第7話 ウィス-キース2
予想外の事態にぎくしゃくした少女が対応できずにいるとき、プロフェッサーは巧みに対処した。
「チッ!」
すぐに拳銃を取り出し、速射で森から飛んできた銃弾を迎撃した。
じっと殴られると思ったのか、目を閉じていた少女はすぐに片目を開けて、自分が生きていることに呆然とした表情でプロフェッサーを眺めた。
「な、何をされたんですか?」
「…大したことない。 ところで、本当に帰らないつもりなのか?」
「…もちろんです。」
冷や汗を流しながらも余裕のある笑みを浮かべて見せる少女を見たプロフェッサーは、軽くため息をつき自分のベルトの片方に飾りのようについていたボタンを押した。
それはプロフェッサーをこの私有地内の防御システムが認識できないようにする一種のセーフティキーだった。
自分の存在を防御システムから排除することで、小道の1人制限ルールによって少女が攻撃される状況を排除したのだ。
「もうついてきてもいい。」
「…? そのボタンは何ですか?」
「…秘密だ。」
「ブウ!教えてくれたらどこが悪くなるんですか?
ぶつぶつ言いながら例のボタンに手をつけようとする少女の手を冷徹に叩き出したプロフェッサーが首を横に振る。
「許可なく俺の体に触れるな。 怪我をする。」
「いてつ!ひどいじゃないですか?」
「俺の装備の中には緊急時の防御のために色々な迎撃装備が内蔵されている。 下手に手を出すと手首を切断されることもある。」
「……!」
機械音混じりの音声で平然と少女の手首が切れることを宣告し、体を回して小道を歩き始めた。
しばらく不満を言おうとしていた彼女は、頬を膨らませ、しぶしぶ彼について小道を歩かなければならなかった。
邸宅のドアを開けて入ると、床にはサーバーによく登場する猛獣型モンスターの皮や頭の剥製が随所に飾られた、まるで狩人の家のようでありながらも随所に未来的な装備が加味されたインテリアが目についた。
そして….
「おお!無事に帰ってきたね、プロフェッサー! 仕事はどうだった?」
「いつもどりだ。」
「え…」
ウィス-キスは生まれて初めて見る光景にそのまま固まってしまった。
2メートルは十分な筋肉パンパンのマッチョ金髪の男性がフリルのついたメイド服を着て盆を持って立っていた!
「おぉ!新しい依頼人? かわいいね!」
「いや、お客さんだ。 お茶でもコーヒーでも、好きなものを適当に出してくれるといい。」
「お客様?!どうしたの! プロフェッサーがお客さんを受けたりして?!」
「だから、欲しいものを一杯飲んだ後に帰ると言ったのだから、適当にあげて満足させてから返せという意味だ。」
「ええ、それはひどいじゃないか。」
「そ、そうです! 何ですか、それ!」
プロフェッサーの冷たい態度に頬が膨らまないほど膨らんだ少女が足を踏み鳴らしながら不満を示せば、キューティクルもやはりそれはちょっと違うように眉をひそめてプロフェッサーを眺めた。
しかし、プロフェッサーは2人を見つめずに背を向けたまま、自分の部屋がある上の階に上がろうとするだけだった。
「依頼人じゃないのにここまで来させただけでもすごい特別待遇だということをそろそろ分かってほしいんだけど。」
「まったく!同じフリーランス請負業者同士で交流くらいはしようと来たのに!」
「俺は一人で働いてる。 特別な場合でなければ。 だから交流は必要ない。」
とうとう上がってしまうプロフェッサーについて上がろうとしたのを防いだのはキューティクルだった。
「止まって!今ついて上がれば撃たれますよ!?”
