第37話 ウォー·ドッグ·ユニット

屋敷に復帰して数日が過ぎた。

地下のガレージからプロフェッサーが取り出したかなり大きなコンテナ・ボックスを見下ろすウィス-キス。


「それで…これを私にあげるんですって?」

「そう、キスくらいのセンスなら十分に扱える。」


コンテナの上側に設けられたキーパッドに触れて暗号を解くと窒素ガスが噴き出した後、ゆっくりと開放された。


「これが…」


中に入ったのは動物、それもシャープな猟犬を模したデザインの機甲ユニットだった。


「ハウンド型のビーストロン・ユニット、 通称ワー・ドック・ユニットとも呼ばれる無人遠隔操作兵器だ。」

「うわぁ…どうやって動くんですか?」


コンテナの前に設置されていたジョイスティック型の操縦器具を手に取り、彼女の腕に装着したハッキングツールと連動させた。


「基本的にはドローン・モードだから、普段の行動パターンはペットとほぼ同じだ。 食べて寝ることをしないだけで、このモデルは特に豊山テックが製作したものなので珍島犬をモチーフにしているんだ」


豊山テック。

3Aが一部持分を持っている中堅ギルドで、主に韓国出身ユーザーが集まって活動していた。

特有の極端な効率重視と火力重視傾向のおかげでマニア層が存在する会社でもあった。


「へえ…」

「そちらにあるのが起動ボタンだ。」


直ちに起動ボタンをタッチすればキーイングする鋭い起動音と共に動力炉が作動し、目の部分のゴーグルから眼光が光って起きた。


プロフェッサーがそっと退くと、直ちにウィス-キスを凝視しながら刻印作業に入る姿。


「おお…」

[ピピッ]


作業が終わったのかきちんと座った姿勢で指示を待っていた。


「これ、連れて行って遊んできてもいいですよね?!」

「…おもちゃじゃない。 内蔵武装も一般的なワー・ドック・ユニットとは軌を異にするので、できれば…」

「行こう!ガルム!」

「おい!」


あっという間にすぐ名前まで付けてくれて手振りをして格納庫の外に飛び出す姿にプロフェッサーは無駄に渡したのではないかという気がしてため息をついた。


もともとあのユニットはプロフェッサーの初期を支えてくれたありがたい装備の一つだった。

キューティクルが来てから装備が整ってレベルが上がって育成がある程度完成してからは無視できない維持費のため封印しておいたが…


ウィス-キスはどうせ個人装具類よりも自分の車などの機甲装備にお金を注ぎ込むユーザーなので、プロフェッサーよりも有用に使えるはずだった。


「まあ…手なずけるのには役に立つだろう。」


諦めて振り返ったプロフェッサーは、外から聞こえる爆発音に考えが変わった。

くそ、武器があるとはっきり言ったはずなのに。


外に歩いていくと予想通りの状況が広がっていた。

プロフェッサーの私有地の外の森の一部が真っ黒に炭になっていた。

ワー・ドック・ユニット…ガルムはキスの前に座って褒めてくれというように頭を上げていた。


ガルムの胸郭の内側にはプロフェッサーの最大口径である56口径とほぼ同じ規格の20mmロケット砲が内蔵されていた。


使用者の指令や自主判断により、最大12発まで口を開けて発射し、標的を吹き飛ばすための切り札だった。


それ以外にも歯は単分子カッター、実際の猟犬の3倍の精度を持つ嗅覚センサーおよび各種センサーを通じた偵察能力まで保有した戦闘用ドローンだった。


「それは機動打撃用に設計された戦闘兵器だ。 ペットだと思って扱えば、近いうちにあなたの頭にロケット弾が刺さると断言する。」

「うぅ…ペット・モードとかありませんか?」

「…あいつ燃料代が1時間当たりいくらなのかから言ってくれなければならないようだ。」

「あ。」


その時になってようやく失望した表情でぐったりする彼女を見て、プロフェッサーはため息をついた。

性格がそのためであって、ひとまず成人である他の2人の女性とは異なり、ウィス-キスはまだ未成年者だった。


「他の人と相談してペットを1、2人くらい置いた方がいいかも。」

「大丈夫ですか?!」


目を輝かせて確認する彼女の姿に少し不安はあったが、彼女の動機付けに役立つなら反対する理由はないはずだった。


「仕事の邪魔さえしなければ。」

「やっほー!」


他のチームメンバーに知らせに行こうとする彼女の裾をつかんだ。

その前に仕上げなければならないことがあったので。


「何、何ですか?!」

「ワー・ドック・ユニットを荷台に座らせて休眠モードにしておいて。 後で仕事に必要になったら使わなければならないから。」

「ああ。」


彼女はハッキング・デバイスをいじくりながら仕切りを荷台に乗せ,休眠モードにして置いた。


「もういいですよね?」

「そう。」


すぐに地上階に上がる彼女を見ながらついて行くプロフェッサーだった。


「プロフェッサー!みんな大丈夫だと言いました!」

「…ああ。」


予想通りの答えに首を横に振ったプロフェッサーがキスを指差した。


「育てるのはウィス-キス君だから、ちゃんと面倒を見てくれ。」

「し、知ってますよ!」


キューティクルにコーヒーをもらい、すすり泣きながらニュースを流した。

複数のギルドがWACの持分をさらに多く得るために株式購入に熱を上げているという記事が出ていた。


レーザーラインに参戦したユーザーたちが補償として受け取ったクーポンなどを売ったり、使用しながら得た装備が話題になり、ユーザーたちが誰でも私もクーポンを買いだめしていた。


