序章・第1話 リアルな世界にさようなら

 カーテンを開けるとそこには眩しい太陽といつも見慣れている風景が今日もいつも通りあった。ああなんて退屈なんだろうと思いながら俺は洗面台へと向かった。そしていつも通り顔を洗い歯を磨きまた自分の部屋に戻った。そのあとにすることはクローゼットから制服を取り出し着替えをすることだ。俺はいつも思う。着心地があまり良くないってことに…だがそれも今日で終わりだ。今日最後の登校なのだから。着替えを済ませたあとは台所に置いてあるクリームパンを手に取り、最後の高校生活をこの俺、浅凪木一希は送りに玄関の扉を開けるのだった。

「いってきます…」



「はぁ、流石に徹夜はまずかったかなぁ。」

 と俺はため息混じりに一言はきながらクリームパンを食べている。昨日はオンラインゲームでのイベントで長時間にわたる周回をしたせいで今もすごく眠気に襲われている。それのせいか食欲があまりない。なんとか無理矢理クリームパンを口に押し込み食事を済ませた。これからはゲームは程々にした方がいいと肝に銘じておくとしよう。

「よっ、一希!」

 と背後から声が聞こえた。俺が高校生活の中で一番聞いた声だ。俺は後ろを振り返りそいつに挨拶を返した。

「おはよう」

 そこにいたのは深海雅夜だ。雅は俺にとって数少ない友達と言える存在だけど俺と違って運動神経に恵まれていて中学高校と共にバスケ部で先陣を切るほどの実力も兼ね備えている。言ってしまえばバスケバカだ。それに昔から人力もあるからクラスの人気者でもある。それに比べて俺はその真逆だ。運動神経も良くなければクラスでの交流も少ない。いつも窓際で一人読書かソシャゲで時間を潰している。そんな俺に唯一得意なことがあるとすればオンラインゲームでランカーになってることだけだろう。そんなことを頭の中で思い返していると雅が話しかけてきた。

「いや〜、しっかしまさかもう卒業するとはなぁ。なんかおまえと出会ったときが懐かしく感じるぜ」

「懐かしく感じるって、出会ったの中学の頃からなんだから懐かしく感じて当然だろ。でも、時間が経つのは早く感じたかな」

 少し胸がチクッとした。友達に対して嘘をつくのは心が痛いものだ。

「あっ!そういや一希の卒業したあとの進路聞いてなかったな。やっぱり昔からゲームにたいして熱心だったからゲームクリエイターを目指してるとか?」

「んー。ゲームクリエイターは目指してないかな。」

「えっ、あんなにゲームに一生懸命のオマエがなんで!?」

「そりゃあゲームは好きだけど作るまではいかないな」

 そうやって少し笑いながら言葉を吐いた。確かに俺はゲームが好きだ。子どもの頃はゲームを作ることも夢に見てた。だけど昔自由研究で作ったボードゲームの出来は最悪であったため、自分には創作の才能がないと分かり、夢を諦めてしまった。それでもゲームを好きで居続けられたのは唯一雅だけが褒めてくれたからだ。だから俺にとって雅という男は友達でありながら憧れの存在でもあるのだ。

「まぁ、オマエが決めることだから俺もこれ以上は何も言うつもりはねぇけどよ。」

「でも、、、後悔だけはするなよ。」

「うん。後悔はしてないから大丈夫だよ。」

 いつも通りの会話をしているといつも通り学校についていた。ここに来るのも最後かぁと思うと少しはしんみりとした気持ちもある。全く楽しくなかったっていうことはない。むしろそれなりには楽しめた方だ。

「もう着いちまったか。人と喋ってると時間って経つのが早いなぁ特に一希と喋ってる時が一番早いわ。」

「そりゃどうも。」と言い、下足まできたあと雅は体育館の方に「後輩に顔見せてくるわ」と言って俺に先に教室に行ってくれと言ったあとそのまま去って行った。そのまま俺は教室まで向かい最後の扉を開いた。

 

 卒業式も無事に終わり自由解散だけだ。特に感動もなく意外とあっさりとしていて青春モノの漫画やラノベのような展開もなく呆気なく終わった。特に残る理由もない俺は早々に学校から出て行った。校門の前には雅がいた。

「よっ、おつかれさん。」

「おつかれ。後輩たちに別れの挨拶は済んだのか?」

「まぁな。てか、卒業しても夏休みとかOBで会いに来るしな。」

「そういや、この後クラスの連中と打ち上げするけどよ一希はどうすんだ?」

 俺のこと分かってるくせにホントそういうのはずるいなぁ。

「いや、遠慮しとく。俺がいてもほら、あれだろ?」

「うん、知ってた。じゃあしばらくはお別れだな。」

「そうなるな。じゃあまたな」

「ああ、またな」

そう言って雅と別れた。

雅と別れたあと俺はふと思い出の河川敷に行きたいと思い再び足を歩み始めた。

河川敷まで向かっている間、俺は高校生活を思い返していた…

沢山の出来事だった…

俺にとって高校生活はそこまで特に思い出という思い出はない。ほぼ教室の隅っこでぼーっとしているのがほとんどだし、動き出すときはいつも隣に雅がいた。雅の存在は俺にとって本当に数少ない憧れに近いモノだ…

俺は間違いなく雅に依存してしまっている。中学のときのあの出来事から…

いつか別れがくる覚悟はしていた…

そしてこれからは俺自身が頑張らないといけないという現実にその瞬間、引き戻された。

何故だろう…今になって寂しく感じてき始めた。

そうこう言ってる内に河川敷についたとりあえず橋の上で空でも眺めていよう。

ふと横を見てみるとそこには毛並みが綺麗な白い猫がいた…

「なんだ、おまえも空を眺めているのかぁ…

居心地いいよな…」

ってなに言ってんだか…

寂しさのあまりに馬鹿な行動をした感じ、というより行動をした。

「流石に帰るか、帰ってゲームだゲーム!」

帰ろうと橋をあとにし俺は家路に向かって歩いていった…

なんとなく後ろを振り向いてみると猫が橋から落ちる瞬間が見えた。

「っ!」

気がつけば俺は橋の上から飛んでいた…

ただ落ちていく猫を助けるために俺の身体は勝手に動いていた。考える暇もなく俺は考えなしで橋の上から飛び込んでいた…

そしてそのまま川に猫と一緒にダイブした…

川に落ちてふと目を開けると一緒に落ちた猫が光っていたのだ…

そしてそのまま川の中で俺の意識はその光と共に途切れていった…

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