第6話 暗闇

「友だち?」

『うん。葉月のこと話したら会いたいってさ。次の日曜にみんなで遊園地行こうって。』

葉月は翔馬と電話で話していた。

「遊園地…」

『嫌い?』

「ううん!好き。おばけ屋敷とかはちょっと苦手だけど。」

『じゃあ絶対おばけ屋敷行こ。』

「えーひど〜い!」

二人は電話越しに笑い合った。


(日曜は行きたい展示があったけど…遊園地も楽しそうだからいっか。翔馬くんの友だちってことは大学生だよね…大人…)


日曜日

「高校生なのに大人っぽいね〜!」

遊園地の入口前で葉月は翔馬の友人たちに囲まれていた。

「いいなー女子高生ー!」

男子も女子も“女子高生”の葉月に興味津々だ。“高校生”や“女子高生”を連発されて、葉月は教室で興味のない話を聞いているときと同じような愛想笑いをしてしまう。

「お前らあんまりグイグイ来るなよ、葉月がビビってんじゃん。」

「そんなことないよ!大丈夫です、よろしくお願いします!」

葉月は緊張気味にペコっと頭を下げた。

「か〜わい〜!」

そう言われた葉月はまた、ハハハと愛想笑いをした。


その後はみんなでジェットコースターやゴーカート、シューティングゲームを楽しんだり、食事をしたりして楽しい時間が過ぎていった。


「え…!ヤダって言ったのに…」

おばけ屋敷の前で葉月はかたまっていた。

「絶対行くって行ったじゃん」

翔馬は笑いを含んだ声で言った。

「はいはい!お二人さん!入口でイチャついてないでさっさと入って!」

翔馬の友人が強引に二人をおばけ屋敷に押し込んだ。


———バッ

「きゃっ…」

半分子ども騙しのようなおばけ屋敷だが、葉月はちょっとしたことに驚いてしまう。

「し、翔馬くん、私暗闇がダメなの…」

葉月は震えた声で言った。

「手ぇつないでてあげるから。」

翔馬は軽く言ったが、葉月は翔馬の手を握り、もう片方で腕にもしがみついていた。

「あ…そうだ、メガネ…」

少し広くなった休憩地点で葉月がメガネを取り出そうと翔馬の手を離そうとすると、翔馬が葉月の手を強く握った。

「え?翔馬くん?」

「メガネ好きじゃないって言ったじゃん。」

「え…?でも暗闇が…」

「手ぇつないでるじゃん?」

「あ、あの…おばけ屋敷から出たらメガネ外すから…」

「ダメだって。」

そう言うと、翔馬は葉月の顔を手でクイッと自分の方に向かせてキスをした。

「ん…っ」

「メガネしてたらキスしにくいじゃん。それに、びびってる葉月って新鮮でめっちゃかわいい。」

翔馬は葉月の頭を撫でた。

(………)

結局、葉月はメガネをかけることは許されないままおばけ屋敷を出ることになった。


遊園地を出ると翔馬の友人たちと別れ、翔馬が葉月を家まで送り届けた。

家の前で、翔馬はまた葉月にキスをしようと葉月の顔に手をあてた。

———フイッ

葉月は思わず顔を避けてしまった。

「あ…」

翔馬が一瞬で不機嫌そうな表情かおになったのがわかった。

「ごめん、えっと…日曜日はお父さんたちが何時に帰ってくるかわからないから、見られるかもってちょっと気になっちゃって…」

「ふーん、ならしょうがないか。じゃあ、また電話するから。」

翔馬は葉月の家を後にした。

翔馬の背中を見送りながら、葉月はおばけ屋敷の暗闇での出来事を思い出していた。


———少なくとも俺のせいで荻田が大変な思いする必要はないから


ふいに羽生の言葉が頭をよぎった。

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