第24話 レーザー•ライン6

まもなく各門の戦闘が一段落すると、都市中央のWACビルの中間に設置されたホロスクリーンから秘書の顔が現れた。


[皆さん、本当によくしてくださいました。一応また合流場所に復帰してください。]


「何だよ。とりあえず帰るのか?」

「おい、早くはがせ!一つでも多くはたいてやるんだよ!」


ユーザーたちは、倒れたばかりの敵兵士たちからアイテムを剥がすのに忙しかった。

プロフェッサー・チームはルーティングには関心がなかったのか、みんなキースの車のそばで待機していた。


「意外だね。みんなあちこち歩き回っていると思ったのに。」

「……」

「まあ、あんな雑卒たちが持っているものだと言っても明らかだから」


すでに彼女たちはキューティクルが製作してくれる最高級装備に体が慣れてしまっただけに、あんな兵士階級が着用した装備では物足りないのも当然だった。

プロフェッサーはそんな彼女たちを見て、くすくす笑ってシャドウの方にこっそり持ってきた長い箱をさっと投げた。


「受け取れ。」

「何?!」


思わず受け取ったシャドウが慎重に箱を広げてみると、その中には平凡な黒いショート・ソードが包装されていた。


「この剣がどうしたんですか?」

「……」


プロフェッサーが手に取り,ハンドルのレバーを押すと、

剣身からジーイングという音とともに、薄いエネルギーの帯が刃に沿って流れているのが見えた。


「あ!」

「…コスモ・スポンのエナジー・ブレードだ。 品質はいまいちだが、後でキューティクルに渡せば、きちんとしたものを作るのに役立つだろう。」


プロフェッサーはそのまま車の助手席に乗り、それを見た二人も後部座席に乗り込んだ。


「復帰する。」

「はいー。」


*


再び集合場所である公演場に戻ってきたユーザーたちを待っていたのは補償と新しいクエストだった。


秘書は自分のデバイスを通じてユーザーたちに『WACファインクーポン』というクーポンアイテムを転送させた。


「それで、このクーポンは何ですって?」


先日質問した轟龍会のユーザーが説明を求めた。


「ふむ。それは当社のショッピング・モールで最大高級の装備1個と交換できるクーポンです。」

「ほ、本当ですか?!」


ユーザーたちがひそひそ話し始めた。

たとえ高級等級という制限がついてはいたが、絶対安い価格ではないエネルギー武器や装備品を無料で受け取ることができるクーポンをユーザー全員に配布するとは思わなかった。


