第17話 略奪者を略奪する1

数日後。

依頼を受けたことがないにもかかわらず、プロフェッサーは武装したまま外出する準備を急いでいた。


「うん?プロフェッサー。 どこ行くの?」


応接間ソファでスクリーンを見ていたグレーブが彼を見つけて話しかけると、


「…ああ」

「どこ?」

「ダンジョン攻略…というか。」

「ダンジョン?」


プロフェッサーは基本的にPKを重点とする請負業者ユーザ。

そんな彼がダンジョン攻略という言葉にグレイブが食べていたポテトチップスまで下ろして席を蹴って立ち上がった。


「私も行く!」

「よせ、これは仕事だ。」

「仕事って?天下の請負業者プロフェッサーがいつからダンジョンの攻略依頼まで受けるの?」


グレイブの声に上の階で休んでいたシャドウまで降りてきた。


「どうしたの?ダンジョン?」

「そう、ダンジョンのことだ」

「誰が依頼したの? 私たちは接線するのを見たことがないって?」


最近の依頼の接線には必ず彼女たちも同席させていた。

依頼者が必要だと思ったら、彼女たちまで雇うことができるように。


「…今回の依頼者は…」

「依頼人は?」

「私ですー!」


地下エレベーターから上がってきたキューティクルが魔法少女の服装をしたまま両手でVサインを描きながら笑って見せた。


「キューティクルさん?」

「キューティクル?」

「そう、彼の依頼だ。」


プロフェッサーは落ち着いて説明を始めた.

