第32話 キャプテン·スカトゥス1

二日後

世界各地のビル広告画面に再びワースト·フィールドの映像が掲載された。

相次ぐクエストでの大成功の末、ついにレーザー·ラインの最終決戦だけを控えた状態だったためだった。


レーザー·ラインの背景となったWACの惑星と、その惑星のすぐ隣の宇宙空間で軌道を回っている巨大なコスモ·スポンの宇宙戦艦が軌道砲撃のための巨砲を少しずつ動かす姿が見えた。


画面が急激に惑星表面の方に拡大すると、WACの都市南側の砲撃に遭い破壊されたところで巨大な自走砲が動いている姿が捉えられた。


WACの兵士たちが自走砲周辺を護衛しながら少しずつコスモ·スポンの戦艦を攻撃するために砲を前進させていた。


「進撃!しっかり気合入れろ! きっとコスモ·スポンのやつらが邪魔に来るから!」

「く、来るぞー!」


宇宙船が跳躍する度に発生する空間波長を機械で観測していた兵士の叫びと同時に、WACの巨大自走砲前をコスモ·スポンの武装輸送船12機が現れ遮った。


「ち、ちくしょう!多すぎですよ!」

「あれを見ろ!」


輸送船から瞬時にジェットパックを装備した兵士だけでは足りず、重歩兵や一般歩兵まで群れをなして降りて自走砲に向かって戦列を整える姿。


最後に一番前に光柱と共に地面に軌道降下弾が落ちた。


「何、何?! 何が落ちて来た?!」

「降下砲弾です! 中に誰かが乗っているはずです!」

「全員照準!何かは分からないけど、俺たちのものではない! 出たらすぐ射撃しろ!」


すぐにドン、ドンと出入り口を開けるために叩く音がするのをしばらく、軍靴が出入り口を蹴飛ばしてしまった。


降下砲弾から出たのは丈夫な体格に鼻の下を特殊な戦闘服で隠した、右目に特異な傷跡まである紫色の髪の毛の男性だった。


「…思ったより少し前の方に着弾したか。」

「撃てー!」


WACの兵士たちが歯を食いしばって彼に向かって射撃を行うと、ふんと鼻を鳴らした彼が左腕から長いエネルギー鞭を抜き取り、ぶんぶん回して全部防いだ。


「お粗末なやろどもが…!」


彼の戦闘服バックパックについていた器具がゆっくりと肩の上にまたがると、大きなビームを発射して兵士1人の頭をきれいに吹き飛ばした。


「う、うあっ!?」

「退けー!俺様は侵攻軍の現場司令官、キャプテン·スカトゥスだ!」


彼が通称名をするやいなや、あらゆる惑星でエネルギー鞭とビーム砲、エネルギーブレード、エネルギー銃器を巧みに使い、人間から土着生物まで無残に倒陸する彼の紹介映像がさっと通り過ぎた。


WACの兵士たちの表情が青くなり、右往左往し始めた。


「ち、ちくしょう!よ、よりによってあいつがここの司令官だなんて!”

「会長に連絡して! 俺たちには傭兵が必要だ! 今すぐに!」

「くそ!後退!後退ー!」


彼は慌てて自走砲を後進させるWACの兵士をしばらく見守った後、くすくす笑ってエネルギーむちを振り回し、道路に深く線を引いた。


「命が惜しくない者、この線を越えて俺様に挑戦してみろ! このキャプテン·スカトゥスが自ら屠殺してくれる!」


直ちに映像が暗転し、ホログラム粒子がめまいがして現れたが消えることを繰り返した末に文字が出力された。


【レーザー·ライン 最終章:キャプテン·スカトゥス】


*


プロフェッサーに依頼が入ってきた。

依頼人はWACの会長だった。


「…妙な依頼ですね。」

[ハハハ…やっぱりちょっとあれかな?]

「ご存知のように、彼はすでに傭兵の標的になっています。」

[それは…そうだろう?]

