第11話 絶対的な解決策4
降りてくるチーム員たちを眺めながら、プロフェッサーは頭を下げた。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
しかし、すでに事は起きているのだから。
首をあちこちひねりながらストレッチをしたプロフェッサーが応接室に集まってチームについて話そうとした瞬間、再び呼び鈴が鳴った。
「またか。」
マスカレードのやつらも思ったより執拗だなと思いながらドアを開けると、何か小さな形がぱっと襲ってくる!
「え!?」
「プロフェッサー∼!」
「…!」
それは他でもないゲット・アウェイ・ドライバーとして彼と働いたユーザー、ウィス-キスだった。
「ちょっと待って、あなたがどうしてここにいる?!」
「噂を全部聞いたんですよ! 今、このサーバーに広まってるから!」
「何を言っている!?」
「プロフェッサーがチームアップしたという噂です!」
「クッ!?」
何か間違っている。
こんなに早く知られるはずがなかった。
マスカレードの奴らから情報が広がるにはあと数日はかかるだろうと読んでいたのに、正式に結成された当日に見つかるって?
「何か大きな間違いが起きている。」
ウィス-キスを無理矢理切り離したプロフェッサーは、すぐ応接室のスクリーンにニュース・チャンネルをつけた。
[意外なニュースですね。 いつも単独行動をしてきた彼が急にこのタイミングでチームアップだなんて。]
[きっと公式戦方の依頼にも顔を出すという意味ではないでしょうか?]
[ホホオ、それはまた今後の紛争地域サーバーの勢力構図に大きな影響を及ぼすかもしれませんね。]
[それはどうでしょうか。 公式戦は…]
「…一体どんな奴が広めたんだ?」
機械音が混じった歯ぎしりの音が恐ろしく広げていた。
その姿に首を縮めたシスター・グレイブが慎重に手を上げた。
「…あなた、いったいどこに…!」
「それが、私…というよりは、多分マリア・チャイルドの方だと思う。」
「…!」
マリア·チャイルドはそれなりの手段を講じているようだった。
シスター・グレーブを放出するとほぼ同時に、彼女がプロフェッサーとチーム・アップをするという情報を勝手に広めたはずだ。
それを通じてマスカレードからの追撃を振り払う心算だっただろうが、結局彼女は追撃され、結果的にプロフェッサーとチーム・アップをしたことで虚偽情報を本当に作ってしまったことになった。
「…やられたな。」
「ごめん。わざとじゃないと思う。 私を守ろうとしたんだから…」
「それで、いつ帰るつもりだ?」
「…!」
冷淡に彼女の復帰が既定事実であるかのように質問した。
プロフェッサーは最初から彼女が自分を一時的な逃亡者に使をとしたと確信していた。
「なるべく早く行ってほしいな。 この邸宅に人が多いのは邪魔で嫌なんだ。」
「くぅ…!」
シスター·グレイブはしばらく考えて首を横に振った。
「悪いけど、帰るところはないよ。」
「…」
「昨日言ったじゃない? 覚悟ならしたよ。 マリア・チャイルドの方々も理解して送ってくれたと思うの。」
「果たしてそうだろうか。」
「…もうすぐ嫌でも確認することになるんじゃない?」
堂々と話していたが、彼女の声は少しだが震えていた。
彼女にとって恩人であるマリア·チャイルドとはなるべく敵対したくなかった。
しかし、プロフェッサーと彼のチームは機械的中立を守る完全なフリーランス請負業者。
たとえマリア·チャイルドだとしても、彼らの標的にならないという事はなかった。
「それはそうだ。 その時になれば、あなたの覚悟が本当だったかどうかを確認するようにしよう。」
「…」
ふとシスターは首をかしげてシャドウを見た。
「シャドー、君は覚悟できているの?」
「私は…ダーク・ゲーマーですから、 轟龍会に特にいい思い出が多いわけでもないし。」
意外と涼しそうに通り過ぎる彼女の姿にシスターは唇をぎゅっと噛んで考え込んだ。
「ちょっと待ってください!」
隣で聞いていたウィス-キスがいきなりソファーの片方にどかっと座り、
「私も入れてください!」
