第21話 レーザー•ライン3

戦闘は開始直後しばらくはコスモ・スポーンの兵士たちが優勢だったが、それはすぐ逆転した。


相手は公式戦を10回も経験しながら鍛えられたベテラン先発隊のユーザーたち。

さらに、新地域というと、気合を入れて機甲装備まで引っ張ってきたクランも数人いた。


中でも最も目立つのは、やはり米国地域を中心としたメリカン・フロンティアとガイア·リージョンのユーザーたちだった。

フロンティア側はなんと主力戦車を、ガイア·リージョンは対空戦車を2台も率いてきたのだ。


「目標、敵輸送艦!」

「初弾装填完了!」

「発射!」


ドーンという重い爆発音とともに155ミリ砲弾が兵士たちを降下させるためにホバリング中だった輸送船に正確に刺さった。


「な、何だと?! こんな無茶苦茶な!」

「あの狂ったやつらめ! 電車を引いてきたじゃん!?」


あっという間に爆音を何度も噴き出していた輸送船が大爆発を起こし粉々になると、残った輸送船の動きが急になった。


「だ、ダメ! このままでは私たち皆被弾する! 降下を急いで、こら! みんな死にそうじゃないか!」

「ウアアアア、回避起動! 回避機動ー!」


ガイア・リージョンのユーザーたちは、巧みに自分たちの対空戦車を中心に陣を形成したまま、最前線に押し付けていた。


「耐えて!シールド・モジュールが壊れたら いったん後ろに下がって! 撃ち続けろ!あのコバエみたいな野郎たちをみんな落として、背中につけているものを剥がそう!

「ウラー!」


普段から戦利品なら蛇足が使えないユーザーたちの目に、コスモ・スポンのジェット・パックは必ず記念に奪いたい戦利品そのものだった。


「うわぁぁ!こいつら、狂人のように撃つんじゃないか!」

「撃て!絶対に押さないで! こんなやつらに負けると社長が…クアアッ!」

「大、大將?」


最初はジェット・パックを利用して弾を回避しながら相手にしていた彼らだったが、目が覚めたユーザーたちがまともに弾幕を形成すると殴られて落ち始めたのだ。


しかも輸送船だからといって安全ではなかった。

対空交差点をつかんだガイアの対空戦車が無慈悲に対空砲を発射したため、残りの輸送船は右往左往し、あっという間に次々と爆発してしまった。


「ハハハハ!撃ち続けろ! あのハエたちも合わせて落とせ!」

「よし!2人捕まえた! あっち!あっちに奴らが集まっている! 砲塔回して!」


ユーザーたちの勢いに押されたジェット・パック兵士たちが三々五々散らばって慌てて逃走し、ユーザーたちは床に落ちた兵士たちのジェット・パックを互いに持とうと争っていた。


「さあ、どうせ私たちはこのシナリオ・クエストに同じ船に乗ったんだ! 互いに争わず、戦闘で主に活躍したフロンティアとリージョンが半々ずつ持っていくということではないでしょうか?」


