第21話 誕生日

男子の部屋には、クラスの半分ほどの生徒が集まっていた。

「えー男子部屋広〜!」

「何言ってんだよ、男子は4班合同部屋だぜ?女子は2班ずつなのにさー、差別差別ー!」

(あぁ、だから羽生くんもいるのか…)

クラスメイトの会話を聞きながら、羽生は自分の意思ではなく、たまたま部屋がここだったからいるだけだ…と察した。

すでに何人かの女子が羽生の周りに集まっていて、葉月は近づけそうにない。


「で、集まって何すんの?夏だし、怪談?」

クラスメイトが言った。

(…え、だな…)

「ネタがないから無理。」

「やっぱトランプじゃない?」

「え〜みんなで動画撮ろうよ!避暑キャンダンス!」

「なにそれ〜」

羽生の方を見ると、みんなの提案にダルそうな顔をしている。

(羽生くんのダンスとか見てみたいけど…)

葉月は心の中で笑った。


「あれ〜?おっかしいなー…」

「なんだよ真田さなだー早く出せよー!」

(あ…)

バスでお酒の話をしていた男子たちだ。

「なんか、無いんだけど。」

「無い?」

「酒。ここに隠しといたんだけど…」

真田は押し入れの下段を指した。

「無いわけないだろー」

「でも無いんだよ。」

「持ってくるの忘れたんじゃねーの?」

真田はせないが、自信もないという表情だ。

「何何〜?どうしたの?」

茅乃が二人に話しかけた。

「真田がここに酒置いといたのに、無いって言ってんの。」

「えー!お酒持ち込んだの?何ー?」

「ビールとかテキーラとか」

「え!それ今飲もうとしたの?女子にテキーラいかせようとしてたってことー?ちょっと引くんですけど〜」

「え!」

(さすが茅乃…遠慮がない…)

「いや、勘違いかも、テキーラは…いや、酒なんて持ってきてなかったかも…」

真田は茅乃の言葉に狼狽うろたえながら言った。

酒があったのか無かったのか、結局曖昧になったが、葉月はホッとした。


———ブー…ッ

葉月のポケットでスマホが鳴った。LIMEのメッセージだ。


差出人の表示を見て、葉月の心臓が跳ねた。


【羽生 晃一】


(え、なんで今…?)

葉月はメッセージを開いた。

【ちょっと出れない?】

“出れる”と返信したくても、羽生とLIMEのやりとりをしているのがバレてしまいそうでなかなか返せない。

【荻田、5分くらいしたら外出て自販機のとこにいて】

【俺もその5分後くらいに行く】

(………)

葉月は返信せずに、5分間部屋の時計をジッと見つめていた。


5分後

「あ、私、別クラの子に呼び出されたからちょっと出てくる…」

葉月はスマホを見ながら言った。

(自販機のとこ…)

ドリンクコーナーで、葉月は落ち着かない気持ちで羽生を待っていた。

「お待たせ」

———ブー…ッ

羽生が来るのとほぼ同時に、茅乃からLIMEが来た。

“がんばって”と書かれたクマのスタンプだけが送られてきた。

葉月と羽生がタイミングを合わせて部屋を出たことに気づいたようだ。

(がんばってって…何を…)

「ちょっと外出ようか。」

スマホを見ながらあれこれ考えていたが、羽生に言われてハッとした。

「あー…でも先生が見回ってるかも…」

葉月が言った。

「多分大丈夫。今頃酒盛り中だから。」

「え?なんでわかるの?そんなこと…」

「テキーラ飲まされなくて良かったね。」

「テキーラ…って、え?ひょっとして…羽生くんが何かしたの?」

羽生が含みのある笑いを見せた。

「とりあえず外出よう。」


葉月と羽生は建物を出ると、散歩するように周辺を歩いた。

「え!じゃあ鈴Pに言っちゃったの?」

羽生は夕飯の調理の時間に押し入れに隠された酒を持ち出し、葉月が浴場に行こうと迷子になっていた時間に鈴木先生の部屋に酒を持って行ったらしい。

「酒持ち込んでるヤツがいるけど、飲んでないから多目に見てね…って言いに行っただけだけど。」

「それで多目に見てくれるもんなの?」

「だから、酒と一緒につまみも渡して、良かったら先生方で呑んでくださいって言っといた。」

「信じらんない…先生を買収したってこと!?」

「買収されるほうが悪いだろ。つーか、鈴木だってわざわざこんな行事で揉め事起こしたくないんだよ。」

「カレーと一緒にコソコソなんか作ってると思ったら…」

驚きと感心と呆れが一緒にやってきた。

(先生にお酒持っていくってイチバチかじゃん…何考えてんの…)


「だいたい、なんで羽生くんがそんなこと…スルーしそうなのに…」

「普段だったらほっとくけど、荻田の誕生日じゃん。揉め事起きるのも、それに利用されるのも嫌でしょ?」

「え…もしかしてバスのとき……聞いてたの…?」

羽生はまた、含みのある顔で笑った。

葉月の鼓動がトクントクンと早くなる。

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