第5話 シスター·ヘビーアームズ2
「ところで、君見たことのない顔だけど、どこから来た?」
ふと経歴が長く見えるNPCが交代の席に座ろうとするプロフェッサーを止めた。
本当に刹那の瞬間、二人を撃ってしまおうかと悩んだが、すぐに頭を掻きながらへへと笑って見せた。
「ああ、言い忘れた。ドルイド・ユニオン支部から昨夜こちらに移動するよう指示があったんだ。 これからよろしくたのむぜ。」
「何だよ、そうだったの? かわいそうなやつ。」
このようなでたらめな、あるいは上司の横暴に近い部署移動や解雇がしばしばある会社という設定らしく、両NPCは気の毒そうに彼を見つめながらエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターのドアが閉まるのを確認したプロフェッサーは、直ちに事前に確認しておいた監視カメラを拳銃を取り出して撃ち壊してしまった。
「順調だ。」
収監洞に潜入しようと銃でロック装置を撃ってしまおうとしたが、ふと歩哨たちが座っていたテーブルの内側に引き出しがあることを確認して銃を整理した。
「ここのどこにいたら…」
引き出しを一マスずつ開けながら内部をかき回すのをしばらく、一番下の引き出しから歩哨に支給されたカードキーが転がっているのが確認された。
それを持ってきて収監棟のドアにさっと掻くと、ピーという音とともにドアがスムーズに開く。
「開けゴマ…フッ。」
ゆっくりと収監中に入り,独房を横目でのぞき込んだ。
監房内部には、リスポン装置とベッド、トイレ便器と流し台などが同じ配置に位置していた。
「接続したユーザーはいないか…」
このようなNPC警備隊の監房に収監されれば、収監期間中一定量のレベルが落ちるのが普通だった。
ログアウトしていても時間は経つようになっているというのがせめてもの救いというか。
ふと一番奥の独房に人の影が見えて近づいた。
囚人服にも隠せない、意外とボリューム感のある体つきに、でこぼこした赤くて長いくせ毛が印象的な女性がぶくぶくしながらベッドに座っていた。
独房の矛先を警棒で軽く叩くと、頭を上げてこちらを眺める。
「何?」
彼女の神経質な声にくすくす笑った彼は、黙ってカードキーを掻いて独房のドアを開けた。
「…?」
「あなたを助けに来た。」
見知らぬ警備員の無味乾燥な声に彼女は不審な目で彼を見回した。
その姿にため息をついたプロフェッサーが自分の正体を明らかにした。
「請負業者のプロフェッサーだ。 あんたを救出してほしいというマリア·チャイルドの依頼を受けてきた。」
「あ。」
その時になって状況を把握した彼女が不審に思いながらも、一つ一つ歩いて出てきた。
「あなたがそのプロフェッサー?」
彼女が噂で聞いて知っていた外見とは違う姿だと戸惑いながらも、彼の案内に従って収監棟の外に出てきた。
「証拠品保管庫は地下2階だ。 そこであなたの装備を手に入れた後、離脱する。」
「ちょっと待った。」
彼女はプロフェッサーの肩をつかみ,何か言いたいことがあるかのように歯を食いしばる。
「あなたに提案したいことがある。」
「…?」
「この都市、壊して行ってはいけないのか?」
「は?」
彼女の瞳からは強烈な憎悪が燃えていた。
このまま逃げるのは彼女の性格上到底容認できないことだったようだ。
「断る。」
「あ、ちょっと!」
「いくらユーザーが少なく、公式戦シーズンとはいえ、予備兵力がないという保障はどこにもない。 直ちに離脱する。」
「……!」
結局、しばらく頬を膨らませながら不満を示していた彼女は、黙々と先頭に立って歩く彼の姿にしぶしぶついてエレベーターに乗り込んだ。
地下2階の保管庫を守っていたNPCを拳銃射撃で一気に倒したプロフェッサーが、彼らが持っていたカードキーでドアを開けて彼女に手招きした。
「さあ、早くあなたの装備だけ用意して出てくるように。 直ちに離脱する。」
「…….」
しばらくして。
装備を着て出てきた彼女は、黙って案内しようとするプロフェッサーを押しのけて歩き始めた。
「…どこへ行く?」
「あなたが何と言おうと、私はこの都市を壊すだけぶっ壊れた後で行くからさ。」
「…冗談はやめろ。」