フロンティアの幹部級ユーザーが出て仲裁をした末、鹵獲したジェット・パックは半々ずつ二つの勢力に渡された。


「へへへ、このコスモ・スポンやつらと喧嘩し続ければ、きっとあのジェット・パックもずっと出てくるだろう?」

「今度は私たちが突撃する…必ずあのジェット・パックを持たないと!」


他の勢力も歯ぎしりしながら闘志を燃やす頃、車輪を横にしたまま浮遊しながら走行してきた自動車がユーザーたちの前に停車した。


「何だろう?」

「新しい敵じゃないの?」

「ちょっと待ってください!」


ユーザーたちがしばらくざわめく中、車のドアが開いた。

そこには映像で見た執事を連想させる、ずるそうな口ひげを生やした会長の秘書が立っていた。


「皆さんが当社を救うために訪ねてきた傭兵…ですか?」

「そう!傭兵団…というか、クランと言ってもらえるとありがたいのですが。」

「ああ、それではクランの方々の連合のようなものですね。 本当によくいらっしゃいました。 再普及と休息のために、私たちが安全地帯にご案内いたします。」


秘書が搭乗した車両に沿って20キロほど移動すると、以前は公演会場として使われたようなきれいなデザインの座席と舞台に入ることができた。

天井はドーム状に厚くなっており、空襲に遭う心配はなさそうだった。


「バンカー兼用で作った公演会場です。 ここで10分休憩してからブリーフィングを始めます。」

「質問!」


目を輝かせていた轟龍会のあるユーザーが手を挙げて質問を要求すると、秘書がうなずいていると受け入れた。


「どんな質問ですか?」

「もしかして、WACの武器を手に入れて使ってみる方法はありますか?」


ユーザーたちの目つきが輝いた。

今回のイベントの核心の一つといえる光線銃を今手に入れることができるかも重要な部分だった。

秘書は冷や汗を拭きながらうなずいた。


「も、もちろん可能です。 ブリーフィングが終わった後に…もしご希望の方がいらっしゃれば、我が社のショッピングモール・アドレスをご提供いたします。 ただ…」

「ただ?」


話すのがつらいらしく、絞り出す音声につなげる秘書だった。


「現在、私たちの最高級銃器を生産する工場がすべて…爆撃を受けて稼動停止状態です。 弊社の誇りとも言える製品をすぐには提供できず、誠に申し訳ございません!」


ユーザーたちの目つきが沈んだ。

つまり、高級レーザー銃を手に入れるためには、まずクエストを進めてコスモ・スポン勢力を追い出した後に可能だということだろう。


「いいえ、大丈夫です! 必ず工場を復旧させることができるようにお手伝いします!」


轟龍会ユーザーも意欲に満ちた声で答えた後、質問を終えれば、しばらくの休息が与えられた。


ユーザーたちはそれぞれ銃器を点検し、クランごとに突撃陣形をどうするかについて討論していた。


「さあ、ブリーフィングを始めます。」


すぐに秘書が手をたたいて注意を引いた後、舞台裏の大型スクリーンを通じて都市の地図を浮かべた。


「ご覧のとおり、コスモ・スポーンの攻勢は現在3方向から起きています。」

「どうして4方向包囲攻撃ではないんですか?」


フロンティアユーザーの質問に秘書がうなずいた。


「もう一方の方向、つまり南門側はコスモ・スポーンが誇る戦艦の大型軌道砲撃用艦砲による射撃が周期的に行われています。 今のところ対処が不可能なので…」


軌道砲撃までしているという言葉にユーザーたちが乾いた唾を飲み込んだ。

コスモスポーンという勢力が思ったよりはるかに強大な規模を持っていることは確かだった。


「ですから、最も急がれるのは西門地域です。 現在、避難民の避難が行われていますが、コスモ・スポーンの打撃隊が何度も襲撃を試みており、避難民を避難させることができません。」


ユーザーたちがざわめき始めた。

どうやら3ヶ所全てにユーザーたちが別に行って敵を撃退する進行になりそうだったので、互いにどこに行くかで意見を交わし始めたのだ。


「そして東門の方は…皆さんが先ほどお相手いただいた通り、コスモ・スポーンの大規模輸送船団によるジェット・トルーパー講習で30パーセントほどが占領されています。 奴らはあの地域を兵站基地化している状況です。」


ユーザーたちの目に火の粉が飛んだ。

あそこを撃退すれば、必ず大きな補償があるという感じがしたのだ。

もちろん、兵站基地というのはそれだけ防御兵力も厚いという意味だろうから難易度も高いはずだった。


「北門は実は、東門を掌握した兵力の一部が地上攻撃で押し入って交戦中の状態です。 攻撃の強度は最も無難ですが、ここは私たちの都市の主要商店街が位置しているので、必ず守らなければなりません。」