今回、シャドウ用装備を準備するのに必要な金属量が足りなくなると、キューティクルがプロフェッサーに依頼を入れたのだった。


「えぇっ…一つのチームなのにそうするんですか?」


飽きたようにシャドウがプロフェッサーを見ながら首を横に振る。

しかし、プロフェッサーとキューティクルは何がおかしいのかというように、


「…俺たちは結成した時からこんな感じだった。」

「もちろん。今プロフェッサーが着ているものと持ち歩いている銃器類全部、いちいち私が依頼して集めておいた材料で作ったものだから。」

「まあ、チームメイトの依頼でユーザー相手ではないので、依頼金は普段の70%程度ではあるが…」


それを聞いた女性陣の目つきが変わった。


「それ、私たちも参加できますか?」

「そうだよ、一人で行くのはずるいんだって。」


そんな彼女たちを見てキューティクルは困ったように手を振った。


「えぇ…全部行ったら依頼費が4倍になっちゃうよ?! それはちょっと困る!」

「うっ」

「ちぇっ!」


がっかりする彼女たちをしばらく眺めていたプロフェッサーは首を横に振りながら、


「しょうがない。 3人は私が雇うことで大丈夫か?」

「え?」

「いいの?!」


まさか、お金の関係ならこの上なく冷徹になるプロフェッサーが、どうしてこのような人心を使う決定をするのだろうか。


「…どうせこれからは一緒に動くことが増えるから、できますでしょうか。敵性NPC相手にチームワークを合わせておくのも悪くないだろう。」

「本当ですか?」

「やった!男が一口で二言三言するなよう?!」


グレーブが指差しまでして釘付けを試みると、


「…俺はいったん決定した事項についてはなるべく変えない主義だ。」

「よし!準備してくるから待ってて!」

「私はキスちゃん起こします!」


すぐに準備に出かける2人の女性を見守っていたキューティクルは満足そうな笑みを浮かべていた。


2人だけで仕事をしていた頃は広い邸宅ががらんとして索漠としたが、やはり人が増えるとキューティクルとしては気が楽だった。


「何と言っても、面倒を見ることに慣れてきたね?」

「別に、必要な過程だから決めたことだ。」


バイザーをいじって困るプロフェッサー。


「率直に言って、女性は扱いに困る。」

「そうだと思った。」

「口数も多くてうるさい上に感情を前面に出したり…」

「やっぱり。」


しばらく彼女たちが消えた階段の方を凝視していたプロフェッサーは、特有の無味乾燥な音声で口を開いた。


「…だが、彼女たちの実力は本物だ。」

「……」

「キューティクル、君と一緒に…俺が認めて背中を任せるほどの実力を持っている。」


プロフェッサーらしいなら、プロフェッサーらしい結論だった。

人間としての彼女たちはあまり気に入らなかったが、この邸宅のルールに感情的な判断は必要なかった。


「さすがプロフェッサー。」

「…ふん。」


*


サポート役のキューティクルを除くチーム全員が出撃することになった。

車の中に乗ったまま、プロフェッサーの簡単なブリーフィングを聞いた。


「もう一度強調するが、該当ダンジョンは黒虎連盟のエリアだ。 事前に料金は払っておいたが、余計な問題は起こすな。」

「知っています。 紛争区域のサーバーの基本だから。」

「そう、気をつけるよ。」


チーム・メンバー全員が紛争区域のサーバーで小骨の太いネームド・ユーザー。

このような基礎的な内容はすでに熟知していた。


「本来は必要な材料だけを払って終わらせようとしたが、どうせチーム全体が来たもの、車に積める分だけ、しっかり掻いて出てくることにしよう。」


2人の女性の目が光った。

キューティクルが望むのは主に素材アイテムだろう。

ダンジョンからドロップされる装備アイテムなどは各自で処分することになっていた。


まもなく統制区域の立て札が見え、黒虎連盟のユーザーが歩哨に立っているところに到達した。


「いらっしゃいませ。しばらく身分確認お願いします。」


先日の依頼で会った新米ユーザーがぶつぶつとした態度で歩哨に立っていた。

プロフェッサーは助手席から顔を出して指を弾くことでアピールした。


「え?あのヘルメット請負業者!」

「そう、久しぶりだね。 名前が…ジェットだったっけ?」

「ウィキッド・ジェミ! ウィキッド・ジェミです! 名前くらいは覚えておいてください!」

「…俺が覚えていないということは、まだ紛争区域ネームド・ユーザーになるには程遠いということだ。」

「くぅっ!」


軽く彼をからかった後、隣にいる古株ユーザーに頭を下げて見せる。


「見え次第、プロフェッサー以下3名。 上記のバンディット物資倉庫攻略をしに来た。」

「プロフェッサー…あ、確認しました。ところで…以下3人?」


古参ユーザーが何か疑わしいように車の窓を下ろして中を確認させてほしいというジェスチャーを取った。


「キス、頼む。」

「うん!」


ウィス‐キスはドアのスイッチで窓を見下ろした。

面々を確認した古参ユーザーの額から冷や汗が流れた。


「おいおい…せいぜい材料を集めていくのに全員出撃だなんて、そんなに暇なのかい?」

「最近チームアップをしたので、チームワーク育成を兼ねて行くのだ。 了解をお願いするよ。」

「まあ、料金は前払いでもらってしまったし…プロフェッサーなら…オッケー!代わりにベアード·チェに報告は載せておくから。」

「ありがとう。」

「パス!」


古参の号令とともにウィキッド・ジェミが警戒所のコンソールを操作して遮断棒を片付けてくれた。


簡単に登った車は、まもなく丘陵地域の頂上に位置する古鉄で塀を築いたバンディット要塞に接近した。

ここは警備会社で不正を起こして脱走した人たちが略奪者になって近隣の資源を少しずつ略奪して集めている設定のダンジョンだった。


敵の各個体のレヴェルはそこそこだったが、一般ダンジョンとは異なり登場する頭数がひどければ4倍まで上がることで有名だった。


おまけに一定周期で継続して近隣鉱山の資源を何%か引き出して倉庫に充電するギミックを持っていて、倉庫が埋まる時期ごとにこの地域を管理している黒虎連盟が新入訓練兼ねて荒らしているところだった。


それをかなりの金額を連盟に渡し、今周期の攻略を許可されたのだ。


「さあ、始めるぞ。」

「えっ、プロフェッサー。 作戦は?」

「そうだね…ブリーフィングとはいえ基礎的なことだけ…」

「そうですね。」


心配そうな視線を送る彼女たちをさっと振り返ったプロフェッサーは、くすくす笑って首を横に振った。


「俺が言うチームワークの意味は、そんなに柔らかいものではない。」

「え?」

「え?」

「……?」

「それぞれがプロとしてすべきことをしなさい。 そうすればチームワークは自然に合わせられる。」


話を終えたプロフェッサーはステルスモジュールに触れて姿を消してしまった!