近づいてそんな彼女の手首をつかんでみるが、残念ながらゲーム内での腕力は彼女がプロフェッサーを上回っていたのか、かえってプロフェッサーが引きずられていく状況になった。
「おい、待って。 止まれ。」
「ふん!止めてみてたら?!」
「くうん…!」
しばらく頭を回したプロフェッサーは結局この頑固なお嬢さんを連れて行くには、彼女の気分に合わせてあげるのが一番早いと確信した。
「…分かった。協力しよう。 ただし、いくつかの事前作業が必要だ。」
「何だ。意外と話が通じるタイプだったじゃねか?」
「…別に、あなたが救出対象だから仕方ないだけだ。」
「でも。噂通りなら、私の後ろ足を引っ張っていこうと思ったのに。以外!」
彼女が怪しそうに眺めていると、プロフェッサーは小さくため息をつき、
「残念ながら、一応俺も紳士を自任する身だ」
「へえ。」
「とにかく、とりあえず地下3階に行く必要が出てきた。」
「そこはなんで? このまま外に出て暴ればいいじゃん!?」
グレイブが自分の機関銃を自慢するように持って振ると、プロフェッサーはくすくす笑った後、首を横に振った。
「地下3階にはNPCを閉じ込める収監棟がある。」
「それで?」
「接続しないと連れて行けないユーザーと違って、彼らは閉じ込められるとずっとそこにいることになる。」
「そりゃそうね。」
当然のことをなぜ並べるのかというように、面倒くさそうな彼女の前で彼は指を上げた。
「彼ら全員を解放し、地上2階の警察兵器庫を奪取して武装させると…」
「おぉ!」
そうしてまたエレベーターを地下3階に向けた二人。
プロフェッサーはドアが開くやいなや外に出て歩哨を撃とうとしたが、今回も彼女は彼を乱暴に押し出した。
「どいて!」
「?!」
歩哨に立っていたNPCたちが彼女を見抜いたようにびくびくして銃を取り出してみるが、
「お前たち、じょうどいいところにかかったな! この無頼な奴どもめ!」
涼しい機関銃の撃発音が力強く地下空間に響き渡り、あっという間に蜂の巣になった歩哨がぱたぱたと床に散らばる。
「あ~すっきりした! やっぱりこれがないといけない…!」
妙な快感を感じるように機関銃をぎゅっと抱いて喜んだ彼女は、すぐにプロフェッサーに首をかしげた。
「何やってる! 早くあのNPCたちを解放してあげないと!」
「…まったく。」
10分後。
辛うじてテロと疑われる市役所庁舎の建物崩壊事件を働き手NPCを動員してある程度安定させた警備隊員たちが本部に戻った時、彼らが向き合ったのは…
「自由だぁぁぁぁぁぁ!」
「この都市を私たちが受け付ける! 突撃ー!」
囚人たちが警備武器庫にいた警察棒と散弾銃、拳銃で武装したまま飛び出し、帰還したばかりの警備員たちを射殺していた。
彼らの後を追って出てきたグレイブが囚人行列と一緒に走ろうとすると、プロフェッサーは前を塞いで首を横に振った。
「なんで?一緒に暴れることにしたんじゃないの?」「一つ、はっきりさせておくべきことがある。」
「何を?」
プロフェッサーは囚人たちの歓声を背景に、落ち着いて胸の中からデバイスを取り出して画面を浮かせた。
画面には彼がシスター・グレイブを救出する依頼の手付金と依頼金が書かれていた。
「…よくもそんなぼったくり料金を…!」
「私のフランチャイズ、知ってるかな?」
「くっ…!」
「ただ、この金額に少し問題が生じた。」
彼女が聞き取れないように首をかしげば、
「私が受けた依頼はあくまで『救出作戦』。 しかし、あなたは今『都市に対するサボタージュ』という別途の依頼を要求している。」
「……!」
「つまり、あなたの要求を受け入れると別料金が発生する事になるが、いいんだな?」
彼女の表情が著しく歪んだ。
プロフェッサーは彼女にとって一番嫌いなタイプだった。
人の情など塵もなく、利害得失だけを問い詰める醜悪な俗物。
「あなた…それでも男なの?」
「性別は関係ない。 俺はあくまで契約の話をしているだけだ。」
「くぅ…!」
「あなたが最後まで意地を張るなら、俺できはやむを得ずこの依頼をあきらめることになるだろうが、それでもよければ。」
話を終えたプロフェッサーがデバイスを胸に入れた後、今度は通信デバイスを取り出した。
「…何をしようとしている。」
