第12話 バイト

「進路志望票は来週火曜日までに提出すること。以上で今日のHRは終わり。」


葉月が進路票を見つめている間に、羽生はさっさと帰ってしまった。

(相変わらず素早い…羽生くんのことだからきっと進路とか、もう決めてるんだろうな。)

葉月は葉月でデザイン系の学部がある大学への進学志望を決めている。

(親には大学はOKって言われてるけど、パソコンくらいはバイトして自分で買おうかな…)

葉月は母がデザインに関わる仕事をしているため、家でときどき母のパソコンに触らせてもらっているが、大学でデザインの勉強をするとなると自分専用のパソコンは必須だ。


「バイト?」

「うん。」

デート中のカフェで、葉月は翔馬にバイトをしようと考えていることを伝えた。

「なんの?」

「え…うーんと決めてないけど、こういうカフェとかもいいかなって思ってるよ。」

「いいね。葉月カフェとか似合いそう。」

翔馬がにっこり笑顔で言ったので、葉月は思わずホッとしてしまった。どこかで反対されることを想像していた。

「じゃあカフェのバイト探…」

「でもさぁ」

翔馬が続けた。

「あんまりいっぱいバイト入れないで欲しいな。」

「え?」

「だって俺と会う時間無くなっちゃうじゃん?週1か週2くらいで、土日はナシね。」

「土日が無理だったら、カフェとか無理じゃない?それに翔馬くんは週4でバイトしてるよね…」

葉月が言うと、翔馬はムッとした。

「俺はデート代とかも稼がなきゃいけないし、大学生で時間あるからいいんだよ。葉月は高校生なんだから勉強する時間が大事でしょ?それに何?俺と会う時間減ってもいいの?」

翔馬の顔は笑っているが、口調はどこか高圧的だ。

「…そんなこと言ってない。」

「カフェが無理なら他探せばいいじゃん。」

「……うん…」


(翔馬くんは間違ったことは言ってない…と思うけど…)


(翔馬くんと会う時間が減る、と、勉強する時間が大事ってなんか矛盾してる気がする…)


(週1じゃパソコンのお金貯まるのに時間かかりそう…)


さっきまでアールグレイの香りがしていたアイスティーの味が急にしなくなった気がした。



「あれ、葉月バイト探してるの?」

教室で茅乃が言った。

「うん。買いたいものがあって…」

「えっ週1か2で土日NGって結構条件厳しくない?」

「だよね〜」

葉月は“やっぱり”という溜息をいた。

「何?親に言われてんの?」

「え、あ、うん、そんなとこ。」

「コンビニが無難じゃない?」

「だよねー…」

コンビニのバイトが嫌だというわけでもないが、せっかくなら興味のある職種で働きたい。


「条件て、彼氏が出してんの?」

茅乃がいなくなると、二人の会話を聞いていた羽生が話しかけてきた。

「……うん…」

「メガネのこととかさ、そいつ大丈夫?」

「……優しい、よ…」

「ふーん。」

羽生はあまり信じていないようだ。

「荻田がやりたいバイトをやりたいようにやった方がいいと思うけど。その彼氏、そのうち服装とか行動にも口出してくるんじゃね?」

「…羽生くんには関係ないでしょ。」

「………」

「自分だってお弁当の子がいるんだから、あんまり他の女子のことに首つっこまない方がいいんじゃない?」

「お弁当の子…」

羽生はフッと笑った。

「そうだな、あんまり関心持ったら荻田、俺のこと気になっちゃうもんな。」

羽生はからかうように言った。

「…イケメンは自信満々でいいね。でもそんなことないから。」

葉月はツンとした口調で言った。

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