第4話 メガネ


「今日、メガネ買いたいなって思ってるんだけど…」

週末、葉月は翔馬と出かけていた。

「え、メガネ?葉月って目ぇ悪いんだっけ?」

「んー…見えないわけじゃないんだけど…」

一番後ろの席はやはり黒板が見えづらいと感じることがある。

「正直メガネってあんまり好きじゃないんだよなー。なんかクソ真面目?に見えそうじゃん?」

「え…そうかなぁ…」

あからさまに嫌そうな表情かおをする翔馬に、葉月は少し戸惑ってしまう。

「あ、でも授業中にかけるだけだよ?普段はメガネしなくても大丈夫。」

「ならいいけど。」

(………)



「あー!葉月、メガネ?かわいい〜!」

休み時間、教室で茅乃が言った。

「一番後ろってちょっと見えにくくって。」

「いいじゃん、メガネしてると葉月って結構知的に見えるね。」

「なにそれ〜メガネしてなかったらどう見えるの?」

茅乃はアハハと笑うと、トイレに行くと言って教室を出て行った。


(メガネ…私もあんまり好きじゃないけど、この間の翔馬くんの反応はさすがにショックだったかも…)


——— なんかクソ真面目?に見えそうじゃん?


(そんなイメージなんだ。)

葉月はチラッと隣の羽生を見た。

(たしかに羽生くんとかも真面目そうに見える…………って…んんん…?)

葉月は羽生のメガネをジーッと見た。

「羽生くんのメガネって…」

いつも通り本を読んでいた羽生が葉月の方を見た。

「もしかして伊達だてメガネ…?」

「………」

面倒そうな表情かおで黙って本に視線を戻した羽生のメガネをよく見ると、度が入っているメガネに見られるレンズの中と外の顔の輪郭のズレがない。

「なんで!?」

自分が嫌だと思っているメガネをわざわざ度が入っていない状態でかけている人間がいることが不思議で仕方ない。

「…荻田に関係ない。」

「関係なくてもさすがに気になる。」

「女子が指とか耳につけてるのと変わんないだろ。」

「アクセサリーってこと?」

羽生のメガネはファッション的なオシャレなフレームのメガネではなく、真面目そうなフレームのものだ。

「本当に…?私はメガネしたくないけど仕方なくつけてるんだけど…」

「…なんで?」

葉月が溜息まじりにつぶやくと、羽生が珍しく反応した。

「え…」

「なんでメガネしたくないの?」

「え…えっと…自分ではなんかフレームが視界に入って気になるし…それにクソ真面目に見えるって…」

「あぁ、彼氏おとこに言われたんだ。」

羽生がフッと笑った。

「そ、そうだけどっ?」

葉月は“それが何か?”と言うように、彼氏の話題に動揺しないふりをしてみせた。

「似合ってるけど。」

「え」

「荻田、メガネ似合うと思うけど。かわいいよ。」

「………」

羽生が言ったことを理解すると、葉月の顔は一瞬で真っ赤になってしまった。

「その反応ウケる。」

「ウケるって…からかわないでよ…!」

(羽生くんの“かわいい”は間に受けちゃいけないやつだ…)

そう思いながらも、葉月はなんとなくメガネを買って良かったような気がしたし、メガネをかけるのが嫌だった気持ちも消えそうな予感がした。


(料理の本ばっかり読んでて、誰ともつるまないで、彼女の手作りらしきお弁当食べてるのに彼女はいないって言って、伊達メガネをかけてる羽生くん…ますます謎だらけ。)

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