「ああ、もちろん…より高い等級と交換が可能なクーポンも存在しますが、それは今後活躍された方々に優先的に支給することに決定された状況なので…すみません。」


ユーザーたちの目が光った。

より高い等級と交換できるクーポンがもらえる。

その事実を知っただけでも大きな収穫だった。


「よし!それで次の仕事は何ですか?」


ユーザーたちが早く次のことを知らせてほしいと怒鳴りつけていたが、大型クランのユーザーたちは落ち着いた態度を見せていた。


確かに大型アップデートだからか、敵のレベルが思ったより高かった。

特に終盤に登場した重歩兵は少数の兵力であるにもかかわらず、ユーザーたちに侮れない被害を強要した。

これから彼らに対する対抗手段を備えなければ、きっと難しくなるだろう。


「…太平な奴らだな。」


プロフェッサーも落ち着いた態度で観戦していた。

これらの多くは、まだ重歩兵の強化シールドと防護服に対する効果的な対策がない状態だ。


このまま進めば、必ず次かその次のクエストで大きな被害を受けるはずだった。

どうせ先発隊とはいえ、公式戦が終わるやいなや実力者を選んできたクランが多いだけに被害を受けるのは避けたいはずだ。


これからはきっと、クランの間でお互い顔色を伺いながら前に出ることをためらうようになるだろう。

くっと笑ったプロフェッサーは、今がちょうどいい時だと思って一行を振り返った。


「…ここまでだ。」

「何がですか?」

「何言ってるの?」

「このクエストは一応ここまでにして退く。」

「はあ?!」

「どうしてですか?!」


やはり2人の女性は反発して頬を膨らませたが、プロフェッサーは首を横に振った。


「我々は小規模チームだ。 しかもパーティー構成が不安定だ。 全く別のクランの補助役として立つことになる。」

「そりゃそうですが、それでも戦利品は持ってきたんですよ。」

「…そんな問題じゃない。」


プロフェッサーはデバイスを操作して、以前出会った重歩兵の姿を撮影しておいたのを浮かべた。


「現在、先発隊としてここに参加したクラン員の中で、これらに効果的な対抗手段を備えた者はいない。」

「…あ!」

「戦闘はこれからで、見るまでもなく、しばらくするとこんな奴らがうじゃうじゃと飛び出す区間もあるだろう。」

「…その瞬間、大虐殺だろうね。」


その時になってようやく状況を把握したグレイブもうなずいた。

ユーザーたちが情報を得て対策を用意し、再び来るまで待つ方が賢明な選択だった。


「だから俺たちは先に帰るぞ。」

「でも戦利品がシャドーのナイフ一つだけなのは私としてはちょっと…」

「しょうがない、リスクが大きすぎる。」


他のユーザーたちがブリーフィングを聞いている間、プロフェッサー・チームはこっそりと公演場を抜け出した。


「キース、帰るぞ。」

「うん…どこへ?」

「俺たちのサーバーに戻る。」

「え?もう?」

「そう、状況が悪くなった。」


すぐに車に乗ったチーム員たちは宇宙空港に向かって走った。

そのように到着した宇宙空港から自分たちの本来の基盤である紛争区域サーバーに移動しようとするその時、


「ちょっと…よろしいですか?」

「……?」


プロフェッサーが首を回してそちらを眺めると、そこにはWACの会長として紹介されていたウィンクライが立っていた。


「…どういう用件だ?」

「貴官たちだけに任せたいことがあるのですが…」

「断る。」


再び出てきたプロフェッサーの即答に、2人の女性が両方からプロフェッサーのわき腹と顔を肘と拳で軽く殴った。


「くぅ…俺たちは帰る予定だ。 悪いけれど仕事は受けられな…」


ついに拒絶を強行しようとするプロフェッサーのヘルメットを押しのけながら前に出るグレイヴ。


「どんなことか聞いてみましょう。」

「…ありがとうございます。」


会長が任せようとしたことは、ある研究所に浸透してデータを回収し、研究所を破壊することだった。


「どうしてこんな大変なことを俺たちのような小規模人材に任せようとする?」


プロフェッサーが疑わしいように質問すると、会長は視線を避けた。

答えにくい質問という意味。


「…言えなければ我々も引き受けられない。」

「プロフェッサー?!」


再び背を向けようとするプロフェッサーの背後で会長が結局口を開いた。


「…光線とナノマシン放射による生体再生治療を研究する場所です。」

「……!」

「コスモ·スポンどもの特殊部隊が今回の侵攻と同時に真っ先にその研究所を襲撃した。 きっと極秘裏に研究していたところだったのに…」


ヘルメットの内側のプロフェッサーの表情が深刻になった。

これは隠れたクエストだった。

なんと次のストーリークエストの伏線となる、とても重要な裏クエスト。


当然のことながら難易度は非常に危険なはずだった。

やはり断った方がいいと思った瞬間、両側から二人の女性が裾をつかんで眺めているのが見えた。


“……”


ため息をついたプロフェッサーが2人の女性を前に止めて口を開いた。


「うちのチームの名前はアブソリュート・ソリューション。 その名の通り、100%成功率を保障するチームだ。」

“…!”

