第20話 レーザー•ライン2

プロフェッサーに対する新しい事実を知ったシャドウが満足している頃、プロフェッサーは朝食を食べるという言い訳で再び現実に戻っていた。


食事を終えてすぐに彼が向かったのはカプセルの横に設置されたノート・パソコンだった。


ノートパソコンを広げてキーボードを叩きながら何かを入力すると、カプセルからざわめく音がしモニターに意味深長な文句が浮かんだ。


[プロジェクト:アセンション - 最終権限者向け回線開放]


「久しぶりに入ってみるね。」


カプセルカバーを開放したプロフェッサーが自然に中に入って起動させた。


カバーが閉じられ周囲が暗くなればハッキング・モード特有のテキストが空中に流れるのをしばらく、プロフェッサーの目の前にアセンションと書かれた出入り口が置かれていた。


ゆっくり歩いてそこに近づくと、上段にあるカメラが発光し、音声が歓迎された。


[最終権限者認証を開始します。 パスワードを提示してください。]

「人類の再定義。」


意味深長な発言を聞いたカメラがしばらく点滅し、出入り口がすーっと開いた。


[確認完了。いらっしゃいませ。 マスタ・ープラチナ]


中に足を運ぶと明らかになったのは、巨大な球形の空洞だった。

その中央あたりに設けられた、長く続くプラットホームの上に立っているプロフェッサーは周囲を見回した。


うごめく巨大な脳組織に似た形の空洞壁では、絶えず複雑な数学公式とワースト・フィールド内でユーザーたちが何をしているかが半透明な形で投影されていた。


「最終権限者として指示する。 フェイズを次の段階に移行。 アップデートL2のカウントダウンを行う。」


彼の指示にうごめく共同壁から投影された一つの映像が前の大きな画面のように浮び上がり、彼はそれを満足そうに眺めていた。


*


3日後。

世界は一つのニュースで大いに盛り上がっていた。

5年間、細かいイベントは多かったが、サーバー増設の他にこれといった行事がなかったワースト・フィールドが初めて大型シナリオ・イベントを公示した。


しかも、先行公開されたイベントのPVは、数多くの人々の胸を打つのに十分なものだった。


ある未来都市が燃えている様子と、空襲警報が鳴り響いている光景。

都市のあちこちに設置された砲台からワースト・フィールドにこれまでになかったレーザー光線が発射され、飛んでくる戦闘機を真っすぐに撃墜する姿。


カメラの視点が徐々に移動し、都市の一番高いビルを眺めると、そこには見慣れないWACという社名が書かれたロゴがネオンサインで輝いていた。


建物の最上階の窓際に向かって接近した時のおかげで、内部に入ると見える会議室。


「どうしてこんなことがあるんだ!」

「会長!支援要請は我慢しなければなりません! 会社の株価が…!」

「今そんな株が問題ですか?! このままではわが社は強制合併される状況なのに!」


会長と呼ばれた壮年の男は会議室の机に設置された地図で自分の都市が少しずつだが確実に破壊されていく状況を目途していた。


「しかし、彼らは貪欲な者たちです! キツネをやっつけようとオオカミの群れを入れるなら…」

「どちらにしても失敗するのは同じなら、私は少なくとも立って死ぬ道を選びます。」


会長の決断に役員たちの表情が粛然となり、会長は直ちに隣の秘書に手を伸ばして指示を下した。


「今すぐ!近くの惑星に救援要請放送を展開しなさい!」

「あ、分かりました!」


画面がしばらく暗転し、再びポッドと通信画面に見える映像が浮かんだ。


そこにはやつれた顔の会長が冷や汗を流しながら画面を眺めていた。


「私は光線を利用した工業用装備、防衛産業製品などを製造する光学兵器専門会社、ウィス・プアームズ・コーポレーション…通称WACの会長であるウィンクライ・ウィスプといいます。」