「……」
プロフェッサーは黙って首を横に振った。
「うちのチームにあなたのようなドライバーは必要ない。」
「いや!必要になるかもしれないじゃないですか?!」
「そんなことはない。」
「イッ!」
頬を膨らませた彼女がプロフェッサーに近づき、ヘルメットに手をつけようとすると、巧みな手さばきでポンと打ち返した。
「いたっ!?」
「ヘルメットには触れるな。 取り返しのつかないことになるかもしれない。」
「じゃあ、受け取ってください!」
「断る。」
断固として断るプロフェッサーとは異なり、シスターが助け出た。
「なんで?彼女がいた方がよさそじゃん。」
「理由は?」
「あなたもご存知のように、私は弾の所費が烈しいじゃん? 本格的に全面戦争の状況なら普及も大切よ。」
「……」
「そういえば、プロフェッサー、サーバー内で長距離移動する時、普通どうしますか?」
シャドウの質問にプロフェッサーは一寸の迷いもなく、機械音混じりの無味乾燥なトーンで答えた。
「…公共交通機関だ。」
「……」
「……」
「ハハハ…」
それなりに秘密主義を主軸に請負業者やPKユーザーたちの間でおしゃれと実力で憧れの的であるプロフェッサーが小市民のように公共交通機関を利用するという事実に女性陣の表情が冷たくなった。
キューティクルだけが普段の彼の性向を知っているので、照れくさそうに笑うだけだ。
「やっぱりウィス-キスは必要だね。」
「そうですよね?」
「確かに…」
「おい。何を勝手に決めている。 こんなのは創設者である俺が…」
何か変な方向に流れが向かうのを感じたプロフェッサーが口を開けてみたが…
「プロフェッサーが言ったじゃないですか。 結成はしたもののあくまで独立したビジネス関係だと。」
「くぅ…!」
「そうだね。その通りなら各自同等の権限があるという意味だから、こういう場合は多数決で決めることになるね。”
「おいおいおい…!」
勝手に多数決で決めようという二人の女性の発言にプロフェッサーが手を伸ばして制止してみるが、
「さて、ウィス-キスがチームに必要だ! 賛成する人、挙手!」
「何?!」
「はっ!」
待っていたかのように手をさっと上げるシスターとシャドウ、それに加えてウィス-キスまで。
一歩遅れてそっと手を上げるキューティクルまで加勢すると、プロフェッサーはヘルメットを触りながら頭を悩ませなければならなかった。
「…分かった。ウィス-キスもチームに入れることに。だが!これ以上の増員はない。」
「…分かりました。」
「まあ、一応そういうことで。」
「ヤッホー!ついにプロフェッサーと働くようになった!」
*
1ヵ月が過ぎた。
彼らはプロフェッサーの邸宅での生活になんとか適応していた。
各自の私生活に最大限関与せずにドライな関係を維持するとかいうルールを守ることは適応しにくいように見えたが、彼女たちは簡単に受け入れた。
新しく知った事実と言えば、この邸宅の規模が思ったよりはるかに大きいという事実だった。
地上3階は一見しても分かる規模だったが、地下はさらに大きかった。
知ったことだけ地下3階に邸宅の倍は大きな坪数の空間が作られていたのだ。
シャドウが練習していた射撃場もその一つだった。
これでも足りず、地下1階には戦車や戦闘機まで収容可能な大きさを持つ、中間規模の格納庫まで用意されていた。
格納庫の片方にはウィス-キスの愛馬が位置し、チーム員たちは久しぶりに地下1階に用意されたブリーフィング・ルームに集まっていた。
チーム、アブソリュート・ソリューション。
それがプロフェッサーが作ったチームの名前だった。
意味そのまま100%の成功率を前面に掲げた絶対的な解決策という意味だった。
今日は久しぶりに轟龍会側からチーム全体に依頼を入れたので、そのブリーフィングのために集まった。
「…よりによって標的がガイア·リージョンだなんて、ちょっと心配なんですけど。」
「ふん、この程度の面々を集めておいて、そんなに小心者になることはない、 シャドウ。」
「でも…」
ガイア·リージョン
