第1話 赤い盾と青い槍

プロフェッサーが凝視していた建物の中。

内部の心処に設置された300個の画面が壁を埋め尽くした広い会議室の真ん中の床から光が上がってきた。


明かりはホログラムを投影し、現れたのは高級なスーツを着た壮年の男性だった。


[皆さん、着席してください。]


ホログラムの宣言に壁に囲まれた各画面が一つずつ点灯し、多くの人の顔を浮かべ始めた。

5分ほど経つと、すべてのモニターに明かりがつき、ホログラムの男は体を一周して皆が参加したことを確認した後に口を開いた。


[…会議を始めます]


彼が言及した会議は、他でもない赤い盾理事会が定期的に開催する会議だった。

もちろん、今日は定期開催日ではなかったが、緊急の案件が生じて臨時会議を招集したのであった。


[例の件か。]


大きな声を持つ中年男性の声が始まると、


[本当に、だから僕がこの前の事件の時も 言ったじゃないですか?そこの社長を更迭させようと。]


鋭い女性の声が直ちに責任者の処罰を要求する声を出した。


それを皮切りに300人の役員が各自自分の意見を吐き出し始め、しばらく彼らが騒ぐように放っておいたホログラムの男性はすぐに咳払いをして彼らを沈黙させた。


[くふむ、とりあえず、前回の事件の時も話し合ったように、開発会社の社長や開発チームをむやみに叩きつけるのは論外にしておきましょうか?]

[どうしてですか?その社長のやつ、 できることもない顔駅だということを 皆さんもしているはず!]


鋭い音声の女性が迫るように反問すると、再び役員たちがひそひそ話し始めた。


[だから僕が言ったじゃないですか! あの「AIスピア」は危ないって! せいぜい私たちが覆ってしまった戦争の時代の郷愁を感じさせるゲームだなんて!]


少し軽薄な声の男性が糾弾すると、一部の役員が彼に同調し、ゲームのサービス中断と該当ゲームの中枢である「AIスピア」という機構を廃棄することを叫び始めた。

しかし、静かに聞いていた太い声の男性が、そんな彼らを制止した。


[君たちの意味は分かった。 そこでだ、そのゲームが今世界中で稼いでいる莫大な量の収益に代わる手段を…。君たちは持っているということだろう?]


確かに問題のゲームはサービス初期から原因不明の大小の事故を起こしてきたゲームだった。

さらに、ゲームに使われた「AIスピア」は、該当開発会社が開発したものでもなかった。


彼らはただ理事会から大金を払って該当装備を購入し、その中に開発され内蔵されていたゲームをサービスしているだけだった。

さらに、該当スピア内部プログラムに100%アクセスすることもできず、統制が可能なのは事実上30%程度であることを彼らも知っていた。


それにもかかわらず、彼らは中途半端にそのゲームを制裁することができなかった。

すでにサービスを開始して5年。

そのゲームは世界的なヒット作となり、莫大な資金を彼らに提供する黄金の卵を産むガチョウになっていた。


[その、それはまだ検討中ですが…。それでも、そのゲームは危険です! もう何人が死んだのか皆さんご存知じゃないですか!]

[確かに。ゲームが人を3桁も殺すというのは問題がある。]


サービス5年間、ゲームで死亡したユーザーだけでも600人余り。

それもありふれた人ではなく、大部分が理事会で大きくても小さくても、どんな肩書きを受け持っていた人たちが主に死亡した。


[あのひどいスピアの出所調査も ちゃんとできてないじゃないですか! 廃棄しなければならないんですって!]

[…出典なら私の方で調査を終えでいる。 完全ではないが…。]

[え?調べておいたんですか?]