隣にいた秘書が手を伸ばして彼の冷や汗をハンカチで慎重に拭けば、咳払いをした彼が発言を続けた。


「今、当社は宇宙戦艦建造を主事業とする大企業、コスモ・スポン社の大々的な攻撃を受けている状況です。」


彼が話を続ける中でもビルが揺れるのが、きっと攻撃を受けているところだろう。


「誰でもいい! 私たちを救ってくれる勇気ある冒険家、戦士、傭兵、誰でも! 私たちのそばで一緒に銃を持って戦ってくれれば、必ず補償します!」


一瞬ノイズが起きて画面が歪んで戻り、会長はカメラをつかんで絞り出すように叫んだ。


「貴官たちの安全な航海のために、わが社の艦隊が全力で航行軌道を確保しています! どうか私たちが誇る安全運行のためのガイド・ライン…通徴レーザー・ラインに乗って私たちのために戦ってください!」


ぎゅっぎゅっと音を立てて途切れた画面。

直後、厚い鉄板が画面にバタンと刺さり、ジインという音と共に赤いレーザーと青いレーザーが鉄板に何かを刻み込む。


[1ST STORY MISSION : LASER LINE – COMMING SOON]


映像を確認したシャドウは、すぐにプロフェッサーのところに駆け寄った。


「プロフェッサー!」

「……?」


小銃を磨いていたプロフェッサーが顔を上げて彼女を見つめると、


「私たちもアップデートエリアに行きますよね?」「いいえ。」


プロフェッサーの機械的な即答にシャドウが頬を膨らませ、彼の肩をつかんで振り始めた。


「行きましょう!行きましょう! 新しい素材とか! 不思議な冒険とか!」

「…我々はPVPを生業とする請負業者集団だ。」

「ううっ…!」


彼の答えを聞いたグレイブがそばに近づき、それとなく助けた。


「もし補償が依頼金ほどいいと言ったら、行けるんじゃない?」

「……」


応接間でアイス・ティーを飲んでいたキースも手伝った。


「最近公式戦シーズンが終わりかけているので、依頼もあまりありませんよー。」


みんな行こうと眺めていると、プロフェッサーは機械音混じりのため息を小さくしてうなずいた。


「俺たちのパーティー・バランスでよければ、見回ってくるくらいは大丈夫かもな。」

「うん?パーティー・バランスがどうしたんですか?」


シャドウが何の話かというようにかしげると、プロフェッサーが順番に彼女たちを指差した後、自分を指す。


「最後方から隠れて狙撃をする狙撃手、運転手、最前線で戦う重歩兵、中近距離から隠れ家に急襲する暗殺者… 団結して戦うことも、平凡なPVEにも良い構成ではない。」

「あ。」


確かにソリューション・チームの構成はPVE基準ではかなり粗雑だった。

通常、PVEを楽しむユーザーたちの場合、前面で戦う重歩兵を筆頭に歩兵2人、バフを与えて動きを調整する指揮官/通信兵1人、最後に後方からチームを支援する義務兵1人が基本だった。


