第8話 バーベキュー

「バーベキュー?」

「そうそうBBQビービーキュー!再来週の木曜日って創立記念日で休みじゃん?だから、クラスの親睦会も兼ねてバーベキューやろうって。用事あったら参加しなくても大丈夫だけど。」

茅乃が葉月に説明した。

「用事ないから大丈夫。参加する。」


「とゆーわけで、バーベキュー…」

「不参加で。」

葉月は羽生を誘ってみたが、けんもほろろに断られてしまった。

「クラスの親睦会だよ?先生もちょっと顔出すらしいけど。」

「親睦深めたいと思ってない。」

「さすが羽生くん…」

とりつく島もない羽生の断り方に、葉月は肩をすくめた。

(まぁ羽生くんは行かないだろうと思ったけどさー最近前よりは打ち解けてきたような気がしたのになぁ…この間のラクガキの件とかさぁ…)


———お礼はするから、なんかあったら言って


(あ)


「お礼…!」

葉月の表情がパッと明るくなった。

「は?」

羽生はいつもの怪訝な顔だ。

「この前、お礼するって言った!お礼にバーベキュー来てよ。」

「ノートの見返りが休みの日のバーベキューって、割りに合わなすぎだろ…」

「でも、羽生くんが条件つけなかったんだよ?思いついたら言って、って。」

葉月は羽生がいつも見せるような不敵な笑みで言った。

「……親睦会バーベキューって、いかにも陽キャが考えそうなイベントだな…。」

観念して仕方なく参加する意思を見せた羽生が呆れたようにつぶやいた。

「バーベキューって料理だよ?楽しいよ、きっと。」

———はぁ…

「………高校では静かに過ごしたいんだけど…」

羽生は溜息をくと、さらに小さな声で何かを危惧するようにつぶやいた。

「雨でも降んねーかな…」

「わーさいてー…」



バーベキュー当日

羽生は約束の10:00に集合場所の河川敷に姿を見せた。

「本当に来てくれた〜!」

もしかしたら来ないんじゃないかと心配していた葉月は、嬉しそうに駆け寄った。

「来なくていいなら、来たくなかった。」

羽生の言葉に、葉月はハハハと笑った。

制服姿しか見たことのない羽生が、ゆるいTシャツに細身のパンツ姿をしているのが新鮮に映る。

(でも今日もメガネ…だいたいあの前髪も邪魔じゃないのかな。)

羽生は葉月と一言二言会話をすると、バーベキューコンロから少し離れた木陰に腰を下ろした。

「え〜調理しないの?」

「やりたい人がやればいいって言ってたけど。」

「羽生くんは料理やりたい人じゃないの?」

「バーベキューに来るとこまでしか約束してない。」

「うわ…めんどくさ…」


「ジャーン!鈴Pすずピーがお肉たくさん差し入れてくれました〜!」

「肉だ肉だー!」

コンロの周りでは茅乃たちが塊肉を前に盛り上がっている。鈴Pとは、担任の鈴木すずき先生のあだ名だ。

「肉切ろうぜ〜!」

「まず炭じゃない?火起こさないと。」

「てゆーか私バーベキュー初めて〜」

「俺に任せとけよ、初めてだけど!」

「野菜とかも切らないとダメじゃない?」

「鈴P火起こせる〜?」

「俺は差し入れと食べる専門。」

「えーーー!」

「肉って焼肉くらいに切ればいいのかなー」

バーベキューに慣れていない会話が繰り広げられている。


「あ、もしかして誰もやり方わかんないパターン?」

葉月と羽生のところまで、会話が聞こえてきた。

「………マジかよ。あんないい肉を…」

「検索したら何かわかるかなぁ…」

葉月がスマホを出してバーベキューのことを調べようとした。


———はぁっ


羽生が一際大きな溜息をいた。

「あんなん見てたらストレスで死ぬ。」

「え?」

「俺の静かな高校生活を邪魔したこと、恨むからな。荻田。」

そう言って立ち上がると、羽生はコンロの周りのグループに入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る