「もう!それなら最初から勝手にしろと言えばいいじゃないですか!?」

「そうだ!お前、後で本当に一発殴るぞ?!」

「うぅ、余計に期待してた。」


すぐにシャドウは体を飛ばして塀を飛び越え、グレイブはすぐに車の後部座席に飛び込み、上段の砲塔カバーを開けて機関銃を持ったまま立った。


「キス!ドアをひっくり返せ!」

「イエス!メン!」


重いエンジン音とともに力強く突進した装甲車が、見た目も粗末極まりない古鉄のドアを押しつぶしながら崩した。


その音に驚いた人間型モブ、バンディットの群れが四方から飛び出し始めた。


「敵だ!捕まえて殺して持っているものを全部剥がしてあげよう!」

「お肉!お肉! お肉、いいね!」


普段から略奪物を利用して麻薬を買って常習服用するという設定らしく、正気の台詞を言うのはごく一部だった。

ほとんどは白身が黄色くなったり、稼いだりしたまま味がついたまま銃を乱射していた。


「まったく…君たちみんな聖母様のそばに送ってやる!」


すぐに車の砲塔の席で両手に持った機関銃を撃つグレイブ。

車に向かって走ってきた盗賊の群れが一瞬にして体に一文字ずつ銃弾の穴が開いたまま崩れ始めた。


ズバババン!


盛んに打ち上げられていたグレイヴの前に厄介な存在が現れた。

鎮圧用の盾を持った体格の良い人間型モブ。バンディット抑圧者が登場したのだ。


「くそ!キス!あいつら踏みつぶせる!?」

「道が狭くて駄目だと思います!」

「ちぇっ!」


手榴弾でも使おうかと思っていると、あるバンディット抑圧者の影から見慣れた形がするすると上がってきた。


「ふん!」


流麗な腕前で抑圧者の後ろ首に脇差を深く刺して即死させたシャドウは、他の抑圧者の影に瞬間移動した。


「何、何だ?! この女は!?」


そばにいた仲間がやられるのを見た抑圧者が慌てて盾を振り回してみたが、


タアン!


豪快な大口径小銃弾の銃声とともに抑圧者の頭がすいかのように爆発した。

プロフェッサーの狙撃であることに気づいたシャドウは影の中に再び溶け込み、グレイブは動けない車から降りて機関銃を持ったまま大股で中に進入し始めた。

奴らのボス、ボスモブのある倉庫の建物に向かって。


そのようなグレイブの後ろには、車から降りてついてきたウィス‐キスもいた。


「キス?大丈夫?」


本来運転ばかりしていたウィス‐キスだったが、チームに入ってからプレースタイルに変化が生じていた。


「大丈夫です。まだお酒の勢いも残っているし…プロフェッサーがおすすめしてくれて、いいものをもらったから。」

「何?」

「…クラッキング・ツールです。」


自慢のように腕に巻かれた新しい装備を見せるウィス‐キス。

「え?それで何をするの?」

「…周りの電子機器に触れて、ある程度のことは勝手に動けます。」

「それ、使えそう。」


2人が盛んに装備を確認していた頃、絶壁に位置した居住区域では短く押さえつけられた断末馬が続いていた。

シャドウは影に乗って走り回り,ちょうど逃げようとしていたバンディットを斬殺していた。


「何、何?!」

「はっ!」

「クエッ!」


再び1人を倒した後、居住地を適当に探した。

やはり使えるものは見当たらず、眉をひそめた彼女は中を見回して、バンディットが保管していたポイントを大量に取り除いた。


プロフェッサーはプロフェッサー通り、ステルスモジュールをつけて自分を隠したまま、すでに倉庫の中まで入っていた。

うじゃうじゃとむらがっているバンディットたちをいちいち相手にするつもりは全くなかったので、ボスモブを瞬殺して早く進めるつもりだった。


「…….」


窓から潜入し、ボスのいる階の階段を下りていたところ、ふとあちらから声が聞こえてきた。


「…くんくん…誰か侵入者がいるな?」

「頭、頭?どうしたんですか?!」

「侵入者だってば、 俺様の武器を持って来なさい。」


その時になってようやく、プロフェッサーは自分が潜入した階が設定上、ボスモブの個人寝室があるところであることに気づき、笑みを浮かべた。

仕事が楽になりそうだったので。


-続-

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