?」

「俺たちが使うこともできるし、いざとなったら後で売って追加でお金を稼ぐこともできるから。」


うなずくキューティクルとキスを眺めていたが、咳払いをした後、再び作戦詳細内容を検討し始めた。


100%というフランチャイズは、ただ簡単に行われるわけではないからだ。


*


決行日。

チームはキスの車に乗って礼の商会がある君臨者の辺境都市に入った。

少し遠くから奴らの商会の建物を見ていたプロフェッサーが短く舌打ちした。


「ちぇっ、やっぱりか。」


奴らの商会の建物の前に君臨者ユーザーが4人もぶらぶらしていた。

奴らは口先だけでZK傘下の会社であり、事実上、君臨者に金を与える役割であるようだ。


ここで商会を堂々と攻撃すれば、君臨者側が何か反応してくることが確実だった。


「プランAだ。」


プロフェッサーの発言に後部座席に座っていたチーム員たちの表情がしわくちゃになった。

本来の計画どおり夜襲をするようになったからだ。


商会近くの駐車場に車を止めて、プロフェッサーが歩哨に立ち、チーム員たちが軽く昼寝をし始めた。

夜襲のためにあらかじめ寝ておかないとコンディションが維持できないはずだ。


ゲームの時間で真夜中近くになった。

その時になってようやく席を外して立ち上がったチーム員たちは、車から降りて攻撃準備を始めた。


シャドウは事前に調べておいた、奴らの2次レスポン区域である都市の旅館に向かって消えた。


グレイブは無反動砲の弾倉を最後にもう一度点検し、満足そうな笑みを浮かべた。


「さあ、始めよう。」


プロフェッサーはすぐに商会の正面が見える商店ビルの屋上に這い上がった。

キスは車の中でコーヒーをすすりながらデバイスを操作していた。

彼女に先日できた新しい装備、ワー・ドック・ユニットを操作して商会の裏口側で待機中だった。


[グレーブ。]

[ああ!花火を始めよう!]


プシュン!


グレイブが歩哨が消えた商会正門に向かって無反動砲2個を持って相次いで打ち上げた。

窓と正門を突き抜けて入った砲弾が商会建物内部から火を吐くと、内側からユーザーたちの声が聞こえてきた。


「何、どうした?!」

「こ、攻撃だ! 攻撃されている!」

「何だって?!ここは君臨者の都市だよ! どんな奴が…!」

「ほらよ!もう一回!」


3階建ての商会1階に向けて砲弾を撃ち続けた。

プロフェッサーの計画通り、1階を支える壁を集中的に撃って破壊し、建物全体を傾ける作戦だった。


「うわっ!だ、誰かが砲弾を乱射している!」

「よ、避けろ!」

「う、裏門!裏門に!」


慌てて一部の人員が裏門から逃走しようとする気配が見えた。

するとプロフェッサーはスコープを2階の窓に向けてキスを呼び出した。


[キス、あなたの番だ。]

[はい!]


「つたく、君臨者たちは何をしているの?!」

「連絡中だよ! もうすぐ来るから、とりあえずこっちに出て…!」


ギイング -


装備も着けないまま裏口を蹴って飛び出した2人のユーザーの前には、キスが操縦するワー・ドック・ユニットが頭を上げてうなり声を上げていた。


「ウォー、ウォー・ドック・ユニット!?”

「く、くそが!逃げろ!」


それが対人兵器であるウォー・ドック・ユニットであることに一気に気づいたユーザーたちが方向を変えて再び建物の中に逃げようとしたが、建物の中で起きた砲弾の爆発の余波に押され、むしろウォー・ドック・ユニットの方に転がり回らなければならなかった。


「あれれ∼!」

「うわぁ!?」


ギイング -


ちょうど席から起き上がろうとするあるユーザーの額にロボット犬の鋭い爪が立てられた前足が乗せられた。


"ヒイ!?"

[グルル…!]

「お、おい?!」


前足の爪がシェーバーのように振動し、そのまま頭を掻いて通り過ぎると、直ちに死亡処理されたユーザーが粒子に散らばった。


「バカな!く、来るなこら!」


慌てて自分が肩に背負っていた弾帯から拳銃をかろうじて抜いたユーザーが威嚇した。


「来るなって! ちくしょう!」

[グル…クアアン!]

「うぅ、うわぁ∼!」


正門側では砲火をどこから出たのか分からない盾で耐えながら押してくるユーザーがいた。


「ちくしょう!どんな奴だ! 今すぐこっちに来て俺と決闘で解決しろ!」

「決闘?悪いけど、私はそういうのは受け入れない主義なんだ。」

「何んだと?!」


その時になってようやく闇の中でぼんやりと相手の服装を確認した商会ユーザーの表情がしわくちゃになった。


「チーム…アブソリュート・ソリューション!」

「そう、よく知ってるね?」

「くそったれのプロフェッサーめ!またあいつか?!」


どうやら以前プロフェッサーと悪縁があったようか、すぐに歯ぎしりしながら盾をしっかりと取り直すユーザー。


「お前も業が深いようだ。そんな男に一度でもなく二度も出会うなんて、正直同情するよ。」

「黙れ!あの野郎どこにいるんだ?! 今度こそそのヘルメットと一緒に頭を…!」

「あ~あ、それは言ったら…」


直ちに商店街屋上側で見守っていたプロフェッサーの狙撃銃が盾の上に現れた、防弾帽さえまともにかぶっていないユーザーの頭を一気に突き破った。


「ああっ!?」

「ほら、撃たれるんだって。 私が来たのにプロフェッサーがないと思う?”

「ち、ちくしょう…!」


そのまま粒子化して消える彼をかわいそうに舌打ちしながら見守るグレーブだった。

やっとの思いでレスポンしても、そこには腕のいいクノイチが待っているはずだから。


彼女の砲撃でやっと商会の建物が前に傾き始めると、グレイブは砲撃を止め、慌てて路地から飛び出した。


残りの商会ユーザーたちは1階で爆発が相次いで起きると逃げられず、上の階で窓から脱出を試みてみた。


しかし、裏門側にはロボット犬が、前ではプロフェッサーが窓際に人の頭が見える度に発射中だったため、まともに飛び降りた人数は3人が全てだった。


もちろん、その3人も…


「はあ…はあ…くそたれのプロフェッサーめ!」

「ちくしょう、早く逃げないと…!」


起き上がろうとした瞬間、商会の建物が崩れ、彼らを襲った。


-つつく-

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