旧ロシア地域のユーザーたちを中心に団結した大型クランで、公式戦で途方もない集団火力戦術で威名を馳せている侮れない強者たちだった。
最近、轟龍会が彼らと摩擦を経験すると、珍しくプロフェッサーのチームに依頼してきた状況。
「いくらなんでも、機甲装備奪取なんてちょっと無理があるんじゃないですか?」
プロフェッサーのチームに轟龍会が依頼したのは、まさにガイア·リージョン側が次の公式戦シーズンのために量産して運搬中の新型装甲車試作品の強奪だった。
ドライバーがウィス-キス一人だけの彼らには手ごわい依頼。
「その部分は気にするな。」
プロフェッサーが断言し、ホログラムで運送中の装甲車の状況を展開した。
「これは…!」
「ガイアリージョンの補給輸送用軍用列車…!」
「そう、俺たちは装甲車を奪うのではなく、 奴らの列車を丸ごと奪って経路を轟龍会地域鉄道に連れて行く。」
「……!」
思ったよりはるかに大胆な計画に口が開いた女性たちを気にせず、プロフェッサーは地図を広く広げ、該当列車が走る鉄道路線と轟龍会につながる鉄道路線の分岐点があるところを正確に指摘した。
「ここまでが山場だ。 見るまでもなく、ガイアのユーザーたちが蜂の群れのように駆けつけるから覚悟をしっかりしておくように。」
「もしかして…自走砲とか撃てきたりしないかな?」
ガイア·リージョンはフィールドでの単純抗争やPKでもたびたび機甲装備を動員して火砲射撃をしてしまうという凄まじい戦闘方式で有名だった。
他でもなく新型装甲車と補給品がいっぱい積まれた列車を丸ごと奪われるならば、ガイア・リージョンのユーザーたちが火砲射撃で列車を爆発させてでも止めようとするはずだった。
「それで今回の依頼で核心はシスター・グレイブとウィス-キス、 二人だ。」
「私ですか?」
「私?」
プロフェッサーの指名に2人は呆然とした表情で眺めた。
「そう、ウィス-キスの車の後部座席の上部には砲塔装着用のリムがあったよね?」
「はい。」
「そこに搭載する40ミリ榴弾機関砲を用意しておいた。 シスター・グレイブがそれを使って列車路線に砲撃を加えるだけの機甲装備を機動打撃して制圧する。」
「大、大胆な作戦ですね…!」
酒が入っていないにもかかわらず、目が大きく開いたウィス-キスが拍手をしながら驚いた。
まさかこんなに大規模な作戦になるとは思わなかったのだ。
プロフェッサーはくぅっと笑って見せた後、
「このサーバーのみんなは、今まで俺たちがチームに動くのを経験したことがない。」
「それはそうですね。 今まではみんな別々に依頼を受けて別々に動いていましたから。」
「そう、だから、俺たちが集まった時、どんな破壊力が出るのか誰も知っていないと言う事だ。」
「…!」
「列車奪取は俺とシャドウ、 二人が引き受ける。 俺が列車の運転を担当するから、中の警備員はあなたの担当だ。 できるよね?」
プロフェッサーが挑発するように質問すると、シャドウは自信満々な表情でうなずいた。
1か月間、彼女たちはみな一度も依頼に失敗したことがない。
成功率100%。
絶対的な解決策というチーム名にふさわしい活躍をしてきた女傑たちだった。
「それなら、それぞれ装備を点検するように。 足りないことがあればキューティクルに先に話すようにしておけ。」
「いくらでも任せてくれ!」
直ちにウィス-キスとキューティクルが格納庫に向かい、シャドウとシスターは各自の部屋に上がった。
プロフェッサーは一人でブリーフィング・ルームに残って万が一発生する変数についてシミュレーションしながら状況を分析していた。
確かに可能だという確信の下で受けた依頼だったが、今回のことは彼としても初めてのリスクが大きい依頼だったためだった。
このような悩みがしたくなくて一人で動くことに固執してきた彼だったが、状況がこうなった以上しないわけにはいかなかった。
「…危険ならば、潜んでいる脅威をすべて分析して解体するだけ…それこそプロフェッショナルというコードネームにふさわしい仕事ぶりだろう。」
- つつく-
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