ユーザーたちはすぐに理解した。


序文は避難民の避難を助けることで好感度が大きく上がるパート。

北門は最も難易度が無難で商店街を保護することで細かい補償がある、一般ユーザー向けパート。

東門は最も難易度が高いが、大きな報酬が待っている兵站基地の戦い。


ユーザーたちの意見が何度も分かれて争った末、クラン別に組を組んで門に向かうことに決定された。


フロンティアを中心とした序文調

リージョンを中心とした東門組

その他の轟龍会を中心に中堅クランと一部の一般ユーザーを中心に団結した北門組だった。


プロフェッサーのチームは、プロフェッサーが何も言わず、決定できず見守っていた。

しかし、決めることもなかった。


ガイア・リージョンの幹部級ユーザーがさっと近づいてきたこと。


「おい、プロフェッサー。」

「…うむ。」

「混ぜてくれないか?補償が大きいと思うぜ?」

「…欧米が惹かれる提案だ、だが…」


プロフェッサーは頭を少し上げてリージョン組に属したユーザーたちの面々を覗いた。

そこには以前から特にプロフェッサーと仲が荒い君臨者ユーザーたちが属していたのだ。


「何だ、どうして我々を見つめるの? 不満はあるの?ああん?」

「……」


プロフェッサーの気配に気づいたリージョン・ユーザーがぎこちない笑みを浮かべ、君臨者側に手を振って仲裁に乗り出した。


「さあ、君臨者の皆様、あまりそんなに歯を立てないでくれ。 このクエストは今回一度だけの重要なシナリオ・クエストなんだぜ?」

「…ふん!お金一つで顔色をがらりと変えるあのコウモリのようなやつを信じて背中を任せろというのか?」

「今は味方じゃないか? 一緒にクリアして報酬を分けてから、元のサーバーに戻った後にまた喧嘩したりすればいいんだよ…そうだろ?」

「…ちぇっ、おい! プロフェッサー!」


君臨者を指揮していたユーザーが大股で歩いてきて不機嫌な表情でプロフェッサーのヘルメットを眺めて、ゆっくりと手を差し出して握手を求めた。


「…お前は確かに信じられない族だが、今回だけは信じてやろ。 できるよな?」

「…100%だ。」

「ちっ、わかった。」


握手を受け入れると、一度振ってすぐに背を向けて席に戻ってしまう君臨者ユーザー。

幸い、大きな摩擦なく進められると思い、プロフェッサーも内心ほっとした。

今の状況で君臨者が内紛を起こすと、クエストにもプロフェッサー自身のチームにも良くなかったから。


そのように各クランは準備を急いで席を蹴って立ち上がった。


「それでは皆様、武運を祈ります!」


「そうだ!秘書のおじさんもよく隠れていろ!」

「そう!あのコスモなんとかっていうのは、俺たちがお尻を蹴って追い出してやるからさ!」

「イカスレーザー銃をお願いします!」


各自秘書に手を振って出たユーザーたちは、すぐに行軍を始めた。

彼らが向かうところは戦場だった。

公式戦とは異なる、NPC兵士たちを相手にした戦場が彼らを待っていた。


*


最初に戦闘が始まったのは北門の方だった。

消息を聞いた地上兵力が直ちにユーザーが集まっていそうなところに進軍してきたのだ。


「撃て!奴らを強制退去させろ!」

「コスモ·スポーンの力の前にひざまずいて謝れ!」


確かにジェット・パックをはめた兵士は少なかったが、その代わりコスモ・スポーンにも光線銃を扱う敵がかなりいた。

四方から光線が飛んでくると、ユーザーたちは怖がるどころか目が光り始めた。


「あの銃、私が決めた! あいつ誰も撃つな!」

「え?!ふざけんなこら!俺のものに決まっている!」

「ああもう、とりあえず撃て!」


ユーザーたちはシールド・モジュールに頼って猛烈に突進し始めた。

瞬く間に商店街は乱戦が起き、あちこちで銃剣とナイフを振り回し銃を撃ちながらユーザーとコスモ・スポーンのNPCが絡み始めた。


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