一瞬役員たちが息を殺す。

例のスピアの出所については、この5年間で3回も取締役会が調査を行った。


それもそのはず、毎年100人余りが死んでいくゲームなので、裏調査をしないわけにはいかなかったのだ。

だが毎回まともな結果を出せなかったが、太い声の役員がついに見つけた模様。

[…開発者の中にキム白金博士が関わっているのは確認した。]


太い声が吐いた名前に役員たちから乾いた唾を飲み込む音が聞こえてきた。

決して二度と聞くことがなさそうだった名前が飛び出した。


金白金博士

通称、ドクタープラチナキム。

20代中後半の若さで多様な学問で博士、修士号を取り、第3次大戦が終わった直後、人類文明の発展に一線を画した男。

そして…


[知っているだろうが、彼は「青い槍」内で核心集団だった「ピクカー」の一人だった。]

[…議長!もう一度要請します。 そのスピアはこの上なく危険な物であることがこれで確認されました。 今すぐ「ワーストフィールド」のサービス終了を通知し、廃棄手続きを進めなければなりません!]


軽薄な役員が必死の声で案件を提示すると、彼に同調していた人員たちが叫び、相槌を打つ。


[うん…]


難色を示していた議長、ホログラムの男が他の役員たちを見回した。


[それで、現在あの…プラチナ博士はどうなったのか?]

[…5年半前に父と共に死亡した。]


太い声の断言に軽薄な役員が立ち止まるのが画面で明らかになった。


[と、とはいえ…その作者の遺作だったりすると危険だと判断するのが正しいです。]

[今はそうだろう。 しかし同時にワーストフィールドとそのスピアがもたらす利点が大きいのも事実だ。]


再びざわめく役員たちを再び咳払いで止めた議長が口を開いた。


[じゃあ、こうするのはどうか。]

[何のつもりですか。]

[まず開発会社社長を問責しながら、例のスピアを統制可能な状態にするために理事会側で有能なハッカーを雇用して開発会社に投入するのだ。]


議長の意思に気づいた役員たちの表情が明るくなる。

いくら青い槍から有名な天才学者の作品とはいえ、せいぜい機械の塊。

有能なハッカーを投入してセキュリティを突破し、統制可能にしてしまえば、すべてが確実になるはずだ。


[それが一番いい方法みたいだね。 どんなに危険とはいえ、現在のワーストフィールドは世界的なトレンドだ。 そこから来る経済的効果をあきらめるのは愚かな選択だ。]

[そうです。そのスピアをハッキングして私たちの手に入れるだけで、あの世で白金博士が血の涙を流すはずです。]


互いに同意し、卑劣な笑みを浮かべながら満足していた彼らは、すぐに別の議題を上げ始めた。


[じゃあ、通常のテーマに移ろう。 まずはヨーロッパ支部。

[はい。ヨーロッパ支部が過去に市民の通信を検閲したことによると….]


*


午前11時。

ゲーム内でプロフェッサーの拠点であり、レスポンの場所である人里離れたところに山を背にして建てられた3階の邸宅にあらかじめ先約をしておいた依頼人が訪ねてきていた。


ベアード·チェ。

銃剣を装着した突撃小銃を持って突撃戦術を得意とする、韓国系ダークゲーマーユーザーを中心に結成された勢力である黒虎連盟の幹部だった。

「これこれ、煩わしくしてすまないなあ。」

「別に、お客様の要望にはなるべく応じる主義だ。」


機械音混じりの特有の音声で機械的な答えを出すプロフェッサーを見て、彼は淡い笑みを浮かべた。


コードネームプロフェッサー。

フリーランス請負業者のうち5本の指に入る実力者であり、その実力を自慢するかのように、すべての依頼達成率100%をフランチャイズに掲げている傲慢な男。


「今回のことはちょっと大変なことになると思うけど、スケジュールが大丈夫かどうかから確認しないとね。”