「依頼放棄についてマリア・チャイルドに通知、直後はファーザー・マスカレード側にあなたが脱獄したことを知らせなければならない。」
「…! お前、マジかよ?!」
「私が依頼をあきらめるということはそんな意味だ、 シスター・グレーブ 。すべてを原状復帰させて俺は帰る、 それだけだ。」
しばらく歯ぎしりしながらプロフェッサーをにらんでいた彼女は、結局決心したかのように、胸ぐらを握った手を緩め、彼を下ろした。
「…だって。」
「……?」
「分かったよ。この金虫やろ。 そんなお金など払えばいいんじゃないか…!」
「…ご利用ありがとう。」
「それで、いくらでいいの?」
プロフェッサーがデバイスに浮かべた金額を見た瞬間、彼女は拳を上げて彼のヘルメットを殴り飛ばした。
「この、この日強盗め!」
「…クム、痛いな。」
「あなたがそれでも人間なの?! どうしてこんなことができるの?!」
「別に。単純人物や建物に対する攻撃と違って、都市攻撃は相応するリスクと物資消耗が必然的だ。 当然、それに対する費用を請求するしかない。」
歯ぎしりしながらしばらく悩んだ彼女は、小さくため息をついてうなずいた。
「分かった、分かったよ。 ちぇっ…!ただ!一つははっきり言っておくよ。」
「……?」
「…私はあなたが本当に嫌い。」
冷めた顔で彼を見下ろして庇護感を宣言すると、プロフェッサーは一つ一つ席をはたいて立ち上がり、
「それは残念だ。」
「何で?」
「…俺はあなたのような人が好きだから。」
「…?!」
まるで告白のような発言にしばらく顔が熱くなった彼女が再び拳を振り回すと、プロフェッサーは慎重にそれを避けた。
「お、お、お前! 何度も変なことを言うな!」
「…別に変な意味はなかったが。」
「じゃ、いったい何の意味だ?」
「…ノーコメントにしておこう。」
「?!」
「今はそのほうが面白そうだから。」
「お前な?!」
再び彼の胸ぐらをつかもうとした彼女の顔の近くを銃弾がかすめて通り過ぎた。
ぎょっとした2人がそちらを眺めると、警備NPCがかろうじて戦線を構築したまま囚人たちの突進を阻んでいるのが見えた。
そして彼女を撃った側からは、おそらくファーザー・マスカレードの予備軍ユーザーの群れが駆けつけていた。
「くそが!シスター・グレイブが脱獄したじゃないか!?」
「あいつ!プロフェッサーだ! くそマリア·チャイルド奴らの仕業なのか?!」
「撃て!こうなったからには射殺する!」
走ってくるユーザーたちを見ながら、シスターの笑みが濃くなった。
プロフェッサーはため息をつきながら彼女に低く言った.
「…30分だ。 それ以上はドライバーが待ってくれないと思った方がいい。」
「…了解。」
射撃姿勢をとった彼女が撃発すると同時に、プロフェッサーは軽くジャンプして警備本部の看板の後ろの踏み台に上がって狙撃銃を取り出した。
「マスカレードのやろども目! 私は今日からマリア・チャイルドに行く! 蜂の巣になりたくなかったら、頭を床にこすっておとなしくしろ!」
「この恩知らずのくそ女が! 天涯孤児であるあなたを私たちが今までどう育ててあげたのに! それを裏切るつもりか!」
「あなたたちは私を利用するつもりだったじゃない!」
「よくも!お前のような裏切り者を果たしてマリア・チャイルドがどこまで信じてくれるか楽しみだね! どうせ行けないけどな!」
先頭で彼女を非難していたマスカレードのユーザーを彼女が歯を食いしばって機関銃で殴りつけると、彼が使ったシールドがまるで楽器を演奏するように殴られて溶けて消えた。
驚いた彼がシールドモジュールの作動ボタンを叩いてみたが、すぐに蜂の巣になって消えた。
「さあ、次!」
「おい、これはまずいぞ! 私たちでは手に負えない!」
公式戦に参加するレベルじゃないユーザーでは、公式戦ネームドである彼女を防ぐことができなかった。
さらに、彼女の後ろには公式戦ネームドユーザーさえ相手にすることを嫌う狙撃手であるプロフェッサーがいた。
状況がそんなに簡単に終えられそうだった瞬間、あるマスカレードのユーザーが前に歩いてきた。
「シスター・グレーブ…!」
「…あんたは?!」
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