第16話 メガネ屋さん

「ごちそうさまでした。食器洗うよ。」

パスタを食べ終わると、葉月は皿を運ぼうとした。

「いや、大丈夫。置いといて。」

「俺が洗う〜!」

侑輔が葉月と羽生の皿を下げ、流し台に持って行った。

「そこまで仕事って教えてる。」

「偉すぎる…」

葉月は感心した。

「あ、お金…」

「それも大丈夫。あくまで侑輔の練習だから。感想が代金。」


「良かった。腫れたりはしてないな。」

羽生に至近距離で顔を見られて、葉月は思わずドキッとした。

「荻田この後どうすんの?」

「え」

「俺、今日はランチまでで仕事終わってヒマなんだけど。メガネでも買いに行く?」

「え…!」

(なんかそれって、デートみたい…私、さっき彼氏と揉めたばっかりなんだけど…)

「なんか用事ある?」

「え、な、ない…」

「じゃあ決まり。」

「俺も行きたい!」

「侑輔は宿題いっぱいあるんだろ?」

そう言われて、侑輔はしぶしぶ諦めた。

「あ!葉月ちゃん!」

「え?何?」

「俺の料理は世界一うまいけど、晃一の料理は宇宙一うまいよ。」

「なんの話だよ。父さんが聞いたら泣くよ。」

羽生は苦笑いした。

「じゃ、行こっか。」

「う、うん…」


「このメガネ、どこのメガネ屋で買ったの?」

「新宿…」

「買ったばっかなら保証きくかもしれないから、同じ店に行った方がいいんじゃない?」

「うん。そうする。」

(電車とか乗ったらますますデートっぽいんだけど…)

二人は電車に乗ると、ドアのそばに立った。

(なんかめちゃくちゃ女子の視線を感じる…羽生 晃一の私服の破壊力すごいな…)

「あの…ユウスケくん、本当にかわいいね。」

「だろ?って言いたいけど、あいつの愛想の良さって半端ないから今から将来が心配。」

羽生が困ったように言うので、葉月は思わず笑ってしまった。

「料理もすごすぎ。…けど、羽生くんの方が上手いって言ってたね。」

「今だけな。侑輔の方が俺より才能あるよ、すぐ抜かれると思う。毎朝俺の弁当作ったり、学校から帰ってからも頑張って練習してるし。」

「ふーん…あ!もしかして、羽生くんてユウスケくんの面倒見るために早く帰ってるの?」

「んーそういう日もあるけど、バイトの日もある。」

「バイト?リトルガーデン?」

「リトルガーデンも一応バイトだけど家業だから、それとは別に令和通りのカフェでもバイトしてる。」

「え、そうなんだ。私最近あのカフェよく行くよ。」

「知ってる。」

「私は全然気づかなかった…」

「学校と違うメガネで変装してるから。」

「なにそれ…スパイか何かなの?…あ、だから…」

(彼氏がいるって知ってたんだ…)

「そういうこと。」

葉月の考えを読んだように羽生が言った。

「ふーん………なんか…」

「なんか、何?」

「羽生くんの謎が一気に明らかになったって感じ。」

「謎だと思ってるの、荻田くらいだけどな。」

羽生は笑った。

(前はそうだったかもしれないけど…今はみんな気にしてるんじゃないかな。)


「あぁ、これなら無償修理の範囲内で直りますよ。」

「ホントですか?良かった。」

メガネ店のカウンターで葉月は安堵していた。

「30分くらいかかりますので、番号札をお持ち頂いて店内でお待ちください。」

店員はメガネを持って奥の部屋に入っていった。

「30分くらいかかっちゃうみたい。羽生くんどっか行ってる?」

「や、店内見てる。なんか似合いそうなメガネ探してよ。」

「羽生くんて、視力いくつ?」

「両眼2.0。」

「…伊達メガネ探すの?」

羽生は頷いた。葉月は可笑しそうに笑った。

それから30分、二人はお互いにいろいろなメガネを合わせては意見を言い合った。

「20番の方〜」

葉月のメガネの修理が終わった。

メガネを受け取ると、葉月はすぐにかけて嬉しそうに羽生に見せた。

「このメガネ、気に入ってたから直って良かった!」

「あれ?メガネ苦手なんじゃなかった?」

「うん。苦手だったけど…羽生くんが似合うって言ってくれたからちょっと好きになった。だからこのメガネは気に入ってるの。」

「そっか、なら良かった。本当に似合ってるよ、かわいい。」

羽生は優しく微笑んだ。


(え…)


———“かわいい”って思ったら、タイプかな


バーベキューの時に羽生が言っていた言葉を思い出した。

(いやいやいや)


——— みんなかわいいよ


(あのときみたいなリップサービスでしょ。)

頭の中で頑張って否定してみるが、葉月の胸はドキドキと高鳴ってしまっている。

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