「傭兵たちの実力や規模は見てこられましたから、いくら彼が強力だとしても、1人ではどうすることもできません。 圧殺されるでしょう。」


会長はレーザー·ラインの最終ボスであるキャプテン·スカトゥスの暗殺を依頼していた。


[そりゃ…普通に考えてみればそうだが、彼は決して甘くないだろう。]

「…妙な言い方ですね。 彼について何か知っているのですか?」

[詳しくは分からない、ただ…諜報によると彼のことをコスモ·スポンの中では『覚醒者』と呼んでいるらしい。]

「……!」


なるほど、そうだったのか。

この前の隠されたクエストのようなものもそうだし、次の大型シナリオクエストのための礎石をこんな風に配置したとは。


シナリオ·クエストの大枠は彼が関与したが、このような細部的な部分はスピアに完全に一任していたため、彼としてもこのような状況は意外だった。


「つまり、その多くの傭兵たちでも重寡婦的かもしれないという…?」

[というよりは、キャプテン1人にあまりにも多くの傭兵が足を引っ張られると全体的な戦略が崩れる余地がある。]


その時になってようやく会長があえてこのような依頼をした意図が把握された。

会長はスカトゥス1人にあまりにも多くの傭兵が犠牲になったり、彼と戦うためにつかまっている状況が嬉しくなかったのだ。

このクエストの核心は、あくまでも軌道砲撃用の超大型自走砲を指定位置まで進撃させて砲を撃てる護衛だった。


キャプテン·スカトゥスはその核心を妨害するための最高の障害になるはずだ。


「なるほど…戦術よりは戦略ということですか。」

「戦術には戦術で立ち向かうのが正しいと思うだけだよう。 どう、お金なら心配しないで決めてくれ。」


プロフェッサーは少し悩みに入った。

もし相手がプロフェッサー自身が考える『それ』ならば100%確信できない状況だった。


それだけ『それ』は強力で予測しにくい要素だったのだ。

だが、まだ『それ」が公開されるには早すぎる。

それなら…


「…君たちの意見は?」


プロフェッサーがひとまず首をかしげて他のチーム員の意見を確認した。

だが確認するまでもなく、みんな目を輝かせてうなずいていた。


「…その依頼、受け入れるようにしよう。 傭兵たちと一緒に自走砲が進軍する時、スカトゥスのやつを別に引き出して処理すればいいのかな?」

[そうしてくれたらありがたい。]