「…期限は?」

「来週の火曜日から4日間。」

「…….」


プロフェッサーは知っていたかのようにうなずいた。


「もちろん君の相場を考慮して下した決定だから、お金のことは心配しないで。」

「君たちならそんな心配はない。」


ダークゲーマー集団である黒虎連盟は、内外的にお金がかかった取引に対しては徹底することで有名だった。

もちろん、それだけに駆け引きが可能な取引の場合、飛びついて駆け引きをした末に最低価格を勝ち取ることでも有名だった。


しかし、プロフェッサーは請負業者の中でも特に30%ほど高い独自相場を維持し、絶対に取り引きしないことで有名だった。

それでも依頼者が時々訪れる理由は、他でもなく彼のフランチャイズのせいだった。

いったん契約した依頼に対しては、本当に手段を選ばずにやり遂げるのが彼のやり方だった。


「ところで、依頼内容は?」

「…轟龍会の奴らとの争いだ。」

「…….」


プロフェッサーはしばらく首をかしげた後、すぐにうなずいた。


現在は公式戦シーズン。

黒虎連盟のような巨大勢力は、誰もが実力のあるユーザーを集めて公式戦サーバーに投入するのに忙しい状況だ。


「要は実力者が足りないから後押ししてくれ、か。」

「そういうこと。」


さすが黒虎連盟らしいやり方だった。

ダークゲーマーらしく公式戦も公式戦だが、一般サーバーでの攻撃も絶対に休まなかった。


「あいつらが占領している目玉鉱山がある。”

「そこを襲撃するのか?」

「そうだ、そしてそこにあった採掘を終えたばかりの原石と鋳塊を全部奪って持って帰るんだ。」

「大胆だな。」


黒虎連盟が巨大勢力ではあったが、彼らが現在敵対視している轟龍会も決して無視できる戦力ではなかった。

むしろ経済力や普及の面では黒虎連盟よりもしっかりしていると評価される巨大勢力。


そんなところをいくら公式戦シーズンだとしても、堂々と打ち明ける大胆な作戦を打ち出した状況だ。


「襲撃の日には鉱山にいる守備員たちを狙撃して振るだけでいい。 その後は私たちの貨物車に乗って、私たちの区域まで逃げればいい仕事だ。」

「…かなり遠いが。」


ベアード·チェが見せてくれるホログラム地図を凝視していたプロフェッサーの声が少し低くなった。


「残念ながら現在、我々の勢力圏と轟龍会は直接接していないからだ。 それでも途中に挟まれたドルイドユニオンの友達はすでに買収しておいたから別に問題はないと思う。」

「そしてユニオンは轟龍会が追撃してきて戦うことについても黙認してくれるのか?」


プロフェッサーの指摘にチェの表情が少ししわくちゃになった。


「まあ、そうだね。 いつものことじゃないか。 ユニオンの友達はよほどのことでは他人の紛争に巻き込まない。 今回、道路を使わせてくれるのにもお金がげっこかがったんだし。」

「そんな状況で私を雇うということか。」


いくら巨大勢力の資本が堅固だとしても、この程度の投資はほとんど賭博だ。

公式戦に莫大な資金と実力のあるユーザーを大挙投入しただけでは足りず、ドルイドユニオンに相当な賄賂を与え、通常請負業者より高価なプロフェッサーを4日も送って使うなんて。


「ハハハハ!もちろんかなりの賭けだよ。 でもさ…今度、轟龍会のやつらの鼻筋を折っておけば、俺たちに大きな件数が入ってくるだろうから。」


公式戦

それは単にゲーム内だけの戦いではなかった。

現実世界での利権衝突などを解決する手段として公式戦が一種の仮想戦争として利用されていた。


各支部の政府機構と企業はゲーム内の巨大勢力にスポンサーを志願するのはもちろん、自分たちの社員をダークゲーマーとして投入していた。

そして公式戦を勝利することで支部の利権を獲得し、地域住民の支持を得ることができた。


「そうか。それなら俺も気楽に働けるだろう。」

「よろしく!」


握手を交わした後、依頼主は急いで道を出た。

彼も公式戦参戦が確定したネームドユーザーだったためだった。


プロフェッサーは邸宅を出る彼を窓際で見守っていたが、すぐホログラムで表示されている地図に撮られた点に注目した。

彼が襲撃すべき鉱山の位置を。


- 1話 END -

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