「え!?」
「この屋敷にルールがいくつかあって、それを破れば銃殺してもいいという話になっているから…!」
「ひいっ…?」
ウィスーキスは心から驚愕した。
いくら数年間フリーランサーとしてひたすら活動してきたうえに、 実績の高い請負業者とはいえ、まさかこんなに鋭い人だったとは。
結局、しょんぼりした表情で応接室のソファに座り、キューティクルが持ってきたハーブティーを飲みながらしょんぼりしていなければならなかった。
お茶を何杯か詰め替えながらプロフェッサーが降りてくるのを待ったが、彼は降りてこなかった。
結局、涙ながらキューティクルに挨拶して帰ろうとした時になってようやく、プロフェッサーが黒い一色のガウンを羽織った楽な服装で階段を下りてきた。
「さようなら。今度仕事の関係で会ったら挨拶くらいはしてあげるから。」
「…….」
ふんとプロフェッサーの言葉を振り切った少女がドアを開けて邸宅を出て、キューティクルはプロフェッサーに近づき、軽くヘルメットをかぶった頭を殴り飛ばした。
「本当に、いくらなんでも少女に鋭くしすぎじゃない?」
「…少女?請負業者だ。 お金をもらって命をかける、俺と同じ業種に従事する人だ。」
「……!」
プロフェッサーがあれほど鋭い態度を取ったことが少しは理解できた。
プロフェッサーは少女の実力を確信し、自分と同等の存在として見て警戒した模様。
「俺は基本的に一人で働く。 それだけだ。」
「…それはそうだね。」
*
旧日本地域のオフィステル。
なめらかな黒髪を長く垂らしたスーツ姿の女性が缶ビールを一気に飲んでいた。
霧影舞。
ワースト・フィールド上では『ミスト・シャドウ』という異名で活動する、ゲーム内唯一の忍者コンセプトのユーザー。
彼女には悩みがあった。
本来、ありふれた顧客センター相談員の仕事をしていた会社員だった彼女は、同僚の会社員に惹かれて始めた仮想現実ゲームで偶然ダーク・ゲーマーたちの月平均収入が自分の月給より多いことを知った。
その道で仕事を辞めてダーク・ゲーマーに転業した彼女。
家業の霧影流忍術を前面に押し出し、盗賊や暗殺者クラスに通ったゲームごとに、まともな収入を得ることができた。
そして公式戦コンテンツで盛況中のワースト・フィールドに挑戦したが…
ワースト・フィールドは彼女にはなじみのないゲームだった。
四方から飛んでくる銃弾、ともすれば手裏剣を塞ぐ防御膜、自分の忍法を生かすほどのスキルや職業がない環境など…
それでも歯を食いしばって1年ほど苦労した結果、ついにゲームシステムが彼女の動きをスキルとして認め、ゲーム内唯一の『切掛流忍者』職業を創造してしまった状態だった。
以後、当然そんな自分を轟龍会で公式戦に参加させてくれると思っていたが…
「ごめんね。ミスト・シャドウ。 それは難しそうだね。」
「どうしてですか?!他のネームドユーザーより私の実績が足りないんですか?!」
「いや、そうじゃないんだけど…」
「それでは一体何が問題なんですか?」
「…あなたは銃を使わないでしょう?」
「…?!」
旧戦乱時代、火力を中心とした戦争を具現化したのが公式戦。
忍者という、中世封建時代になってようやく盛んだった職業を持つ彼女は、公式戦で立つ場所がなかった。
装備一切がハンドメイドに単独使用であるため普及にも問題が生じ、運営をするとしても大規模全面戦争状況で忍者1人ができることはほとんどなかった。
結局、先ほど公式戦参加が不可能ならば、轟龍会から脱退すると幹部に言ってしまい、接続を切った状況だった。
いざ決めてみると、フリーランスの請負業者としてどうすればダーク・ゲーマー活動を続けられるのか分からず、ビールを飲んでいたのだ。
「本当に…これからどうすれば…」
酔いが上がった彼女は、乾いたイカのつまみが入った器を持ってリビングのテレビの前に座った。
これからのことは明日から考えてみることにして、とりあえず頭を冷やすことにした。
「テビ!チャンネルWFNでお願い。」
彼女はテレビをティーテーブルの音声認識装置につけ,チャンネルをワースト・フィールドニュースにした.
パッと浮かんだ画面には、ちょうどファーザー・マスカレードのネームドユーザーだったシスター・グレイヴのマリア・チャイルド転向ニュースが流れていた。
[今回の移籍に関しては諸説ありますが、いずれにせよ有力なフロントマンのネームドユーザーであるシスター・グレイブを失ったことによりファーザー・マスカレードの公式戦火力に大きな空白が生じることは既定事実で…]
「へえ、運ぶ人もいるんだ?」
自分もあんなに待遇の良いクランに移せばいいのだろうか。
そう思いながらイカをごそごそさせながらビール缶をもう一つ取った。
[しかし、ファーザー・マスカレード側の抗議がかなり激しいです。 クリムゾン・フード側からも動きがあるという報告が続々と寄せられています。]
[せいぜい傘下勢力の一介ネームドユーザーなのにクリムゾン・フードまで動くなんて、やりすぎだと思いませんが?]