プロフェッサーのチームは、重装歩兵のグレイブを除けば、すべて定石から外れた組み合わせだった。


「そ、それでも…!」

「知っている。見回る程度なら構わないと言ったから。」


そのように話が終わりそうとした瞬間、キューティクルが手を上げた。


「あの、ちょっといい?」

「……?」


プロフェッサーが首を回して眺めると、キューティクルがぎこちない笑みを浮かべながら口を開いた。


「私、一応医務兵スキルも習っているんだけど…」

「……」

「本当ですか?!」

「うん。以前は装備製作は依頼がなかなか来なくて…」


プロフェッサーが首を横に振って挫折し、女性陣は表情が一層明るくなった。

これである程度PVEチームとして品揃えはできるようになった。

もちろん、すべてがうまく回るわけではないもの。


「アップデートの日付は公式戦終了1週間後だ。」

「……」

「依頼が入ったらそちらを優先しなければならないだろう。」


*


公式戦シーズンが終了した。

大きな異変なく終了した公式戦シーズンの結果は、すでにユーザーたちの関心外だったが…

ユーザーたちの関心は今後1週間後に公開されるアップデート「レーザー・ライン」に集中していた。


基本的にこれまでのユーザーたちが使用する銃器は実体弾を使用した。

エネルギー装備が使われるところは主にシールドやステルスモジュールが全てだった。


そんな中、光線銃を専門的に扱う会社が関与したイベントということに興味が集まるのは当然だった。


「プロフェッサーは光線銃が楽しみじゃないですか?」


特に、このようなことが好きなキースは、お酒を飲まなくても興奮状態だった。


「別に、狙撃に光線銃は向いていない。」

「え?なんでですか?光線は弾道学の影響を受けないから…」

「そして長い。 撃った位置がすぐに発覚する。 しかも目立ちすぎる。」

「あ…」


プロフェッサーの断言にキースの顔が少ししょんぼりした。

しかし、プロフェッサーはくすくす笑って、


「でもシャドウの剣にエネルギーコーティングをしたり、キースの護身用武器としては大丈夫かもしれないね。 車載用としても大丈夫だろうし。」

「本当ですか?」

「ああ。」


プロフェッサーのチームは、独自にイベント・エリアに入るための準備を開始した。

戦争地域に入ることなので、準備は行き過ぎるほど良かった。


「弾薬は十分に入れたよね?」

「荷物入れいっぱいです!」

「銃器修理装備も用意したし…」


準備を終えたチームは車に乗って動き始めた。

目的地は紛争地域の惑星に数少ない中立区域であるコペリオール宇宙空港。


宇宙空港の近くにはすでに多くのクランの先発隊員が集まって待機していた。


「おい-、プロフェッサー!」

「……?」


遠くから近づいてくるチームの車を見つけたベアード·チェが近づいてきた。


「どうしたの?君たちのようなPVP専門チームがこんなことに割り込むなんて。 誰か依頼でも入れたのかな?」

「別に。」

「ゲーマーらしくゲームを楽しまないと!」


隣で聞いていたキースの発言にベアード·チェがくすくす笑って見せた。


「それはそうだね! ゲームは楽しまないと!」

「……」

「プロフェッサーも女性の背中には勝てないようだね。」


くすくす笑いながら助手席に座ったプロフェッサーをからかっていた彼は、一行の方で呼ぶとすぐに帰ってしまった。

プロフェッサーチームを注視しているのは彼らだけではなかった。

君臨者とファーザー・マスカレード側では露骨に不穏な目つきをしており、マリア・チャイルド側では前回の依頼で会った幹部が手を振っていた。


プロフェッサーを除いた一行は手を振り合って、順に空港の中に進入した。


しばらくの間、宇宙の風景が通り過ぎ、到着したWACの宇宙空港の風景が現れた。

しかし、進入したばかりのユーザーたちを歓迎するのは、コスモ・スポン社が送った6台の兵力輸送船だった。


輸送船の中で一番前にあったものからホログラム映像が投影された。

そこには若くて鋭い印象の眼鏡をかけた男性がスーツ姿でユーザーたちを見下ろしていた。


[困りましたね。まさかその窮状の救援要請にこんなにも多くの汚泥が集まるとは…潜在的顧客の喪失には胸が痛むのですが、 貴官たちには死んでくださらなければなりません。]


「あれが最終ボスみたいだね。」

「来たばかりに戦闘だなんて、熱いイベントだね。」

「さあ!みんな銃を準備して!」


ユーザーたちはむしろ好勝心を感じながら、新たに現れる敵を期待していた。


[さあ、社員の皆さん。 この方々に強制退去命令を執行するように!]


言葉が終わると直ぐに輸送船の下側ハッチが開き、なんとジェットパックを背にしたコスモ・スポーンの兵士たちが降下し始めた。


「あのばかげた汚物たちに立ち退き命令を実行する! 突撃!」

「撃て!奴らに我々のやり方で立ち退き命令を知らせるのだ!」


先頭に立ったのはガイア·リージョンのユーザーたちだった。


「荒い歓迎式は大歓迎だよ!」

「装備もきれいなものに合わせては! 男は力だよ、力!」

「ぶっ放せ!あいつらにユーザーの恐ろしさを骨の髄まで刻み込もう!」


直ちにユーザー陣営対コスモ・スポンの兵士の間で大規模な銃撃戦が起きた。


ーつつくー

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