「そして、そのもう一つの意味は、100%成功する確信のない依頼は受けないという意味でもある。」


プロフェッサーは確信がないので、今回の仕事は受けられないということを2人に再度強調した。

しかし、彼女たちから返ってきた答えは唐突なものだったからだ。


「プロフェッサーは私たちの実力をそんなに信じられないんですか?」

「私を何だと思って! こんなつまらない仕事くらい朝飯前だってば?!」

“……”


プロフェッサーは首を横に振った。

好機でできることではないことは誰よりもよく知っているはずなのに、こんなに出るとは…


「貴方たちもプロならよく知っているはずなのに。」

「それでも…!」

「100%はユーザー依頼対象に十分じゃないか! たまには楽しもうぜ!」

“……”


プロフェッサーが首を回してキースとキューティクルの方を振り返ってみると、キューティクルは笑いながらうなずいているだけだった。

こんな時は役に立たないんだから。


「…わかった。この仕事、受け持つようにしよう。」

「本当にありがとうございます。」

「でも、一つ確認したいことがある。」


会長がどうしたのかというようにかしげば、プロフェッサーは冷たく冷めた声で会長を見下ろした。


「どうして俺たちだ?」

「……!」


会長は黙ってデバイスを取り出し、映像を流した。

前回の戦闘で重歩兵を相手に狙撃と暗襲で確実に被害を累積させた場面が映っていた。


「これで答えになりましたか?」

「チッ。」


いい加減にすればよかったのだろうか。

内心後悔しながらも、すでに起こったことだから仕方ないというように、プロフェッサーは体をひねった。


「ただ、無理な仕事を引き受ける分、こちらにも条件がある。」

「…何の条件ですか?」

「こちらのキューティクル…うちのチームのガン・スミスだ。」

「はい。」

「彼に今後WAC社の部品を工場出庫価格で供給することを要求する。」


座中が凍りついた.

いくらなんでもそうだね、ものすごく大胆な取引を平気で提示するなんて。

しかし、会長も普通の人物ではなかった。


「…受け入れます。」

「えっ?!」

「うわぁ?!」

「…くぅ。やっぱり賢いな。」

「貴方たちのようなプロフェッショナルなチームが当社の装備を使用することが知られれば、私たちとしても大きな広報効果を得ることになりますから。 悪くないでしよう。」


経営者らしい笑顔を見せた会長は、すぐに案内すると言って、自分のリムジンに搭乗した。

プロフェッサーはチーム員を連れて再び装甲車に乗り込み、リムジンの案内を受けながら研究所に向かった。


一行が到着したのは研究所というよりは植物園や植物関連研究所にしか見えない、建物の一部が巨大な蔓植物のようなものに覆われた妙なところだった。


「意外と外部の境界がないそうだな?」

「…代わりに内部防御を固めています。 実はこちらから別に兵士を派遣してみたのですが、失敗してしまい…」

「……それは、残念なことだな。」


しばらく周囲を見回したプロフェッサーは、直ちに装備の確認に入った。

狭い建物内での交戦になるだろうから、従来の対物狙撃銃は邪魔になるだけだった。


「キューティクル。Cタイプの装備持ってきたか?”

「プロフェッサーの装備なら全部用意しておいたよ。 ちょっと待って!」


キューティクルが車両のトランクから取り出したのは、短縮型突撃小銃と着剣用ナイフ、小さな円形の盾のような装備だった。


「プロフェッサーも突撃小銃を使う時がありましたね?」

「…普通は使わない2線装備だけどね。」


プロフェッサーが狙撃銃ではなく装備を使うということが不思議そうにあちこち見回すシャドウだった。


「しかも盾まで! 本当に意外です。」

「…くぅ。」


盾まで使うのが不思議だという言葉にプロフェッサーはただ笑って見えるだけだった。


「グレイブ、先導せよ。」


準備を終えたプロフェッサーの指示にシスター・グレイブが機関銃をしっかりと握り、出入り口に向かって近づいた。

ドアの横に付いているタッチスクリーンの開きボタンに何度か触れてみたが反応がなかったため、


「もう!」


ストークで殴り飛ばしてスクリーンを壊すと、スパークが飛び散ってドアが開いた。


「入ろう!」

「突入順はグレーブ、俺、キース、キューティクル、シャドウの順だ。」

「どうして私が最後ですか?!」

「あなたは斥候だから。」


- つつく-

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