第4話 シスター·ヘビーアームズ1

「ほう。」

「轟龍会の鯨岡さんだね。 轟龍会内で3本の指の中に入る職人ユーザーの方だ。」

「なるほど。」

「しかし、ゲーム内にない装備をこのような完成度で作ったということは…」

「?」

「これ、かなり高そうだけど?」


キューティクルの発言にプロフェッサーはくすくす笑った。

彼女がどうしてそんなに執拗に飛びついたのか分かる気がした。

一見してもゲーム内にない職業と装備を運用するユーザー。

当然のことながら、すべての装備がハンドメイド。

そして、それはすなわちすべての装備が高いということだ。


「今度会ったら必ず殺して何が落ちるのか見なければならないな。」

「えっ、プロフェッサー?」

「何で?」

「それはちょっとひどいんじゃないかな?」

「私が大事にしていたヘルメットを壊した借りは返さなきゃ。」


*


10日が過ぎた。

予想通り、公式戦シーズンが開かれて始まった黒虎連盟と轟龍会の戦闘で勝機をつかんだのは黒虎連盟側だった。

轟龍会が弱いわけではなかったが、黒虎連盟の柔軟な戦術に押され、これといった戦果を上げられない様相だった。


シーズン突入直前に外部の人材を動員して一般サーバーを騒がせることで、轟龍会を困惑させたのも大きな効果を出したようだ。


ダークゲーマーが主軸なので請負業者を使うのに躊躇しない黒虎連盟とは異なり、轟龍会は閉鎖的なところがあり、自分たちの人員ですべてを解決しようとする傾向が強かった。


結局、黒虎連盟の外注人材を通じた襲撃に自分たちの公式戦兵力を一部引き出して対処し、その結果力争いから押し出されたのだ。


公式戦中継を冷ややかに見ていたプロフェッサーがチャンネルを回した瞬間、呼び鈴が鳴った。

依頼者が来たようだった。


今回依頼に来た人物は、旧イタリアを中心としたカトリック教徒が主に集まったマリア·チャイルドの中堅幹部だった。

たまに簡単な仕事を任せに来る分、面識のある間柄。


キューティクルにお茶を出すように頼んだ後、向かい合って座って依頼について話を交わした。


「意外ですね。公式戦シーズン中に依頼をたのみにいらっしゃるなんて。」


普通の勢力たちは現在公式戦に没頭しているはずだった。

公式戦には参加しないことを原則としているプロフェッサーにとって、この時期はいつも不景気だった。

しかし、今シーズンはなぜかしきりに依頼が入ってくる。


「ちょっと困ったことがあったんだ。」


依頼はユーザーの救出だった。

宗教人が中心の勢力らしく周辺勢力と概して友好的なマリア·チャイルドだが、まれに敵対視する勢力があった。


その一つが旧世界の犯罪組織の末裔たちが中心となって結成したマフィアクラン連合の『クリムゾン·フード』。


彼ら傘下の中堅勢力である『ファーザー·マスカレード』というところのネームドユーザーがある理由でマリアチャイルドに転向しようとしていたところ、これに気づいたファーザーマスカレード側で彼女を拘束した。