「ふむ…わかった。」


通信を終えたプロフェッサーは直ちにキューティクルに頭振りで準備をしろというジェスチャーを取った。

キューティクルが慌ただしく地下階に下がれば、各自散らばった女性陣をしばらく指を弾くことで注目するようにした。


「一応…詳しくは分からないが、今回の標的は確かに何か普通の敵とは違うようだ。」

「どういうことですか?」


プロフェッサーは『それ』についてすでによく知っていたが、決して口にすることはできなかった。

それは彼にとって最も重要な、いやこのゲームの実体でもある重要な要素だったから。


「会長が言った『覚醒者』…という言葉から推測すると、奴は薬物であれ何でも使ってフィジカルが常識外のレベルで強化された可能性が高いという話だ。」


「へえ…」

「それ面白そうだけど? すりおろしてしまう味がありそう。」


むしろ好勝心を見せるチーム員を見て、プロフェッサーは少し心配し始めた。

それが何なのか、どのような効果をもたらすのかを知る立場では、彼らの危機意識はあまりにも足りなかった。


「そんなに喜ぶことではない。 全面戦争が始まった戦場の真ん中で怪物のような身体能力で暴れる奴をなんとか引きずり出して殺さなければならない。」


プロフェッサーの説明に、ようやく少し緊張するチーム員たちだった。

公式戦並みの激しい戦場になることは確かだった。

双方の勢力の砲火を避けながらスカトゥスを引き出すことは決して容易なことではないだろう。


「分かったらみんな気合をしっかり入れて覚悟しているように。」

「…分かりました。」

「ふん、どうでもいい。」

「……」


それぞれ装備を再点検し始めた。

幸い、今回はシスターの機関銃もプラズマ弾を撃つエネルギー仕様に改造が完了した。


「これは本当に軽いんだけど?! 最高だよ!」

「火力も30%以上増えたから思う存分撃っていいよう! ただ…それだけ総熱寿命が短いからバッテリーと総熱交換周期をよく確認した方がいい。」

「知ってるって、 警報音が鳴ったら交換する、そうでしょ?」

「うん、銃身に銃熱寿命の限界に達すると自動的に感知して警報を鳴らすようになっているから、プラズマ弾を撃つ分だけ音もよく聞こえるよ。」


銃器に弾倉の代わりに付いたバッテリーをはめて外すことを繰り返し練習していた彼女は、すぐ修道女服の内側に隠しておいた特殊服装に弾帯の代わりにバッテリーと予備銃熱などを入れた。


シャドウはより完成度高く調整された2本のビーム脇差に、エナジーピストルに武装を交換した。


プロフェッサーはエネルギー兵器を使わないという信条を曲げなかったため、従来使っていた56口径小銃をそのまま持った。

もちろん、弾種をいつもと違うもので準備したと言いながら、くすくす笑って見せたけど。


「キースの車には特にWACから提供された内ビームコーティング剤をたっぷり使って車体をすべて内ビーム装甲に変えたよ。」

「本当ですか?」

「うん、超高出力のレーザーで表面温度が8000度以上上がらなければ問題ない!」

「それではコスモ兵士たちを車で踏んで歩いてもいいですね!」

「もちろん!」


車に乗ったチームはそのまま宇宙空港に向かった。

今回も決戦に参加するためのクランのユーザーが乗った車両とユーザーたちの群れがかなりいて、搭乗までは時間がかかった。


辛うじて搭乗して再びレーザー・ラインの惑星に到着した。

今回はどうしても最終決戦に兵力を全部追い込んだという設定なのか、別に襲ってくるイベントはなかった。


ユーザーたちの集結地に向かう他のユーザーの群れとは異なり、プロフェッサーのチームは車両を運転して決戦場になる場所に向かって動いた。


「プロフェッサーはビルの上で狙撃するって?」

「そう、どうせ俺のフィジカルでは役に立たないんだから。」

「フウン-。」

「作戦通りにやればいい、あなたたちの実力は信じているから。」

「……!」


ほぼ初めて彼女たちの実力を信頼する発言をするプロフェッサーの姿に目が大きくなる2人の女性。


「じょ、ちょっと待ってください! もう一度!もう一度言ってください!」


すぐに録音機能をつけて興奮するシャドウと、恥ずかしそうに首を回してしまうグレイブ。


「…断る。」

「ウウウウ! けち!」

「は!やっぱりな!」


そのようにいざこざをしていた一行は、すぐに巨大な自走砲の横顔が確認できるところまで来た。

車から降りたプロフェッサーがゆっくりとその前に歩いて、あの前にある標的について考えていた時、ふと掻くような殺気がして、あの前の商店街の建物の屋上を眺めた。


「……!」

「よう。」


標的のキャプテン·スカトゥスが屋上の手すりに片足を乗せてプロフェッサーの方を見下ろしていたのだ。


「…スカトゥス。」

「そんな貴様は…あ、 その研究所を吹き飛ばしたやろだったのか。」

「……!」


まさか自分を見分けるとは。

プロフェッサーは内心乾いた唾を飲み込み、平気なふりをして首をかしげた。


「何を言っているのか分からないね。」

「は!俺様の視力はそれぞれ3.5だ。 俺様の観察力をごまかそうとも思わないでくれよ?」

「…….」

「研究所で死んでいった俺様の部下たちが必死に送ってくれた画面で…貴様の顔をはっきりと見たんだ。」


プロフェッサーをにらんでいた彼が、すぐに背を向けた。


「まあ, どうせあのゆそうむそうの一人だろうが, 貴様だけは注視しておく。」

「…それは妙だ。」


プロフェッサーの返事に止まったスカトゥスはゆっくりと向きを変え,再び彼と向き合った。


「貴様、その声が気にさわるな、 機械音は消してちゃんと声を聞かせてくれないか?」

「…断る。」

「……!」


-つつく-

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