単純圧迫かもしれませんが、こうなるとマリア・チャイルド側の立場も困りましたね。]
「やっぱりそんなに簡単なんじゃないかな。」
他のところは知らなくてもダーク・ゲーマー待遇の良い黒虎連盟に入れば、轟龍会側から悪い声が出るのは明らかだった。
2つのクランはゲーム開始から犬猿の仲だったから。
しかし、黒虎連盟を除けばダーク・ゲーマーの扱いは似たようなもんだった。
その上、ミスト・シャドウのような、従来のゲーム路線とは別のユーザーをまともに待遇できるクランがどれくらいあるだろうか。
「チイッ。」
缶を開けて再びビールを一気飲みして自分の身の上を嘆こうとした瞬間、
[彼女が無事に出てくることに介入したのはフリーランス請負業者として有名な謎の請負業者、プロフェッサーであることがマリア・チャイルド側匿名のユーザーから証言が上がっています。]
[またあの男ですか?本当に意外なところで名前が挙がっているんですよ。 公式戦参加はしないくせに….]
ぴちっと。
飲み干していたビール缶をバタンと下ろした霧影は、すぐに音声認識装置に向かって口を開いた。
「テビ!検索!ワースト・フィールドのユーザー名『プロフェッサー』!」
ニュースが流れていた画面が直ちに検索窓に転換され、プロフェッサーについて知らされた情報を出力して見せた。
手振りでスクロールしてプロフェッサーの話が出たインターネット記事から、ゲーム内のパパラッチが撮ったような彼の写真を見ていた彼女は、すぐワースト・フィールドのウィキページまで入った。
「……!」
ウィキに書かれていたプロフェッサーの活動期間を見た彼女は確信した。
この男なら、ひょっとしたら…
彼女が望むフリーランサー請負業者でダーク・ゲーマー活動が可能になりそうだった。
「テビ!出前注文! 酔い覚ましスープの大盛り!」
すぐに酔い覚ましスープを注文した彼女は、ビール缶を片付けて席を蹴って立ち上がった。
水を一杯飲んだ後、酔い覚ましスープで酒の勢いを少しでも早く吹き飛ばさなければならなかった。
そうしてこそ安心してゲーム内に接続できるから。
*
プロフェッサーが簡単な依頼を終えて帰ってきたところだった。
キューティクルは銃の入ったブリーフケースを受け取り,応接間を指差した.
依頼者が来ているということだろうか。
首を回してそちらを眺めると、ソファに決して見たくなかった顔が座っていた。
先日、彼のヘルメットを壊したくノ一ユーザー。
明るく笑ってこちらを向いて手まで振っている!
「キューティクル。これは一体どういう状況なのか。」
「プロフェッサーに内密に話したいことがあるそうだけど? 依頼じゃないかな?」
「…請負業者からの依頼は受けた先例はないが。」
静かに会話をした後、彼女がなぜ来たのかはっきりしなかったので、腰についた拳銃を慎重に取り出して接近した。
無傷で屋敷の中まで入ってきたということは、少なくともルールを破ってはいないはず。
現在、彼女の体に武器判定となるアイテムはない。
しかし、彼女はゲーム内で唯一の忍者キャラクター。
奇妙な格闘術を使うこともできるはずだ。
「…どうして来た?」
「とりあえず、その危険な物から置いて話したいですけど?」
「…….」
それは駄目だというように黙って見下ろせば,彼女は自分の服装のあちこちをじらっと見せでいた。
「…どういうつもりだ? 美人界は通じない。」
「まさか、私が完全に非武装だとアピールしただけなんですよ。」
「…忍者の非武装がそんなに大きなハンディキャップになるとは思わないが。」
ミストはため息をついた。
まさかと思ったが、やはりこんなに警戒されると少し傷つくような気分だった。
「分かりました。話すように一旦座っていただけませんか?」
「…依頼についてでなければ遠慮したいだが。」
「もう!そうしないで、ちょっと話を聞いてくれませんか?」
プロフェッサーは内心、最近になって彼の周りに女性たちがうろうろしているのか分からないと思い、眉をひそめた。
この上なくドライでビジネス的な人間関係を信奉する彼として、女性という存在は非常に頭の痛い存在だったからだ。
「分かった。話は聞いてあげよう。 しかし、聞いてあげるだけだ。 それ以外の事案については何も断言できず、ほぼ確実に断ると断言するよ」
「……?!」
席に座ったが、最初から拒絶がほぼ確定だという話を聞いたミストの眉毛が震えていた。
キューティクルが近づいてきて2人にティーカップを置いていくと、ミストは深呼吸をした後、口を開いた。
このような男に言葉をあちこち回しても時間の無駄だと思われるはずだ。
「…私を雇っていただけませんか?」
「断る。さあ、お茶を飲み終わったら帰るように。」
言葉が出るとだん、ほぼ同時に即答してしまったプロフェッサーが席を蹴って立ち上がると、ミストは飲みかけようとしたティーカップを逃すところだった。
「ぞ、ちょっと待ってください。即答?」
「…じゃあな。」
「ま、待ってください!」
「…基本的に俺は一人で働く方針だ。」
「じゃあ、あのおじさん…は何ですか?」
- つつく-
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