救出したかったが、マリア·チャイルドも公式戦に参加するために人員を大挙動員したため、チームを送る余力がなかった。


結局、成功率100%を掲げているプロフェッサーに依頼を任せに来たのだ。


「お金なら出すから心配しないでくれ。 念のためゲットアウェイ·ドライバーも雇っておいたし。」

「それは心配していません。」


プロフェッサーは基本的に宗教人が好きではない方だが、マリア·チャイルドは少なくとも信頼関係を軽く考える人々ではないことはよく知っていた。

ただ、相手がワースト·フィールド屈指の超巨大勢力の一つであるクリムゾン·フードの傘下集団というのが気になるだけ。


成功率100%とはいえ、彼も単独で行動するフリーランサー請負業者に過ぎない。巨大勢力が決心して彼を討伐しようと全力を投入すれば、彼としても仕方がない。

そのため公式戦には出ないということでもあったし。


「購入なら少し高いと思います。 それでも大丈夫ですか?」

「…あまり高くなければ…」


困ったように目を丸くしながらも決して謀略は飾らない正直な目つき。

プロフェッサーはそのような依頼者を嫌がらない。


「一応、詳しい事項を確認します。」

「ここにあるね。」


彼が整理してきたデータが入ったデバイスを渡した。

プロフェッサーはそれに触れてホログラムに上がってくる内容にざっと目を通した。


シスター·グレーブ

特別に製作された防弾材質の修道女服を着て、その内側にはほとんど全身を弾帯でぐるぐる巻き、重機関銃を両手に持って撃つ豪快な女装部。


先日まではファーザー·マスカレード側のネームド·ユーザーとして公式戦でも活躍したことがある、それなりに有名な女性ユーザーだった。


「なるほど、これくらいの人物ならファーザー·マスカレード側で捕まえる価値がありますね。」

「そうだ。やっと彼女を説得してこちらに来るために、今回の公式戦シーズンに出ないどごろまでは良かったけど…」

「そのおかげでマスカレード側で気づいたんですね。」

「…….」


しばらく考えていたプロフェッサーは、すぐにうなずいて、デバイスに金額を書いて彼に見せた。

それを見た幹部は、乾いた唾を飲み込んで覚悟を固めなければならなかった。


予想より少し高い。

やはり独自相場を誇る男ということだろうか。


「…あ。今の金額は離脱を自力でした時の費用です。」

「あ?」


ふとゲット·アウェイドライバーの話が浮かんだプロフェッサーが気を変えたのか、すぐに金額を少し下げて書いた。

それを見た幹部は内心胸をなでおろしてプロフェッサーが差し出した手を取り合った。


「よろしくね!」

「心配しないでください。」


彼が帰った直後、プロフェッサーはすぐに簡単に荷造りを始めた.

依頼人はできるだけ迅速な救出を望むと言ったので、今すぐ行って下見をするつもりだった。


簡単なバッグを持って彼女が捕まえているファーザー·マスカレードの町に移動した.