プロフェッサーのチームはすでに会長の依頼を受けながら受け取った大金と一部エネルギー装備設計図と部品を提供してもらった。


「キューティクル、例の研究はどう?」

「うまくいっているよ。 これからもう少し手を加えれば、使用可能なレベルの完成度になりそう。」

「それはうれしいね。」


プロフェッサーはエネルギー兵器を使うつもりはなかったが、その技術が入った部品まで無視するつもりはなかった。

キューティクルに前金を与え、自分の狙撃銃を『電熱化学砲』仕様に改造することを注文しておいた。


弾丸は一般的な火薬による実弾を使うが、銃内部にレールガンなどの構造を追加して磁場に飛び出す弾丸をさらに速く加速するもの。

それが電熱化学砲の構造だった。


実弾を使いながら弾頭に途方もない加速力を与え、従来の狙撃銃を圧倒する射程と破壊力を得ることができたはずだった。

それなら、前回のように無理して56口径狙撃銃を持ち歩くことも減るだろうから、プロフェッサーには必ず必要な改造だった。


よく使ってはいるものの、厳然と20ミリ榴弾砲を改造したものであるため、狙撃手であるプロフェッサーの腕力では扱いにくいものだった。


その他にもUEA傘下のスタイナー開発チームで作ったブルパブ式狙撃小銃を普段愛用していた。


一般的なユーザーが再装填をはじめ、扱うのに難点があり、好まないブルパブ式をプロフェッサーは好む方だった。


険しい高地帯を随時登らなければならず、様々な険しい仕事をするプロフェッサーの立場から銃身が長い一般的な狙撃銃は邪魔だったためだ。


ブルパブ式の場合、弾倉がストークの方に行くだけに長さが短くて扱いやすいため、プロフェッサーが喜んだ。


「この前の仕事は損益分岐点が急上昇したんだよ…」


プロフェッサーは歯ぎしりをしながらスカトゥスの顔を思い出した。

あのくそやろ1人のせいで、せいぜい受け取った巨額の依頼金のほとんどが弾丸と銃器修理費で流出した。


このまま数ヵ月ほど大きな仕事が入ってこなければ、プロフェッサーの大切な預金が徐々に消えることになるはずだった。


「公式戦シーズンも終わったし、レーザーラインも盛況裏に終わったので…そろそろ…」


プロフェッサーがテレビで視線をそらすと、素早く隣にいたグレイブがチャンネルを回してしまった。


「プロフェッサー!」

「...?」


近づいてきて裾を引っ張るウィス-キス。


「明日、私とペットをもらいに行きましょう!」

「…俺がどうして行かなければならない?」

「そりゃ…チームのリーダーじゃないですか?」

「…このチームにリーダーなんてものはいないといったはずだが。」

「うぅ…」


泣きべそをかいている彼女を見て、困ったプロフェッサーが『くうん』とうなり声を上げた後、彼女の頭を撫でてくれた。


「分かった、行けばいいだろ。」

「わあー!」

「まったく…」


シャドウはその様子を反対側のソファで見守りながら、熱心にメモを書いていた。

マスクを外して演技をやめてから、プロフェッサーについてかなり多くのことを知った。


-普段仕事をする時硬い姿は全部演技!

-生の声が意外と柔らかくていい…!

-元々の性格はかなりずうずうしい感じ?

-甘い物が大好きで、猫舌だ!

-好きな異性の好みは自分の主観がはっきりしている人?


メモを終えた彼女の顔が少し熱くなった。


「そういえば、プロフェッサー!」

「何だろう?」

「この前グレイブ姉さんが好みだと言ったのはですね。」

「おい!その話はもういいじゃないか!」


恥ずかしがって怒るグレーブを後にしたまま、シャドウはずっと気になっていた部分を確認するためにプロフェッサーに直球を飛ばした。


「正確に理性の好みですか、それともただ好感が持てる人の好みですか?」

「え?」

「……」


急にプロフェッサーが静かになった。

固く閉じた唇がしばらく悩むようにビクッとし、すぐにふうっとため息をついた。


「…後者だ。」

「えっ?!」

「さすが!」


意外な事実に立ち止まったグレイブがかっとなったのか、プロフェッサーの頬を引っ張って抗議すると、


「あなたも、シャドーも、キイスも…あ、痛い。ちょっと離せ。」

「この…!」

「くぅ…キューティクルも、みんな基本的に仕事仲間だ。 そんな感情的なアプローチは興味がなく興味を持ってもいけないと思うが…」

「……!」

「まあ…それは…プロフェッサーらしいね。」


プロフェッサーの答えに和らいだグレーブが頬を放すと、痛そうに頬を触った。


「そして、俺とそんな関係になると、そのうちきっと傷つく。」

「……?」

「俺はいい男になる定めではない。」

「へえ、断言するんですか?」

「へっ、もう今も十分悪いやつだって? ケチに、ヘルメットをかぶって歩く陰気な性格に…」


プロフェッサーは静かに首を横に振った。


「貴方たちは俺の大切な仕事仲間たちだ。 後悔することは作りたくない。 これからもプロフェッショナルな仕事処理をしてくれると信じるだけだ。」

「……」

「ふん、誰に言ってる。 あんたからミスして、この前のように雑巾のようにやられるなって。」


グレイブの毒舌にプロフェッサーが『くうん』と声を張り上げてうなだれた。

大分気にかけている模様。


シャドウはその間にメモを直していた。


- 自分の主観がはっきりしている人が好きだ!


-つつく-

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