各都市ごとに鉄道とバス路線が通っているため、移動自体は難しくなかった。


「ここか。」


バスから降りて見えた風景を確認したプロフェッサーは確信した。

この都市はファーザー·マスカレードの兵站都市、つまり公式戦参加などのためのユーザーたちが泊まるための都市だ。


公式戦シーズンでなかったら、この救出作戦はプロフェッサー一人では不可能だったはずだ。

見えるユーザーたちとは倉庫の建物と見えるところで書類を探している、公式戦ユーザーたちに送る物を管理する生産職ユーザーたちほどだった。


残りは街の治安を担当するNPC警備と資源基地などで働く労働者NPCだけだ。

これならプロフェッサー単独でも救出作戦は十分可能に見えた。

もちろん万が一というものがあるので、ユーザーがログアウトしている午前の時間帯を狙わなければなりませんが。


すぐに彼女が捕まっているという警備会社に向かった。

ゲーム世界観上、政府機関がなく、大企業が管理するだけに、各都市の治安を管理するのも3つのNPC警備会社だった。


各社は大きな特色があるわけではなかったが、制服が異なり、使用する装備も少しずつ差が出た。

ファーザー・マスカレードが雇ったのは…


「なるほど。よく似合うね。」


プロフェッサーの視界に入った看板。

それは設定上、本来宇宙開拓初期無慈悲な傭兵会社として知られた『ブロラー・ブルーズ』の看板だった。


3社の中でも特に高圧的なNPCが多く、銃器の使用を躊躇しないことで有名だった。

同時に、賄賂などに最も簡単に渡される人たちでもあったし。


「おい!そこ、あんた! 何しに来たの? 自首か?」


紛争地域には通常のサーバーとは異なる様々な暗黙のルールが存在した。

それをよく知らない一般ユーザーはしばしばその地域を掌握した勢力とトラブルが発生する事もあった。

普通は勢力のユーザーに捕まって略奪され射殺されるのが一般的だが…


どうにか該当地域都市の警備会社に自首することになれば、NPCたちに捕まり監獄に収監されることに終わった。

それさえ嫌なら、NPC警備に罰金を払って仕事をしなかったことにすることもできた。


「いいえ、久しぶりに旅行で寄ったので、ちょっと見て回っているところです。」

「ふん、自首するのでなければこんなところでうろうろしない事だ。 パッと捕まえる前に。」


ブロラー・ブルーズ特有の、着た人の太い腕を際立たせる破れたノースリーブ警備服を着たまま拳を握って振って見せる警備。


プロフェッサーは知っているかのように手を振りながらゆっくりと後ずさりしながら警察署施設を少しでも多くの目で見た。


「しょうがない…あそこは後で別に手を使わなければならないようだ。」


他でもなく、ブローラー・ブルーズの建物なら大きな問題はなかった。

きっとあの警備本部の建物の内部構造もブラック・マーケットのどこかには転がっているはずだから。


問題は、あの中からうとうとする警備NPCを引き出す方法だった。


「えーと…」


数日間の踏査を終えたプロフェッサーは作業を開始した。

ほとんどのユーザーが休んでいる、現実時間で夜明け頃に接続して都市に進入した。


一番最初に彼の足取りが向いたところは都市で一番大きく建てられた市庁庁舎。

NPCの視線を避けながら庁舎内部のあちこちに持ってきたカバンに入った爆発物を付着しておいた。


平凡な歩き方で庁舎から抜け出したプロフェッサーは警備隊本部の前に立った。


「始めるか。」


カチッと右手に包んで握ったスイッチを押すとだん、盛大な爆発音とともに庁舎の建物が豪快に崩れ始めた。


破壊されるほどではないが、地軸を集中的に爆破させたため、建物が丸ごと傾き、NPCの注意を引くことができるだろう。


「えっ、どうしたの?」

「市、市役所の建物が爆発した!」

「くそたれ!テロリストか!? 今すぐ都市の出入口を封鎖する! 早く動け!」


定警備本部にいた警備隊NPCたちの表情が険悪になり、どっと押し寄せて都市を安定させ被害を復旧するために四方に散らばっていた。


プロフェッサーは混乱に乗じて本部ビル内部のトイレに入った。

中であらかじめ用意しておいた、警備隊のユニフォームに着替えてヘルメットを脱いだ。


「ふぅ…」


顔に変装用人造肌を被せた後、装備をきちんと整理してトイレから出た。

ちょうどバリケートを持って慌ただしく走っていた、比較的新米と見られるNPCを発見した彼が平然と手を挙げて新米警備隊員を呼び止めた。


「ど、どうしたつ? 今急いでいるので短くお願いしますよ!」

「大したことではなく、ユーザーが収監された監獄警備で今回派遣されてきたが、ここは初めてなので位置が…」


平然と自分がちょうど他のところから移動してきた警備隊員のように演技すれば、新人は首をすすりながら簡単に道を教えてくれる。


「じゃ、私はこれで! 歩哨、頑張ってくださいつ!”

「ああ、君も頑張れ。」

そのようにバリケート装備を持って飛び出すのをしばらく眺めていた彼は、すぐに素早く地下4階に向かった。


ユーザーを閉じ込める専用収監棟は本部最下層の地下4階に位置していた。

エレベーターに乗って到着してみると、収監洞に向かう鉄門の前に2人の歩哨が立っているのが見えた。


「くそが、外で何が起こっているんだ?」

「公式戦シーズンに抗戦だなんて、どこの奴らか…」


外で爆発した爆発音がここまで鳴ったのか、不安そうな2人の歩哨だった。


「よう。」


変装したプロフェッサーが平然と近づいて手を振ると、ぎょっとした彼らが拳銃を持ってユニフォームを見てすぐに手を下ろす。


「何だ?君だけか?」

「そうなったよ。 外で大騒ぎになったから。」

「どうした?外で何が起きたんだ?」

「テロだ。市役所の建物が攻撃されたらしい。」


平然と交代を装った対話を続けると、両NPCは不審に思いながらも守っていた席を少しずつ離れて歩き始めた。


- つつく-

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